中学生の裏庭と、ヤクザの矜持。
「ダンマ、良かったんですか?」
寮の裏庭。
ダンマは不貞腐れた中学生の不良みたいに、ヤンキー座りで打ちひしがれていた。
玉のおいちゃんの準備ができるまで、アゲハちゃんと遊んでこいと、おいちゃんに言われていた。
なら、タバコ吸ってないで、僕に構おうとしろよ!
まあ、全力で拒否ってやるけどね!
スズはセンリツに連れられていった。
最近、夕飯の支度をセンリツから習っているのだ。
僕はダンマの横に腰を下ろす。
「ダンマ、良かったんですか?」
そして、もう一度尋ねる。
「うっせーよ! クソガキ、ふざけんな! ぶっ殺すぞ!」
ダンマは、昔、初めて会った頃みたいな荒々しい口調で僕に怒鳴った。
なんだか、懐かし。
少しは調子が戻ったらしい。
まあ、スズがいないから、周りを気にする必要がないだけだろうけど。
「僕にそんな暴言吐いて良いんですか?
テオにチクりますよ!」
「んなこと言って、お前、テオのオジキにチクったことねーだろ。
クソボケ」
そりゃあ……僕にだって良心があるからね。
知り合いがミンチになる姿は見たくない。
怒鳴り散らして、それから、少し冷静になったんだろう。
ダンマは誤魔化すように煙を吐き出した。
僕のことを横目でチラリと見る。
「タバコ一本ちょうだい」
僕は特にそれに何も言わず、そう言って手を差し出した。
「渡せませんよ、臭いでバレる」
「ダンマが横でタバコ吸ってたせいにするから大丈夫です」
唇を尖らせる僕にダンマは。
「一口だけですよ、お坊ちゃん」
そう言って渡す。
吸っていたタバコを僕に差し出した。
お、話が分かるじゃないか!
僕はダンマからタバコを受け取ると、肺いっぱいに煙を吸い込んで、虚空に吐き出した。
うわぁー……。
ああ……落ち着くわー。
なんか、久しぶりにシャバに出た気分だ。
ふっと息を吐き出し、思わず、傍らにコーヒーを探す。
「坊っちゃん、たまにおっさんみたいですね」
ダンマの言葉に、僕はむせ返った。
このところ馴染みすぎて、すっかり忘れていた。
素が出すぎだ、まずい、まずい。
僕の中身が転生したおっさんだとバレるのは、非常にまずいのだ。
ダンマは「ほどほどにね」言って僕からタバコを奪い取る。
ざけんな!
もう一服させろよ!
とはいえ、あんまりごねて、正体が露見してもややこしい。
とりあえず引き下がるが。
久しぶりの一服が……。
僕は仕方なく諦める。それはそうと。
「下で……というか、金将会で何があったんです?」
重要なのはそこだ。
金将会でなんかあったのは確定で。
それでは玉のおいちゃんはここに来ない。
下で何があった?
「……言えるかよ、クソが。
オヤジも良い年だ。
そういうことだよ……ですよ」
世代交代辺りの事情は察してる。聞いてるし。
後継者争いで揉めてるのも知ってる。
金将会は玉山主のワンマンなのだ。
それほどの影響力がおいちゃんにある。
というか、細かな調整。
上との話し合い。
今回もそうだ、ダンマだけでなくおいちゃんがついて来てしまっている。
テオとの話し合いに。
下の世代がこそこそ何かやってるのも、全部おいちゃんは把握している、その身の振り方や、粛清の範囲を決めかねているのだ。
だって、金将会はおいちゃんの金魚鉢だ。
昔、おいちゃんは僕に言った。
『オイラ達はさ、金魚みたいなもんなんだよ。錦背負って泳いでる、弱い魚さ。
飼い主が水を変えるのは簡単だけどね、綺麗な水を自分で探さないといけない』
鮒に戻るなら戻れば良い。
鯉になるならなれば良い。
矜持があるなら、龍にもなれる。
けれど、任侠など所詮金魚。
誰かに飼われ、金魚鉢の中を泳ぐのだと。
清濁呑んで、龍でありながら金魚に甘んじる覚悟がなければ、庶民の従僕など務まらない。
おいちゃんが、金将会のゴタゴタをよそに持ち込むような真似はしない。
金将会以外の要因があって、玉のおいちゃんはわざわざダンマを僕の護衛につけたのだ。
その辺りのことは、聞くだけ無駄だろう。
嫌なやつだが、こいつはおいちゃんを裏切るようなことはしないのだ。




