十一歳③
お茶会が終わって屋敷に戻った。今日のお茶会は少し疲れた。……昔はとてつもなく気落ちして疲れたお茶会だったからな。それを考えるとミリアリア様の毒舌に慣れてきたのだろうか。
「おかえりなさい。アルム」
めずらしく母が屋敷に居た。母は王宮と神殿でミリアリア様の教師をしているが今日はお茶会で休みだったんだな。
「お茶会はどうでしたか?」
「楽しいお茶会でした。ミリアリア様の学友を紹介してもらいましたよ。そういえば王妃様達に私の昔の話をされていたみたいですね」
「子供を持つ母の特権です。我が子がいかに面白く育っているかを友人に教えなくてどうしますか」
「王妃様ってミリアリア様の学友や側近にも喋ってしまいましたよ」
「お茶会の話のタネになって良かったですね」
もう良いです。私の昔話でお茶会が明るくなるなら……。そして私は前に言った言葉を母に言った。
「ミリアリア様の婚約の件ですけど」
嫌われているから婚約解消を願ったのだけど、返事はいつも同じだ。
「駄目ですよ。先王陛下が頭を下げて結んだ縁です。断るなんて事出来ません。ミリアリア様も貴方を嫌っていませんよ。ただ恥ずかしがっているだけですから」
同じ返事で何も言えない。ミリアリア様が恥ずかしがってあのような毒を吐いたり、悪辣な言葉を並べたり、オレを低評価するのが恥ずかしいから?そんな訳ないじゃないか!
「貴方は広い心を持ってミリアリア様を受け入れなさい。婚約者としての責務ですよ。では私は王宮に上がります」
そう言ってオレと別れようとしたが待ったをかける。
「母上、ラルーシャの件ですがどうして私は嫌われているでしょうか?」
これも前に言った言葉だ。
「ラルーシャの件は私が後日教育をしますから貴方は心配しなくても良いです」
その後の言葉は初めての内容だった。
「貴方が十二歳になったとき、先王陛下が王都に戻って来るときですね。ミリアリア様の教師役が終わりますから私はラルーシャをつれてローデンファング公国に行く予定です。その時にラルーシャを教育しますから心配ありませんよ」
そう言って母は王宮に向かう準備をする。来年は母も妹もローデンファング公国に行くのか。兄は王宮勤めになるし寂しくなるな。屋敷に居るのはオレと叔父だけになるのか……。そんな事を考えてオレは自室に向かった。
※
お茶会が終わって屋敷に帰って来た息子のアルムを出迎えた。今度は上手くいったのか聞いてみる。……前回よりもマシのレベルの様ですね。
アルムの母として本当は真実を言いたいのですが王族から口止めをされている。ミリアリア様の祝福の呪い。矛盾しているがこれはアルムとミリアリア様にとっては呪いである。この呪いのせいでアルムは傷つき、ミリアリア様も悲しんだ。そのような二人をどうして婚約させたのか!先王陛下の思い付きは理解に苦しみます。先王陛下は恩人だからという。ミリアリア様もアルムの事は嫌っていない。むしろ好いて祝福を封じる為に辛い修行を受け続けた。
私が教える事が減ってきて、先日陛下にローデンファング公国に行く許可を貰った。夫の心配も有ったしなによりラルーシャの件があった。ラルーシャはどうしてなのかアルムを憎んでいる。私は兄妹に同じような愛情を与えていたのにどうしてこうなったのでしょう。
いつの間にか使用人に当たり散らして使用人達から嫌われ、ラルーシャが部屋で火遊びをして騒ぎになり、怒った夫は反省の為にラルーシャを公爵領に向かわせた。私は反対したのですが夫は本当に怒っており話をしても駄目でした。本当は私もラルーシャと一緒に領地に向かうはずでしたが、急な用事が出来て義理の父と弟にラルーシャを頼みました。
急な用事とはアルムがミリアリア様の婚約者となりお茶会に同席をするようになった事です。ミリアリア様に初めて会ったのは王妃様が開いたお茶会でミリアリア様は天使の様な子供だった。婚約者となった息子と一緒のお茶会では、その天使が息子に毒舌を吐き、更に私まで被害にあった。気分を悪くして私はアルムと一緒に屋敷に戻った。
帰り道に気落ちしたアルムにミリアリア様に何かしたのか聞いてみたら、ミリアリア様は初めて会った時から毒を吐かれていたと言っている。後日、王妃様とミリアリア様から謝罪の手紙が届いた。本当なら返事を書くなり会うなりすべきなのだが、ミリアリア様の毒舌の影響で二人に会う事が出来なかった。
二回目のお茶会が終わり、私は屋敷で待っていて、気落ちして帰って来た息子にお茶会の事を聞く。
「……無礼はしませんでした」
それだけ言って部屋に戻った。後日、王妃様から聞いてみたら前回よりも酷いお茶会でミリアリア様も何故か泣き崩れたそうです。王妃様がどうして毒舌を吐くのか聞いても分からず二人で先王陛下に婚約解消を願いましたが却下されました。そして更に二人の間を取り持ってくれと言って頭を下げられたのです。……これでは何も言えません。
王妃様と相談して三回目は台本を作成してそれに沿った流れでお茶会をする事になりました。三回目は途中で終わり無駄な努力となりました。それでもお茶会は最初から酷い内容から始まり、アルムが砂糖水を五杯飲んだときは、あの子の忍耐力を褒めました。
四回目のお茶会を考えていたら、先王陛下がアルムとミリアリア様の関係者を集めて会議を開きました。私は婚約解消の事だと思っていたのですがミリアリア様の祝福と呪いの話だったのです。
この話を聞いてミリアリア様は私に神聖魔法の師匠を願いました。……良いでしょう。私は厳しいですよ! ついて来られますか?ミリアリア様の神聖魔法の師となり姫は勉強に礼儀作法にダンスに魔法に頑張りました。途中で学友も参加して効率が上がり私の教える事も減ってきました。
この調子なら来年は神殿で本格的な修行をした方が良いでしょう。魔封じの魔法を覚えるにも専門の者に教えて貰った方が良いですから。そして今、私は王妃とミリアリア様に会う為に王宮へ向かっている。四回目のお茶会の内容を聞く為です。
案内された部屋に入ると反省会が開かれていました。
「お茶会は如何でしたか?」
「こちらが報告書です」
ミリアリア様の側近のエリスさんから報告書を貰って目を通す。……悪い内容ですけど、一回目や二回目よりマシな内容でした。
「次のお茶会では他の人を呼んでは如何でしょうか?話が広がります」
「駄目です!アルムエルグ様とミリアリア様の不仲が噂になります!」
「ではベルファルト殿下と一緒なら?」
「止めた方が良いでしょう。私の弟がベルファルト殿下の学友です。今回のお茶会にねじ込めと私に言ってきました。ベルファルト殿下をお茶会に招待したら学友もお茶会に参加させる可能性があります」
「では恐れ多いですが陛下をお茶会に参加させるのはどうでしょう?」
「先王陛下に参加して頂くのはどうでしょうか?」
「公爵夫人もお茶会に参加しませんか?」
ミリアリア様のお茶会は気が滅入るので参加はやんわりと断りました。
「それでアルム様は大丈夫でしたか?気落ちしていませんか?」
「ミリアリア様、今回はそんなにダメージを負わなかったようです。しかし気落ちしてはいましたよ。報告書を読みました。今回も結構なお茶会のようでしたね」
「ウー」
「唸っても結果は変わりません。王妃様も大変だったでしょう」
「ミリアリアが神聖魔法の魔封じの魔法を覚えるまでの辛抱です。して学院に入るまでには覚えられそうですか?」
「この調子でいけば可能でしょう」
ミリアリア様の側近や学友の方々が喜んでいます。手を取り合って、抱きしめあって喜んでいる皆さん。
「頑張りなさい、ミリアリア」
「はい!絶対に覚えます!」
信頼しあっている親子の会話を見て私も娘とこの様な会話が出来る事を願いました。
閑話 姫様頑張る~夢編~
「おはようございます。ミリアリア様。どうしました?」
「おはよう!ファム。今日はとてもいい夢を見たの!」
「どんな夢ですか?」
「私とアルム様が神殿で結婚式を挙げる夢だったわ!」
「素晴らしい夢ですね」
「でもその途中で、その結婚待った!と言ってアルム様が乱入してくるの!」
「?」
「そして私の隣にいるアルム様と乱入してきたアルム様が私の為に決闘をはじめて、窓から侵入してきたアルム様に抱かれて神殿から連れ出されたの」
「……アルムエルグ様が三人いませんか?」
「三人のアルム様が私を奪い合っていたわ。それから七人も増えてアルム様が私と結婚する為に競い合うの!」
「……合計十人のアルムエルグ様ですか。想像が難しいですね」
「そうかしら、そして最後に勝ち残ったアルム様に私は接吻をする事になったら、アルム様が増えてみんなで競い合う事になったわ!」
「更に増えたのですか? 十人から更に増えたのですね!」
「いっぱい居たわ。なんて素晴らしい夢だったのでしょう。その夢の私は普通にアルム様と話していて楽しかったわ」
「……それは良かったですね。」
「競い合った結果、五人まで減ってね。その後はバトルロイヤルで決める事になったの」
「それまでは何で競い合っていたのですか?」
「……なんだったかしら?とりあえず五人が戦って最後の一人になったときに夢から覚めてしまったわ。あと少しで……」
「残念でしたわね。夢とはいえアルムエルグ様と接吻する事が出来なくて」
「残念だったわ。夢の続きを見る方法ってないかしら?」
「……夢ではなくて現実でされたら良いと思います。その為にも神聖魔法の修行を頑張ってください」
「もう一回寝たら夢の続きが見えるかしら?」
「そのような事はありません。夢はしょせん夢です。夢よりも現実を生きましょう」
「ファムって現実的ね。もっと夢を見た方が良いわよ」
「私の夢はミリアリア様が魔封じの神聖魔法を覚えてアルムエルグ様と普通の会話をする事です!」
「ファムの夢が現実になる為に頑張るわ! でも一回くらい試しても良いわよね」
「駄目です! 今から勉強の時間ですよ!」
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




