ああ。そのとき。
セルゼルフがギルドから出ていってしまってから。私はとある冒険者に話しかけられたの。冒険者は必ず知っていると言われている人。いや。人達なの。
「あなた?どうしたの?」
「あ。カグラさん・・・実は・・・」
私は事情を話した。パーティメンバーの一人が強すぎて私が足手まといのヒモになっている。私が彼に救われたことも。すべて。彼女は私の話に耳を傾けながら深く頷いた。
「それで?貴方は情報で彼の役に立つつもりなのね?」
「そう・・・」
「じゃあ、私と一緒に来なさい。」
「え?」
「すぐに出発よ。」
私は急いでメモを残すと彼女の後について行った。彼女なら、私をうまく使ってくれる・・・失礼になるけれども、彼、セルゼルフよりも弱そうで、私が役目を貰える可能性が高い。
女性だけのクランというモノが存在している。男や魔物に犯されたという心の傷のせいで男性と関わることを避けようとしている者や、ただ、男性が嫌いな者、女だからと差別されるのが嫌な者。大小様々な理由によって女性だけのクラン・・・〝気高き薔薇〟というなんとも恥ずかしい名前の集まりが存在し、名を高めていた。アンジェリカに話しかけたのはそのクランの引きぬき担当であるローヤである。彼女の目利きは最強と言われている。アンジェリカが付いて行った先にはクランの施設がある所であった。二人は一言も話さずただ歩いていた。
「疲れていない?」
「え?大丈夫です。」
ローヤはアンジェリカの実力を試していた。体力だけがすべてではないが、体力があるのと無いのでは前者の方がよいに決まっており、また、仕事の範囲も広がる。そんな時、暗く細い道から冒険者と思われる男が飛び出してきた。早い速度で歩いていた二人の内、アンジェリカが男にぶつかってしまう。
男はアンジェリカに絡んだ。多額の賠償金を請求し、払えないのであれば体で払えという。それをアンジェリカには流し、反論していた。ぶつかったのはお互い様であり、細い道から本道に飛び出した男の方に非があると。そんなことを言ってしまえば喧嘩に発展してしまう。瞬間的にアンジェリカは魔力を周囲ではなく男にだけ放った。魔力を可視化できない者は殺気や圧力と表現するだろう。男は慌てて逃げ出した。
「やるじゃないか。」
「それほどでもないですよ。」
そして彼女たちはクランの城とも呼ぶべき建物に入っていった。この建物すべてが彼女たちの住処であるのである。
アンジェリカは少し緊張した様子だった。なぜなら、入った瞬間に多数の女性の視線が集まって来たからだ。強い者でも、自分に絶対的な自信が無ければ視線に揺らいでしまうことが多い。アンジェリカはまだ自信が無く、多数の視線に押しつぶされそうになっていた。
「おい!カグラ!また連れてきたのか!」
「そうよ。逸材だと思うわ。ねぇ?」
「ああ。」
出てきたのは男性禁制であるこの空間には存在しないはずの男であった。それも、道で絡んできた男だ。その男の顔が少しずつ溶けるように変形していき、女性となった。これも一種の魔法だったのだろう。その女性がアンジェリカに接近してきた。
「合格だよ。そいつは今からこのクランの一員だ。面倒見るのはそうだねぇー・・・あんた。やりな。」
「え!?私ですか!私も新人なのですけど!」
指名されたのはキャリーというクランの新人だった。露骨に嫌そうな顔をしながら前に出る。
「確かに新人だな。だから、お前もやれ。」
なんとカグラもこの新人の担当になったのだ。彼女は引きぬき担当であるためクエストを受けることもなく、一日中ふらふらしていることが多い。そんな楽な生活も今日で終わると知った彼女は絶望に落ちていた。
思わず逃げ出してしまったシン。影の中ではとてつもない速度で移動することができる彼は勢いで別の街まで来てしまっていた。セルゼルフは彼の能力を過大評価し、光の速度と表現しているが、これは彼が光を弱点としているのと関連した表現にしたかったのだ。実際には、時速60キロほどである。魔力が続く限り移動できる。
「光魔法を使わなかったのは僕のことを気遣ってくれたからだろうな。悪いことをしてしまった。神様にもセルゼルフはとてもいい人だって言われてたのに。」
「あら?あんた。見かけない顔だね。どこの子だい?」
「え?えーっと。」
少年は事情をすべて話した。老婆は自宅に少年を招き、静かに彼の懺悔を聞いていた。そして、少年が涙を見せ始めてからしばらくして。
「相手は傷ついてしまったようだねぇ。」
「はい・・・」
「お前はどうしたいんだい?」
「え?」
老婆の言葉の真意がわからず困惑してしまう少年。歳老いた老婆の言葉は鋭く研ぎ澄まされていて、少しの心の隙間をえぐってくるようだった。
「相手の少年に、何かできることはないのかい?相手が最強でも、お前にしかできないことはないのかい?」
「僕にしかできないことですか?」
「そうだよ。例えば・・・この草。何に使うか分かるかい?」
「毒草じゃないか!毒殺しかできないだろ?」
老婆は非常にうれしそうな表情をしたあと、毒草をすりつぶし始めた。それと同時に魔力をすり鉢に流していた。何が始まったのか理解できない少年は老婆の手先を凝視している。
「この毒草は特定の量の魔力を加えるとねぇ。金属に変化するんだよ。」
「嘘だ!!ありえない!」
「何言ってんだい!それが魔法だ!」
この出来事から、少年は老婆の弟子となった。影の魔法を使う錬金術師という奇妙な存在は彼しかいない。
「例の国の状況は?」
「はい。現在、騎士団長の選出をしているようですが、なかなか難航しているようです。」
「変な騎士団長がいなかったかしら?」
「はい。少年がいましたが、現在は国から離れているようです。学生ですから。」
「自由すぎない?」
「あの国としては不死人族と繋がりができればそれでいいみたいです。」
「そう・・・」
《パラコミック》の敵国であるこの国。騎士団長という国最強の者が不在となれば、騎士団はあまり役に立たないだろう。今こそこの国を戦略するときではないか?そういう思いがこの国の国王にはあった。この国の国王も何の因果か女性である。
「その少年は強いの?」
「それについてはデータがありません。しかし、不死人族ですからね。気を付けたほうがいいかと思います。」
「いや。攻めるわよ。兵を集めなさい。物資も。」
「はい!」
近いうちに戦争が起こるのであった。
「ちょっとあなた?」
「んー?」
「いつまでも寝てないで。」
「わかったよー。」
セルゼルフの両親はいつまでもラブラブだった。




