十一歳②
城に賊が入った数日間は王宮では警備兵が増えた。王宮だけではない。ミリアリア様が修行している神殿や城下町も警備兵が増えて騎士達が街を巡回する。王族や要職についている貴族達にも護衛が付いてベルファルト殿下は居心地が悪そうだ。
「私にかかれば賊など一撃で倒せる!」
「賊などに侵入を許した騎士達などに警備が務まるのか?宮廷魔術師が警備に就くべきだ!」
「何を言っている。賊の侵入を許したのは平民の騎士だ。貴族の騎士がそのような失態をするか!」
などと護衛に就いていた騎士の皆様に文句を言う学友二人。オレは騎士達に謝っておく。
ベルファルト殿下も賊が城に侵入した事を知ったときは驚いていた。そしてミリアリア様に女性の護衛をつけるよう陛下に進言していた。陛下は剣術を使える女性を護衛に就けて剣術が使える学友も付けたそうだ。
妹思いの殿下だな。……オレも叔父と相談して妹に護衛を就けた方が良いのではと考えたので進言してみたら、妹には護衛は就いていた。叔父はオレにも護衛が必要か? と聞いたが辞退した。オレよりも妹に就けてくれと頼んで断った。
そして今回の件でオレは考えた。今回は運良く賊を見つけたが、今後はどうだ?なにか賊を見つける為の特技が必要ではないか?
訓練の結果、特定聴力強化を覚えた。説明しよう、特定聴力強化とは特定の地域、特定の単語を聞き拾う技術で城内から聞こえる「殺す」「死ね」「暗殺」「盗む」「奪う」等の言葉を拾う技術である。これで重要な会議等の内容は聞こえないし、その単語を使った者を優先して聞く技術である。
ただし集中力が必要でこれを使うと他の事が疎かになってしまう。暗殺者はいつ襲ってくるかわからないから暇な時、勉強の合間、歩いている最中、就寝時間などを利用している。
お蔭で寝不足になったり、勉強に集中できなくなり、移動中に使って人や壁に当たったりしてベルファルト殿下から注意された。
※
今回の失態は有るまじき事だ。騎士団長を辞任されてもおかしくはない。バルテハイム王国の騎士のトップである私はそう思っていた。
「先王陛下はなんと?」
「うむ、父の子飼い者だから心配するなと。何かあったら責任は自分が取ると言っている」
先日の賊が侵入して先王陛下の配下の者が撃退した。その事を受けて私は辞職を申し入れようとしたが陛下から却下された。
「確かに重要書類を盗まれて死者が出たが、お前に騎士団長を辞められるのは困る。罰が必要なら宰相も辞任しかねん。宰相の目の前で書類が盗まれたのだ。あやつも後悔している。責任を感じるのなら二度と賊の侵入を許すな!」
陛下の恩情に感謝して私は宰相の執務室に向かった。
「この度はすまなかった。二度と賊の侵入をさせないつもりだ」
「いや今回の件は文官の裏切りの可能性もある。私の責任だ」
「しかし警備をかいくぐり侵入を許したのだ!私の責任だ!」
「裏切り者が誘導したのだろう。私の責任だ」
「しかし!……この話は止めよう。過去よりも将来が大切だ。二人で協力をして警備の方法を考えよう。知恵を出してくれ」
「分かった。二人で考えよう。……しかし先王陛下の配下の者、あの者は誰であろうか?」
「その者を見たのは宰相と賊だけだ。どんな人物だった?」
「背が低くて声は低い。……しかし声はワザと低く喋っていた。顔は仮面を付けていたから分からない。そして窓から飛び降りて消えてしまった」
「分かるのは背が低いという事だけだ。……子供か?」
「子供が賊を倒せるものか。ダムボックスも賊を見ただろう。子供が賊を倒せると思うか?」
確かにあの賊を見て並みの騎士では倒すのは難しいと思った。
「あの賊を一瞬で倒したのだ。子供ではない。身長の低い大人の男。それが先王陛下の配下の者だと思う。その特徴がある者を知っているか?」
「……知らないな。もしかするとローデンファング公国出身の者かもしれないな」
「私もそれを思った。あの国の者ではないかと。しかしそのような者は居ないとドックライム公爵から手紙を貰った。ドックライム公爵も知らない人間なのか、暗殺を生業としている者なのかもしれない」
「その様な者が先王陛下の配下の者だと?」
「確証はない。そう思っただけだ。それに私を救った恩人だが……なんというか善人の様な感じが……信頼できそうな者に感じて……」
……宰相のカンは良く当たるからな。そのカンを信じても良いが……、騎士団長としてそんな曖昧な事では仕事は出来ない。しかし少し信じてみよう。
※
王宮でばったりミリアリア様と会った。
「あら、お兄様。こんな所で会うなんて珍しいですね」
前に会ったファムさんと知らない女の子が居る。そしてラーブスとデーデルはミリアリア様に見とれている。
「ミリアの方こそ。どうしたのだ?」
「新しい学友が出来たのでその紹介をしていました。紹介しますね」
「初めまして、コレート=ギンガムと言います。そちらの呆然としている愚弟の姉です」
騎士団長の娘さんか。ラーブスに姉が居たとは知らなかった。
「前に賊が侵入したので護衛を増やされたの」
「そんな事を言うな。ミリアの安全の為だ」
「まぁ、お兄様達を心配させない為ですから、それから久しぶりですね。私の事を覚えていますよね。久しぶりですね」
「はい、お久しぶりです。ミリアリア様」
あれ? ファムさんがミリアリア様の横に移動して何かしているような? そして次にファムさんがオレに言った。
「すいません。まだ他の場所を回らないといけませんので失礼をします。アルムエルグ様も今度お茶会に参加してください。コレートを改めて紹介しますから。では失礼します」
最後は早口でミリアリア様の背を押して別れた。
……ミリアリア様とまともな会話をしたのは初めてだ。毒を吐かないなんて……。
「どうした、アルム?」
「いえ、なんでもありません」
「そうか、ミリアとのお茶会に招待されたな」
「はい、一年ぶりのですね。手土産を考えないと……」
いつでも呼ばれても良いように準備をしないと。
「どうしてアイツがミリアリア様の学友に……」
ラーブスは学友が姉に決まった事が何か不満があるようで悪態をつき。
「アルム、学友としてオレもミリアリア様のお茶会に参加するべきだと思うから参加すると伝えてくれ」
「デーデル!何を言っている!学友ならオレも参加できるだろう!アルム、オレも参加するぞ!許可を取っておけよ!」
二人がお茶会に参加を希望するがそんな事出来る訳がないだろう。二人の参加を拒否する。
「使えない奴だな!」
「その程度の奴だよな!」
……こいつらの事は無視して移動しましょう。ベルファルト殿下。
「ミリアは人気者だな。そんなお前はミリアの婚約者なのだから。妹の事を頼むぞ!」
「はい」
あまり頼まれたくない。だって毒舌が凄すぎて気落ちするから。しかし本当に久しぶりにあったな。それも毒を吐かないミリアリア様なんて新鮮だった。
※
「ミリアリア様!上手く出来ました!」
部屋に戻って私はミリアリア様を褒めた。
「挨拶が上手く出来て、お茶会にも呼ぶ事が出来たのです! これは大きな進歩です!」
「ありがとう、ファム! 訓練に付き合ってくれてありがとう!」
二人で手を取り合って飛び跳ねるくらい喜んだ。そしてその事を聞いたミリアリア様専属の侍女達も大いに喜んだ!
「ファム! 良く頑張りました」
ミリアリア様の側近で私の姉も褒めてくれた。
「次はお茶会です。急ぎ台本の作成に入ります。ミリアリア様、素晴らしきお茶会にする為に私達は全力を尽くします。ミリアリア様も準備をお願いします。ファム!ミリアリア様の準備を手伝って!コレート様はアルムエルグ様と話したのは今回が初めてでしたね。……台本にはファムとコレート様のセリフを入れます。三人とも王妃様に演技の指導をさせますから!今度こそ台本通りにお茶会を進めますよ!」
ミリアリア様の側近達が気合を入れて台本作成に入る。コレートは何が起きているのか分からない様で呆然としていた。
「コレート、演技は上手い?下手?」
「ファム、どういう意味なのですか?お茶会に台本?演技?ただのお茶会でしょう。側近の皆さまは何をしているのですか?」
初めての事だから何も知らないようですね。アルムエルグ様とミリアリア様の関係を教えてさし上げないと……。私は教えたくありません。姉に頼みましょう!
「貴方の学友なのですから、貴方が教えるのが筋でしょう」
……わかりました。たしか報告書がありましたよね。それを見せながら教えます。コレートは信じてくれるでしょうか?
「何を馬鹿な事を言っているのですか?」
……やっぱり信じてくれなかった。私もお茶会には参加してないけどお二人の会話を聞いて信じたのですから。でも事実を受け止めてください!信じられないならお茶会は不参加です!
「分かった、信じます」
「では次に演技力を確認します!まずは……」
「待ってくれ!本当に必要な事なの?」
「向こうでミリアリア様の側近が台本を作っているでしょう!それを信じられないのですか?ミリアリア様!台本の編集は王妃様に見せた後ですよ!」
「わかりました。私はお茶会の時間が取れる様に教師や公爵夫人と調整をします。ファム!コレート!行きますよ!」
ミリアリア様もやる気を出している。私達も負けてはいられません!呆然としているコレートと一緒に部屋から出て王妃様の所へ向かった。
※
私はコレート・ギンガム。父はこの国の騎士団長を務めています。私は父に言われてミリアリア王女の護衛兼学友になりました。
ミリアリア様の学友がこの様に大変だとは思わなかった。勉強に礼儀作法、お茶会と側近達との話し合い、演技練習とセリフ覚え。日課の剣術の訓練に支障をきたしている。
「コレート!頼みがある!今度のお茶会にオレも出席させろ!」
私の愚弟がノックもせずに部屋に入る。礼儀作法がなっていない。そして私の方が年上なのに呼び捨てにする愚弟。
「うるさいぞ、ラーブス。礼儀作法の出来ない者がミリアリア様のお茶会に参加できると思っているのか!身の程を弁えろ!」
「ふん、コレートを相手に礼儀作法は勿体ないだろう。そんな事よりもミリアリア様のお茶会に参加させろよ!何のために姫様の学友になったんだ!」
「ミリアリア様をお前の様な馬鹿者達から守る為だ。私は疲れているのです。回れ右して部屋から出なさい」
その後、私に悪態をついてドアを乱暴に閉めて出て行った。
愚弟は外面が良く両親や屋敷の外の者達には評判は良いけど、私や平民の使用人には評判が悪い。子供の時に平民の使用人を剣の練習と言って殴っていたのを私が注意して、その事に怒った弟は私に向かってきた。その頃は私の方が強かったから返り討ちしたけど、私に暴力を振るわれたと両親に言った。私は両親に弟に暴力を振るった理由を教えたら、両親は弟を叱りつける。その後、反省して私や両親にバレない様、使用人へ暴力を振るっているそうです。
そんな愚弟がベルファルト殿下の学友になるなんて親のコネを使ったからだろう。しかし私もミリアリア様の学友になり、あの愚弟と同じコネで学友になったと言われるのは不服です。そのような事を言われない様に頑張っているつもりでしたが……。
予想以上に学友は大変でした。そして一番大変だったと思ったのはアルムエルグ様が参加するお茶会だったのです。
「いらっしゃいませ。アルム様」
「お久しぶりです。ミリアリア様。今回はローデンファング公国のお菓子をお持ちしました。先王陛下も気に入られたお菓子です。食べてみませんか?」
「あら?貴方は自分の考えで物を買えないの?そのような優柔不断の愚か者がお菓子を買って来るなんて大丈夫なのですか?コレート!毒見に回しなさい!」
台本通りに進まず、いきなり私にその手土産を渡されました。どうすれば良いのですか?ファムの方を見るが頭を押さえている。
「ミリアリア」
「冗談ですよ、お母様。今日はファムとコレートの紹介の為に態々お茶会を開いたのです。貴方の無能さを二人に教える為に態々紹介するのですよ。早く紹介しなさい。それとも……」
「ミリアリア様、私達から紹介させてください。初めましてファム=マクガイアと申します。ミリアリア様の側近であるエリスの妹です。一年近く前に簡単な自己紹介だけで申し訳ありませんでした。これからも同じ学友としてよろしくお願い致します」
ファムがミリアリア様の言葉を遮って自己紹介をする。そして次は私の番ですね。台本通りのセリフを言います。
「初めまして、ミリアリア様の学友のコレ―ト=ギンガムです。よろしくお願いします」
「コレートは騎士団長の御令嬢で剣術の腕を買われてミリアリア様の学友に推薦されたのですよ」
私のセリフの後にファムがセリフを言う。……台本通りに進んでいます。最初のアドリブは何だったのでしょうか?
「貴方はおつむが弱いけど覚えられましたか?理解力に乏しい貴方は言っている言葉は理解出来ていますか?……」
「ミリアリア!」
「冗談ですよ、お母様」
ミリアリア様、自己紹介の後のセリフが違います!どうしてその様な言葉を!アルムエルグ様になにか不満があるのですか?
「あら、このお菓子は美味しいわよ、ミリアリア。貴方も食べてみてはいかが?」
「そうなのですか、お母様。では無能が無理をして持ってきた粗末な小麦粉を練ったモノでも食べてみましょうか……この程度のモノを良く私とお母様に食べさせましたね。頭だけではなく舌も悪いようですね。良かったですね、顔も耳も目も舌も悪い事がわかりましたね」
ミリアリア! 台本通りに行きましょう! 王妃様が御菓子を褒めて貴方に進めるパターンですよ!練習した場面ですよ!
「ミリアリア様は前日体調を崩して味覚が少し変わったのです。とても美味しいですから心配しないでください。ミリアリア様の体調が戻ったら改めて食べさせて頂きます。そういえば公爵夫人と話した時ですが……」
ファムが台本に書かれたフォローセリフを使って台本の昔話のパターンに入りました。素晴らしいフォローです! アルムエルグ様は昔のドジな話をしたらミリアリア様に毒を吐かれてファムや王妃様がフォローして話を逸らす。その繰り返しで本日のお茶会が終わりました。
「今日は楽しかったです。またお茶会をしましょうね。ファムかコレートに使いを寄こします」
「ありがとうございます」
王妃様が最後の挨拶をしてアルムエルグ様が部屋を退出されました。部屋に居た全員が力尽きて床に座る者、壁に体を預ける者、ため息を付いて椅子に背を預ける王妃とファム。そして泣き出すミリアリア様。
……先日、目を通した報告書やファムから聞いた話は真実だと理解しました。ミリアリア様やファムや王妃様や側近の人達が呪いという非現実的なモノと戦っている事を理解しました。
「今回は前回に比べて悪くない結果でした」
王妃様がみんなに言いますが、これが悪くない結果ですか! どう見たって悪い結果でしょう! アルムエルグ様が少し落ち込んでいましたよ!
「この経験を生かして次を頑張りましょう。ミリアも良いですね」
「……はい。これはとても美味しいお菓子です。こんな美味しいお菓子がローデンファング公国にはあるのですね」
「そうですね。今度、私達も注文しましょうか。……どうしましたか?エリス」
「すいません。このお菓子なのですが確かにローデンファング公国のお菓子です。ですが賞味期限がありまして、五日以内なのですよ。馬車で十日、馬を飛ばせば
三日以内で王都に届きますが……製造年月日が二日前だったので。それが少し気になったのです」
「……確かに。それよりもミリア!お菓子を食べていないでお茶会の反省会です!」
私も疑問に思いましたが、王妃様はその疑問よりも反省会を開始します。そして私はミリアリア様に質問をしました。
「この事をアルムエルグ様にお伝えした方が良いのでは?」
「ダメ! 絶対にダメ! 呪われているって言ってアルムエルグ様から嫌われたらどうするの! もう少しで解決できそうなのよ! 絶対に言ったらダメなんだから」
ミリアリア様の言葉を聞いて私は周囲の人達を見る。……この視線は「私も通った道よ」って同情の視線だ。……納得しました。いろいろと納得しました。これからミリアリア様の学友としてやっていけるか心配になってきました。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




