3 新しい任務
今日もミリアリアの毒舌が光っていた。輝いていた。素晴らしい毒舌だった。……泣きそう。
令嬢達のドレス選びが始まるので、自動ドアの任務を終えて、城での部屋に戻ろうと考えるけど、気分転換に中庭で日光浴でもして、傷ついた心を癒そう。
そう思って中庭に行ったら先客が居た。ベルファルト殿下だ。久しぶりに見るな。なにやら下を見ながら暗い顔をしてベンチに座っている。
どうしたのかな? 近づいて話しかけよう。
「ベルファルト殿下、お久しぶりです。如何されました?」
オレの声に反応してこちらを振り向く。怒りだした。
「貴様のせいで、父上に叱られただろうが! この無能が!」
そう言ってオレを突き飛ばし、中庭から出て行った。……オレが何かしたのか? ショックで動く事が出来なかった。オレって王族に嫌われているのかな?
ベルファルト殿下が座っていたベンチに座って考える。日光浴したかったが運悪く、太陽が雲に隠れた。……悲しい。
「アルムエルグ様、先王陛下がお探しです」
中庭に来た侍女さんが伝える。礼を言ってオレは先王陛下のもとへ向かった。
「アルム、良く来た。ミリアリアと一緒にエルドラージ王国の令嬢達と会ったらしいが大丈夫だったか?」
「いつも通りです。大丈夫ですよ」
さすがに毒舌で傷つきましたとは言えないよ。でも大丈夫! オレはあの程度の毒舌では傷つかないよ! 虚勢を張って頑張るよ!
「すまんな。ミリアは恥ずかしがり屋だからな」
その言葉を信じて良いのでしょうか? 今回は自動ドアと言われましたよ。
今回、部屋には先王陛下の後ろで待機しているゴーイングさんと宰相さんがいる。珍しい組み合わせだな。
「アルムよ、バルデハイム王国の現状を説明する。ゲックハルトよ、説明をしてくれ」
宰相さんがオレに説明をする。
一つ目はエルドラージ王国の令嬢の件。他国の王族と貴族令嬢が国境を無許可で越えた事で、エルドラージ王国に何かしらの要求を考えているそうだ。
「……要求が必要なのですか?」
「令嬢達を保護したから、謝礼として見返りをよこせと言っているだけだ。一部の貴族達が言っているが、ワシらはそんな考えは持っておらん」
「先王陛下の言う通りです。私はこれを機に同盟を結びたいと思っています。現在、我が国はローデンファングを吸収しました。しかし他国が戦争を仕掛けてくる可能性が出てきたのです。現在、我が国を狙っている国は、ヨーデンポリー王国を滅ぼしたエルドラージ王国と、ローデンファングの隣の国であるアスタテスラ国です。二つの国を相手にするのは難しいので、エルドラージ王国と同盟を結ぼうと考えています」
なるほど。要求とは同盟を結ぶ事か。でも信じられるのかな?
「そして二つ目はベルファルト殿下を誘拐しようとした者の黒幕に手を引かせる事です」
黒幕? 誰それ? 手を引かせる?
「今回のベルファルト殿下誘拐未遂事件の依頼主はクックスライド様です。陛下の弟君で王族を外され、王位継承権は剥奪されて、他領で謹慎中でした」
陛下の弟君のクックスライド様の事は噂で聞いた事ある。なんでも王子である事を理由にやりたい放題していたそうだ。そしてそのときの陛下、先王陛下がクックスライド様に罰を与えた。
「謹慎先のアドームル男爵領で他国の者と共謀して、謹慎を解いて王位継承権を取り戻そう思ったのでしょう。行方不明となったベルファルト殿下を助け出し、王位継承権の復旧と謹慎を解いて貰おうと考えたと予想できます」
「馬鹿の考えるような事だ。その程度では罪は償えないのに」
何をしたんだ、王弟様は? 先王陛下がそこまで激怒するなんて。
「問題は誰が計画を考えたかです。アドームル男爵家当主とは考えられません。あの方は先王陛下が信頼した貴族ですし、謹慎先に選ばれた土地でした。アドームル男爵がそのような事を許すはずありません。それに依頼金をどうやって用意したのかも不明ですし」
「アドームル男爵はワシが現役の頃の宰相補佐として働いてくれた。本来、馬鹿息子を国外追放予定だったが、アヤツが職を辞める覚悟で減刑を求めたので謹慎となったのだ」
「アドームル男爵はクックスライド様の教師役を務めていました。責任を感じたのでしょう」
思い出すように先王陛下と宰相さんがアドームル男爵の事を言う。先王陛下に信頼されるとは凄い人だったのですね。
「話を戻します。それで今回の黒幕はエルドラージ王国だと考えています」
とんでもない発言をしたな。どうしてそんな考えに?
「アルムエルグ様が密偵達を捕まえて、吐かした話の内容をまとめると、アドームル男爵領で動いているエルドラージ王国の密偵や商人が多いのです。エルドラージ王国が介入していると判断しました」
……そういえば賊や密偵や不正貴族を何十人も簀巻きにしたんだよね。今回のアジト殲滅で合計三桁の人間を簀巻きにしたな。
「陰謀を打ち砕いて力がある事を見せつけ、令嬢達を助けた恩を売り、エルドラージ王国と同盟を結ぶ。それが今回の計画です」
力を込めて言う宰相さん。しかしどうすれば良いのだろうか、解決策は?
「クックスライドと計画犯を簀巻きにして王都に連れて来い。そいつらをエルドラージ王国側に渡して脅してやる。ついでに密偵の死体も返してやろう」
脅すって先王陛下、まだ怒っているのですか? それよりも計画犯を探す方法は?
「今回は私の配下の者と一緒に行って貰いたいのです。私の親族で構成魔法が使える者を用意しました。その者と一緒に計画犯を探してください」
「アルムにも部下が必要だろう。本当ならワシが部下を探して付けようと思っていたが、ゲックハルトが用意した部下で妥協してくれ。しかしワシが面接したのだから問題ないはずだ」
宰相さんの親族と一緒に犯人を探すのか。でも大丈夫かな? ゴーイングさんみたいに優しい人なら良いんだけど。間違っても宰相さんの息子で学友のデーデルのような嫌な奴ではないと願いたい。
先王陛下がゴーイングさんと視線で会話して部屋を出た。多分、同行者を連れてくるんだな。
「今回の任務はクックスライドと犯人を簀巻きにする事。アドームル男爵領は徒歩で一日の距離だ。アルムなら一時間で行けるだろう。そして二日後にはパーティーがあるからその前には帰ってくるように」
「二日で終わらせるのですか!」
短くない? 準備に一日、アドームル男爵領で一日、簀巻きにした者達を連れて帰るのに一日。最低でも三日かかるよ!
「一時間以内に準備して出発、一時間でアドームル男爵領に行き、次の日までに犯人を捕まえて、罪人の連行は同行者に任せてアルムは帰還すれば一日で済むぞ」
そんな予定で行動するの? 準備に一時間って、同行者と面会したら出発? まさか背負って連れて行くの?
「もしも、期日内に犯人を捕まえる事が出来なくても、二日後には戻ってくるように。お前もパーティーに出席するのだからな。なにアルムなら簡単だ」
先王陛下が無茶を言う。笑いながら簡単簡単って、そんな簡単な任務じゃないと思うよ。ため息をついているとゴーイングさんが戻ってきた。一人の女性を連れて。
「紹介しよう、名前はディーア。騎士団所属の魔法使いで私の姪である」
宰相さんが自信を持って言う。腰までありそうな長い水色の髪を後ろで纏めているローブを纏っている勝気な女性。歳はエリスさんくらいかな?
「ディーア・ダンムレイです。よろしくお願いします。先王陛下の側近であるゴーイング殿の部下という形になっていますが、アルムエルグ様の部下として頑張ります」
男性だと思っていたが女性とは……。
「詳しい情報はディーアに伝えてある。部下として存分に使ってくれ。命令違反したら簀巻きにして放置しても構わない」
「命令違反などはしないと思うがな。万が一、アルムを下に見るような態度を取ったら、どうなるか分かっているから」
宰相さんと先王陛下。ディーアさんに何を言ったのですか? 勝気な表情が泣きそうな顔になっているよ。
「ディーア殿、よろしくお願いします」
「私の事はディーアと呼び捨てにしてください。今からアルムエルグ様の部下となるのですから」
「……内密の事ですから、呼び捨ては勘弁してください」
「わかりました」
良くわからないうちに部下が出来ました。こんな感じで良いのだろうか?
「出発の準備はゴーイングに頼んで終わっている。経費と着替えだ。ディーアに持たせておくが良い」
「それからディーアと一緒に行動するために、背負子を用意した。強度や安全を考慮して少し重くなっているがアルムエルグ殿なら問題ないだろう」
女性を背負子に乗せて移動しろと? 宰相さんは何を考えているの!
「ほれ、アルム。早く背負ってアドームル男爵領に行ってこい。二日後には戻って来いよ」
「ディーアも早く支度をしろ。ゴーイング殿、手伝ってくれ」
「わかりました。念の為にディーア殿の口を塞いでいた方が良いのでは?」
「そうだな。叫ばれたら気付くものが居るかもしれん」
背負子に女性を背負った子供。なんともいえない絵柄だ。部屋の中で口を塞がれ背負われているディーアさんは少し混乱気味だ。
窓から飛び出して行くのですね。私の準備が終わっているので今から出発ですね。
「……では行ってきます。ディーア殿、あまり動かないでくださいよ」
そう言って窓から飛び出してアドームル男爵領に向かった。後ろからムームーと絶叫している声が聞こえる。
ごめんなさい、なるべく安全なルートを使って移動しますから。
閑話 姫様頑張る 学友コレート視点
騎士団長である父上の命令でミリアリア様の学友となりました。ミリアリア様の成長を手助けするのが学友としての務めです。しかし予想以上に大変で当初、頭の悪い私にミリアリア様の学友が務まるか心配でしたが、今ではそれ以外の事が心配です。
「ミリアリア様、ダンスの稽古です。今回もパートナーはコレートが務めます」
「よろしくお願いします。ミリアリア様」
現段階では私がアルムエルグ様の背に近いのでミリアリア様のお相手を務めています。
「……アルム様と踊りたい」
「毒を吐かなければ許可しますけど、諦めてください。コレートをアルムエルグ様と想ってください」
ミリアリア様とファムは良く言い争っていますが仲が良い証拠です。私は二人の会話を聞きながら見守ります。
「そうだわ! コレートにアルム様の服を着せてみてはどうかしら? 服にアルム様の匂いが残っていて良い匂いがするはずよ!」
……私がアルムエルグ様の服を着て踊るのですか? それは構いませんが……、
「アルムエルグ様の香りが残っている服など、王宮には……ありません!」
「あるわ! 王宮のアルム様が寝泊まりをしている部屋には服があるはずよ! コレート、持って来て着て頂戴!」
さすがにそれは……。男性の服を着るのなら、まだ良いとして。持って来るのは……。
「コレートに何をさせる気ですか! そんな破廉恥なこと許可できません!」
破廉恥? 服を着る事が破廉恥なのですか?
「アルム様の下着を盗んで来いなんて! ミリアリア様はコレートを変態にする気ですか!」
下着を着るのですか! それも男性の! 流石にそれは無理です!
「ミリアリア様、上着を着る程度でしたら大丈夫ですが、流石に下着を着るのは」
確かに弟の下着は見たことありますが、着た事はありません。私も女性ですからそのような事は勘弁したいです。しかし、
「ミリアリア様の御命令でしたら、私も覚悟を決めます! ですが洗濯済みの下着でお願いします」
流石に未洗濯の下着は嫌です! 弟の下着すら触りたくないのに。
「ミリアリア様のせいでコレートが変な覚悟をもってしまいました。これではコレートがお嫁に行けません! 騎士団長になんて言えばよいのですか!」
私も凛々しく強い男性と恋愛したかった。見知らぬ恋人様、申し訳ございません。
「さすがに下着を取って来いなんて言っていないわよ。上着とかで良いのだけど……」
「大丈夫です。覚悟を決めました。私は一生未婚で、ミリアリア様の騎士になります!」
「ミリアリア様! どう責任を取るのですか! コレートが覚悟を決めましたよ! ごめんなさい、コレート。貴方に辛い思いをさせて……。私も覚悟を決めるわ!」
「駄目です! ファムは私の分まで結婚して幸せになってください! 出来ればファムの子供の名付け親にして頂けるだけで、私は満足ですから」
「ごめんなさい、コレート。弱い私を許して……」
「ファム……」
「そうだわ! 私がアルム様の服を着れば良いのよ! 婚約者だから下着も可能よね!」
「……ミリアリア様、最悪です」
「……流石にその発想はありません」
「エリスお姉様にアルムエルグ様の服のチェックを心がけて貰いましょう」
「部屋の掃除中に男性の衣服があった場合は焼却してもらいましょう」
「ドックライム公爵夫人に連絡しなければ」
「王妃様にも伝えた方が良いと思います」
ミリアリア様を王族として、淑女として成長の手助け出来るのかが心配です。本当に。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




