6 前提条件のある祝福
今回、隣国の訪問は過去経験がないと思うほど疲れた。馬車の中で養生して数日かけてバルテハイム王国に戻った。
そして国王である息子からローデンファング国の詳しい内容を聞く。
「ローデンファング属国にはドックライム公爵を頭に置いて他の人材を入れる予定です」
「お前が決めた事ならワシは口を出さん」
「そして父上に後見人としてローデンファング属国に行って貰う事になりました」
「……厄介払いにしては露骨だな。誰の案だ?」
「私の考えです。ローデンファング属国は重要な場所です。それを周囲の国に示すために必要な事でした」
「期限は?どのくらいローデンファングの後見人にさせるのだ?」
「二年間です。その後は国に戻って一年間くらい過ごしてもらい、再度二年間くらいローデンファングに行って貰おうと思います」
「……良かろう。お前がこの国の王だ。お主の判断に従おう」
「ありがとうございます」
このような会話でホッとするとはまだまだだな。もっと経験を積んでもらわないと安心出来ん。
「それからミリアリアとアルムの噂の件だが……」
「それならこれが報告書です」
……噂は終息出来なかったか。やはりミリアリアが言った仮の婚約者が駄目だったな。それからドックライム公爵家からの噂も誰が流したか正体は掴めず……。
アルムとミリアリアの婚約は悪い噂を払拭してから広めるべきだったな。
しかし噂する者が少なくなったか。アルムの噂を上書きするために他の貴族の噂を流したからな。
その貴族はアルムを嫌っている者でどうでも良い者だし。
「貴族達や平民に噂を広めない様に命令をしましたが、国中に広まっている噂ですから。これ以上は広まらない事を願うのみです。それから次の報告書です」
次の報告書?目を通してみる。
「お久しぶりです。ただいま戻りました」
「……誰かしら?どちら様でしたか?初対面の人に会ったら自己紹介をするのが礼儀でしょう?どちら様ですか?私の言葉は分かりますか?」
「ミリアリア!」
「冗談ですよ、お母様。少しからかっただけです。久しぶりですね。愚図さん、お元気でしたか?何年振りでしょうか?確か……」
「ミリアリア!」
「冗談ですよ、お母様。久しぶりですね。アルムエルグ様。生きていたのですね。私はてっきり貴方が死んでいるモノと思っていました。まあ死んでも誰も……」
「ミリアリア!」
「冗談ですよ、お母様。それで隣国は如何でした?楽しかったですか?怪我して死にませんでしたか?頭を打って死にませんでしたか?ナイフで刺されて死にませんでしたか?」
「ミリアリア!」
「冗談ですよ、お母様。隣国に行って戻ってこなくても良かったのですよ。その間、私は楽しい時間を過ごしていました。それはもう楽しかったですよ、貴方の顔が見る事出来なくて素晴らしく楽しい日々でした。それなのに……」
「ミリアリア!」
「冗談ですよ、お母様。そういえば……」
「ミリアリア!」
「冗談ですよ、お母様。先日の……」
「ミリアリア!」
「冗談ですよ、お母様。……」
何だ、この報告書は……。
「これが先程のアルムエルグがミリアリアと妻に会った時の会話です。アルムエルグは最初と最後に喋っただけで、ミリアリアが喋り、妻が遮る。その繰り返しでした。私もこの報告書を読んだときは頭がおかしくなりました。しかしこの報告書は真実です」
ワシの考えが正しければ……。
「アルムエルグとミリアリアの婚約は失敗なのでは?私だけでなく他の者も思っています。破棄をした方が良いのでは?」
「その件を話したい。アルムとミリアリアを除く関係者を集めてくれないか?」
「……わかりました」
息子が部屋から出ていく。ワシはこの旅の事を考えていた。
今回の旅でアルムはいろんな経験をして一回りも二回りも成長したと思う。
そして祝福に考えさせられる旅だった。呪いの様な祝福だった。
そんな事を考えていたらミリアリアの祝福について思う事があった。孫の祝福は人々に慈愛と加護をもたらす祝福だ。しかし前提条件があるのなら?
考えて仮定としてある条件を満たせば……。
この仮説は関係者に話すべき仮説だ!そう思って暇なときはこの仮説を考えていた。
息子が関係者を集めた。息子の国王と妃。ドックライム公爵家の当主と夫人。そしてミリアリアも同席していた。
「お爺様!同席させてください!お願いします」
「お前にも関係がある事だ。良いだろう。詳しい事は省くが隣国で祝福を受けた者に会った。その祝福は異性の者に好かれる祝福だったのだ。しかし前提条件があって三十から四十代の男性に好かれる祝福だった。ミリアリアの祝福は人々に慈愛と加護をもたらす祝福だな。それに前提条件が付いていたら?」
「……どのような条件ですか?」
「魔力を放つ人々……。魔力を放つ人間に慈愛と加護をもたらす祝福。この場合は魔力を放出する事が出来ない欠陥魔法使いのアルムには慈愛と加護は受け取る事は出来ない」
「そんな!」
「ミリアリアの行動を考えると魔力を持たない人々には慈愛と加護を与えないのではないかと仮定したのだ。そして慈愛ではなく毒舌を与える。ミリアリアがアルムに対しての言動を見れば間違っていないと思った。どう思う?」
周りを見て言った。祝福を受け取る事が出来ない者がいる。そのような事を言われて周りの者達は考え込んだ。
「祝福にそんな条件が……」
「しかし今までの言動を……」
「なんて事に……」
「今回の婚約は失敗……」
「どうにか出来ないのでしょうか?」
絶望している者達に希望を与える。考え抜いた一つの希望を。
「……一つだけ考えた案がある」
ワシの声に一番早く対応したのがミリアリアだった。泣きそうな顔を我慢してワシの答えを聞く準備をする。
「神聖魔法だ。神聖魔法には魔力を封じる魔法があったな。公爵夫人よ」
「確かにあります。私も使う事は出来ます。……まさか祝福を封じるのですか!」
「そうだ!過去の文献を読んでみて、神からの祝福を魔法で封じた事は歴史書や物語にある。どうだ?出来そうか?」
「やってみないとわかりません。ミリアリア様に魔法をかけますがよろしいでしょうか?」
「お願いします」
公爵夫人は我が国有数の神聖魔法の使い手だ。ミリアリアに魔封じの魔法を使う。彼女で駄目なら……。
「……私の力では無理です」
「そうか……」
「しかし、ミリアリア様が自分に魔法を直接使うのなら。自分自身に魔封じの魔法を使うのなら祝福を封じる事が出来るかもしれません。同じ魔力で他人に回復魔法をかけるのと、自身にかけるのでは自身にかける方が効果が高いといわれます。ミリアリア様が自身に魔法を使えば効果はあるかもしれません」
「公爵夫人!私に神聖魔法を教えてください!どんな辛い事でも耐えて見せますから!アルム様に酷い事を言わない様に!話せるようになりたいのです!お願いいたします!」
「ワシからも頼む!ワシが繋げた縁だ。公爵夫人よ、頼む」
「お二人とも頭を上げてください。……わたしに出来る事は教えますが、私の師に教えてもらった方が良いかもしれません」
「学院の入学式までに覚えられますか!あと三年で覚える事が出来るでしょうか?」
三年と少しで十三歳になる。その歳になると王族や貴族は学院に行く事になっている。
「……努力すれば可能でしょう。ミリアリア様は加護魔法を覚え神聖魔法に入る準備は出来ています。私が神聖魔法の初歩を教えて、師から魔封じの魔法を中心に教われば……」
「それで構いません!お願いします!」
「時間が無いのでかなり厳しく行きますよ。覚悟はありますか?」
「勿論です!必ず覚えます!」
「では今から始めます。最初にミリアリア様の能力を把握します」
「よろしくお願いします。公爵夫人!」
「私の事は先生と呼びなさい!」
「はい!先生!」
……これで孫の呪いの様な祝福が封印されれば良いのだが。
※
「奴が死んだそうだ」
「ふん、使えない奴め!」
「奴は四天王最弱の者」
「遠距離でナイフを投げるしか能がなかったからな」
「しかしアイツの投擲能力は確かな腕だった」
「誰が倒したか気になるな」
「報告からはなんと?」
「分からないそうだ」
「使えない者を報告者にするとは!」
「人材不足だな。これは由々しき事だぞ」
「ふん、人材など、数だけならどうとでもなる。質が問題だ!」
「喧嘩は止めろ!しかしローデンファング国か……属国だったな。覚えておこう」
「次は如何する?」
「誰を始末する?」
「安心しろ、計画は立てている。そして任務を達成したものが新しい四天王と……」
「何をしているのですか?」
「一人四天王ごっこ!」
「楽しいですか?」
「楽しいよ!」
「傍から見ると滑稽です」
「ショボーン……」
「これが報告書です。しかし良かったのですか?」
「祝福持ちの令嬢です」
「勘弁だ!あれは祝福ではなく呪いだ!あんな奴が居たら国が亡びる!可哀そうだが死んでもらうのが一番だ」
「しかし今回はこちらに利益がありませんでしたよ」
「ローデンファング国の事?いろいろとごたごたしているから今は良いよ。それよりも隣国の発掘されていない金山の方が欲しかったし」
「……いつのまにそんな情報を?」
「散歩してたら見つけたよ」
「……散歩って抜け出したのですか!あれほど抜け出さないと約束したでしょう!」
「しまった!藪蛇!」
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




