5 国が傾いた日
その後、オレ達は広間を退出して部屋に戻った。化粧を落としドレスを脱いでいつもの服装に着替える。
テーブルの上に毒が塗られたナイフが十三本。これは暗殺者が持っていた武器だ。
しかし一呼吸で十本のナイフを投げるなんて凄い技術を持った敵だな。広範囲に投げられたなら守る事が出来なかった。
「……十本のナイフを投げられて、お前は体を張ってナイフを止めたからドレスに穴が空いているのだな」
「そうです。ローデンファング国王とファラレスト様、エルズアリアさんの三人を狙った投擲でした。皆様が集まっていたから何とか防げました」
「……毒は大丈夫なのか?ナイフには毒が塗ってあったのだろう?」
「ナイフ程度では強化魔法で強化した皮膚には刺さりませんよ。毛玉を投げられた様なモノです」
「……そして再度投げられたナイフを阻止して今度はお主がナイフを投げて撃退した」
「撃退ではありません。相手は態勢を整える為にその場から移動しただけです」
「……そしてバルコニーから逃げ出そうとした暗殺者にナイフを投げて殺したのだな」
「すいません。投げたナイフの衝撃で壁に当たって地面に落ちて死んでしまったらしくて……」
「……お主の投擲は石で熊の頭を貫く威力だ。今後は投擲も控えるように」
……技術が禁止される。納得がいかない。
「お主が投げた他のナイフは暗殺者ではなく、その奥にあった時計塔に当たり、時間差で時計塔が崩壊した! どんな威力だ!お前の投擲は!」
「無実です。私が壊したという証拠はありません」
「アルムがナイフを投げた位置! 暗殺者の死んだ場所! その先にある時計塔を考えれば誰でも分かる! 証拠は崩壊した時計塔にそのナイフが埋まっているはずだ。命令を出して探させるぞ!」
……理不尽だ!権力者に負けるという事はこのような事だろう。
「フルブルーク様、落ち着いてください。これも暗殺者を撃退する為にした事ですから」
息を整える先王陛下。ゴーイングさんに出された水を飲みほす。
「そうだな。暗殺者を倒すために必要な事だった。必要な事だった……」
自分に言い聞かせる様に喋る先王陛下。そして扉がノックされ先代王妃が部屋に入って来た。
「広間はどうだ?」
「葬式の様な雰囲気です。エルズアリアさんを偲んでいますよ。これは祝勝会から葬式に流れるような勢いですね。この国の中年男性全員が泣き崩れているのですから」
頭を押さえる先王陛下。そして先代王妃が手紙を渡した。
「私宛のエルズアリアの遺書です。読んでみてください」
『ファラレスト様。この手紙を読んでいるという事は私は死んでいるでしょう。私の祝福、いえ呪いのせいで様々な方に迷惑をかけました。そして私のせいで国が滅び、また国が滅びようとしています。そして私は強い人間ではありません。恨まれてまで、誰かを犠牲にしてまで生きようとする事は出来ませんでした。本来ならもっと早く死ぬべきだと思っていましたが弱い人間で死ぬのが怖くて何も出来なかったのです。しかしやっと死ぬ覚悟が出来ました。勝手に死ぬ事を許してください。そして私の祝福と言う呪いにかかった方々を許してください。最後にアルムエルグ様へ、短い時間でしたが貴方と会えて楽しかったです。来世は貴方の様な弟?妹?が欲しいですね。エルズアリア』
「これは私に書かれた遺書です。他にも国王陛下とエルズアリアの父親にも遺書が書かれていました。私は遺書を二人に届けますのでお兄様もご一緒してください」
「わかった。アルムは……。ゴーイング、来てくれ。アルムはここで休め」
オレは遺書を聞いて泣いていた。オレもエルズアリアさんを姉の様に思っていた。それなのに、オレの不注意で、オレがもっとしっかりしていれば。
「アルムよ。お前は任務を全うした。エルズアリアの死はお前には関係ない!お前が責任を感じる事は無いのだ!」
「でも」
「でももしかしもない!ワシらが戻るまでに馬鹿な考えを止めて普段の性格に戻れ!悲しむのは良い、しかし責任を感じるな!この責任はワシにある!お前は責任を感じる事を禁ずる!分かったな!返事はどうした!」
「はい!分かりました」
「よし、ゴーイング、ファラレストよ。行くぞ」
先王陛下達は部屋を出た。みんなは強いな。あんな事があったのに悲しみを乗り越えて行動できる。オレも悲しみを乗り越えて強くならないと。エルズアリアさんに怒られる。
……でも少しだけ。悲しませてください。
ベッドに潜り込んで悲しんだ。
こんな事が二度と無いように、強くなろう!心も!体も!今よりも!
※
あれから数日が経った。
先王陛下はゴーイングさんや側近を連れて毎日、朝早くから深夜まで会議に出席している。先代王妃も会議に参加しており、オレだけ何事もなく部屋で過ごしたり、先王陛下に許可を貰って港に行ったり、街を見て回ったり、土産を買ったりしている。
今回の件でオレは力不足だと思った。まだ子供だからというが非常事にはそんな事は関係ない。せめて俺の身近な信頼できる人だけでも守れるように頑張りたい。
街で土産を買って王宮に戻ると珍しく先王陛下達がいる。会議が終わったのかな?
「アルムよ。戻ってきたな。……土産を買ったのか?なにを買ったのだ?」
「はい、女性用の真珠のネックレスやイヤリングを買いました」
「金は足りたのか?」
「大丈夫です。ファラレスト様からお小遣いを貰いましたから」
……今回の褒美と言う名前のお小遣い。これで質の良い真珠を買えた。これならミリアリア様も喜ぶだろう。
「そうか……。近いうちに帰る事になるだろう。準備をしておくのだぞ」
「わかりました」
「今回の件はいろいろと考えさせられた。祝福にあのような呪いがあるとは」
「そうですね。祝福のせいでエルズアリアさんは大変な思いをしたのですね」
「そうだな。祝福か……」
そう言って先王陛下はオレを見て考え込んだ。どうしたのだろうか?
「アルムよ、お前の他に欠陥魔法使いの人間を見た事はあるか?」
「ありませんけど……」
どうしてそんな事を聞くんだ?疑問に思っていると先王陛下は独り言の様に呟く。
「……祝福……呪い……魔力……祝福……」
どうしたのだろうか?
※
お兄様がバルデハイム王国に帰る日になった。
今回はお兄様に頼りきる事になり迷惑をかけてしまった。
国を動かしているのは年寄りと若者だけ。中年男性は意気消沈していて屋敷や領地に引きこもっている。
これでは国が滅んでしまう。息子の国王も部屋に引きこもっているのだから。
だから私はバルデハイム王国を頼った。この国を属国にしてもらう為に先日まで会議をしていたのだから。
バルデハイム国王に許可を取り、貴族達を説得してバルデハイム王国に組み込んでもらった。
エルズアリアさんの故郷の国は現状では管理できないから放棄した。多分、他の国に占領されるだろう。
それよりもローデンファングを立て直さないと今度はこの国が攻められる。それを阻止する為にバルデハイム王国の属国になったのだ。これで攻められないだろう。
「お兄様、ありがとうございました。これで何とかなるでしょう」
兄が帰るので見送りの場で礼を言った。
「気にするな。この国は価値がある。それがあるから国王も許可したのだ」
「お兄様が説得してくれたからです。ありがとうございました」
「それでお前の息子だが……」
「あの子はまだ部屋から出てきません。王妃も子供達も愛想が尽きてしまったそうです。元国王は私が管理する領地で養生してもらう予定です。しいて言うなら国内の中年男性はその領地に集まって養生するでしょう」
「……悲惨な領地になりそうだな」
全くです。失恋者が集まる領地の領主になる私はこの世界で一番悲惨な領主になるでしょう。子供の為とはいえなんと情けない事か……。
「相談ならいくらでも聞いてやるから気を落とすな」
「ありがとうございます。ではアルムさんの事についてですが」
「アヤツの事は秘密だ。アヤツの事を知っているのはワシとゴーイングと後一人のみ。お前にも教える事は出来ない。しかし何かあるのならアヤツを派遣しよう。アルムなら何とかしてくれるはずだ」
アルムエルグさんの事は詳しく教えてもらっていないけどあの子が私達を助けてくれた事はわかります。私達の命の恩人です。その秘密の一部を知りました。この事は兄から口止めされていますから誰にも言いません。
「しかし理不尽さに嘆くなよ。アヤツが行動を起こすと必ず頭を抱える事になるからな!」
「それは経験談ですか?」
「そのとおりだ!」
……極力、アルムエルグさんを当てにしない様にしましょう。
「数日後にバルテハイム王国から人材が来るはずだ。それまで何とか維持してくれ」
「はい、お兄様もお世話になりました」
アルムエルグさんが私達に近づいてくる。
「今回はお世話になりました。ファラレスト様」
「こちらこそ楽しかったわ。特に女装はね」
本当にエルズアリアと一緒に考えてとても楽しかったわ。彼女との最後の思い出が楽しい思い出であった事がなによりの事だったわ。
「それは忘れて貰えれば……」
「そうね、忘れても良いけど条件があるわ。今度から私の事をお婆様って呼んでくれたら忘れてあげましょう」
「……ファラレストお婆様」
アルムエルグさんを抱きしめて言う。
「また遊びに来てね」
「勿論です。お婆様に会いに遊びに来ます。あと手紙を書いても良いでしょうか?」
「勿論良いわよ!孫からの手紙を楽しみに待っているわ!」
彼の思いやりがとても嬉しい。本当に良い子だ。私の新しい孫。本当に義理の孫にしようかしら?でも婚約者がいるのよね。
兄に先を越されてしまったわね……。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




