5 アドームル男爵領
「アドームル男爵領に着いた」
「つ、着き、ました、ね」
四つん這いになって大地を噛みしめている。大丈夫だろうか? スピードを落として走ったけど駄目だったみたいだ。
「大丈夫ですか? ディーアさん」
「だ、大丈夫です。世界が、回って、いますけど、平気です」
とりあえず夕方だし、宿屋で休もう。ディーアさんを背負子に乗せて町の門を通る。門番に呼び止められた。
「どうして、その女を背負っているのだ?」
「体調が悪くなって立往生していたら、優しい大人の人が背負子を貸してくれたので、背負って来ました」
「そうか、優しい子だな。お嬢さんも体を大事にするんだぞ」
「宿泊する宿のお勧めはありますか?」
「お勧めか? そうだな、この道を真っすぐ行ったら四つ角の右手に宿屋があるぞ。一階は食堂で飯も美味い」
「ありがとうございます」
「しかし、坊主は上等な服を着ているな。お嬢さんも……騎士服? ちょっとコッチに来い」
門から入った事なかったから門番に止められて、部屋に連れてこられた。……どうしよう。
「私は、ディーア・ダンムレイ。 騎士として、アドームル男爵領に、用事が、あり、来ました。こちらの、子供は、協力者、です」
体調不良でなんとか話すディーアさん。誤解が解けたようで、門番の人達は頭を下げて謝る。
「馬車を用意しました。これで宿屋にご案内します」
馬車に乗って、案内役の門番二人と宿屋に行く。門番達が宿屋の主人と宿泊の交渉をして、オレ達は門番と宿屋の従業員に案内された部屋で一息ついた。
「ありがとうございました」
「いえ、騎士様の体調が治るように、宿屋の主人に薬を用意してもらっています。食事も食べやすいモノを用意すると言っています」
「重ね重ね、ありがとうございます。」
「上司から、騎士様の手伝いを任されました。扉の前に待機しているので、御用があるときはお呼びください」
そう言って部屋を出た。本当に待機しているよ。大丈夫かな、勤務外労働じゃないか?
部屋は二人部屋で、一つのベッドにはディーアさんが休んでいる。……唸っているな。大丈夫かな?
そういえば、お腹が減ったよ。一階で夕食を食べるか。
そうだ! 門番の人達と一緒に食べるか。情報収集も出来て一石二鳥だ。ゴーイングさんが用意した荷物の中から財布を……結構あるな。
荷物の中にオレの変装道具、小さき守護者の変装用の仮面とマントも入っている。他にも簡易食料や水筒などもあるな。……あれ? ディーアさんの荷物は? ゴーイングさんが忘れたのかな?
部屋を出て門番二人と夕食を取る事にした。食事代は経費で落ちるようにして、ディーアさんの夕食も部屋に戻るときに用意してもらう。
「騎士様の体の具合はどうですか?」
「多分、寝たら治ると思います」
「どうして騎士様は、この町に?」
「用事と言っています。詳しくは知りません」
そんな感じで始まった会話から世間話に入る。酒が入れば口も軽くなるだろう。
「それで、アドームル男爵が病に倒れて、お孫様が頑張っているらしいけど、上手くいっていないって話だよ」
「なんでも、新しく入った部下達から反対される事が多くて、仕事が上手くいっていないって」
「門番の給金を減らす案件も部下達と争っているそうだ」
「酷いよな。オレ達は一生懸命働いているのに」
「大変ですね、飲んで忘れましょう。それで男爵様の病気は大丈夫なのですか?」
「詳しくはわからないが、寝たきりらしいぞ」
「確か一年くらい前に体調を崩したとか」
「そしてお孫様が、当主の代わりに仕事をしているなんて、若いのに素晴らしいですね。このお肉は美味しいですね。お酒に合うのではないですか?」
「美味いだろう、領内で飼育している牛肉だ。若様はオレ達、門番にも挨拶をしてくれる貴族様でよ、当主様の自慢の御孫様だ」
「当主様の御息女は綺麗な御方でよ。うちの領地で一番の美人なんだぞ!」
「何を言っている! 王国でも五指に入る美人だ!」
……美人合戦しないでくれ。美人ランキング入賞とか、大陸でも十指に入るとか、美人四天王の一角とか、良く分からん。
「その旦那さんは子爵の出の婿養子だけど、仕事で他の領地に行ったりして忙しく、奥様は当主様の看病で大変らしい」
「子爵家から来た部下が男爵家の仕事を手伝っているが、そいつら嫌な奴等でよ。そいつらのせいで領地の税も上がって大変なんだぞ」
……なるほど。当主様は病気で御息女は看病、その婿養子は他の領地に行って忙しく、孫は当主の代わりに仕事をしている。婿養子の実家から来た部下が仕事を手伝っているらしい。
「それに他の領地から貴族や商人達が入ってきて住民達と騒動を起こして、治めるのに苦労しているよ」
「奴らはやりたい放題で住民達を抑えるのに大変だよ」
「領地に来た人達の数も多いし、何しに来ているのやら」
他にもいろいろ聞いていると、他国の人間と思われる商人が町に来たりしているそうだ。男爵の許可証があったから門番達は通行を許可したらしい。
夕食が終わり、門番達は帰した。これ以上、一緒に居る必要はないし。門番達は引き下がっていたが、オレの方が偉いので命令をして帰した。
部屋に戻り、男爵家の情報を仕入れるために、変装して男爵家に行く事にした。
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