破壊の向こう側
脳の処理が追い付かず、床に落ちた壁の破片を見つめる。
本来破壊することが出来ないはずの壁にあっさり傷が付いたという事実に、ゆっくり脳が順応していく。
[え?]
[マジかよ]
[あっさり壁はがれたが]
[壊れないようになってる(`・ω・´)コワレタ]
[完全停止してて草]
チャット欄に流れていくコメントを無視し、床に落ちた壁の破片を拾い上げ、それをじっくり観察する。
見た目は他の壁と同じものであるが、しっかり確認してみると他の壁に比べ確かに少し柔らかいように思える。
「嘘だろ」
想定外すぎる事態に困惑した結果、10秒以上遅れて出た言葉がこれである。
とりあえず、壁の破片は今後詳しく調査するため、他の素材と混ざらないよう個別のパックにとりわけ鞄の中にしまっておく。
「マジかぁ」
ここまでくれば完全に目の前で起きたことは呑み込めていた。
本当に想定外すぎる。深層前のところ以外にも同じようにダンジョンコアが置かれている空間に行ったことはあったが、そこも同じように破壊できないことは確認していたので、ここに来て壊せる壁が存在しているという事実に驚きを隠せない。
「壊せるってマジかよ。引っ掛け問題みたいなやつじゃねぇかよ」
ギミックがあるわけでもなく、ただただ壁を壊すことで先に進めるというのは、何となくダンジョンにおちょくられているような気分になる。
いや、あそこが壊せるとわかったとしても、あの先が必ず先に続いているとは限らないか。壊した先にギミックの一部が隠されている可能性もあるわけだし、とりあえずは……
「他の壁とかも同じように傷が付くか確認する必要があるな」
違和感の在った場所だけが傷つけられるのか、それともこの空間全体の壁や床、天井も同じように傷を付けることが出来るかの確認は先にしておいた方がいいだろう。
[他のところも壊れる可能性]
[コアルームって滅茶苦茶硬いんじゃなかったっけ?]
[階層を移動するときの出入り口と同じように傷つかないようになっているはずなんだけどなぁ]
[そもそもダンジョンコアのある場所まで来たことあるやつが稀すぎるのよ]
[最低でも深層で活動できないと難しいからなぁ]
違和感を覚えた場所以外の壁や床などに先ほど使用したピッケルを使って傷を付けようと先端でこすっていく。
しかし、あの場所とは異なり、より力を入れてやっても一切傷つくことはなかった。
確認のため、もう一度違和感のあった壁をピッケルの先端でこすってみれば、硬い感触ながらもしっかり削れているのが確認できた。
「やっぱり壊せるのはここだけってことだな」
[本当に傷つかなくて草]
[床とか全体重掛けてやってたのにな]
[マジであそこだけなのか]
[むしろ違和感だけでよく気付いたよな]
[手のひら返し※www]
どの範囲まで壊すことが可能なのか、それを調べるために削ることのできた場所の周辺を念入りにピッケルで傷付けていく。
削れる場所とそうでない場所の境界で、少しずつ壊せる範囲の輪郭が見えてくる。そしておよそ破壊できる範囲が浮き出てきた。
「壊せる範囲を見れば、深層前にあった空間と同じくらいだな。となるとこの場所が正解なのかもしれない」
[マジでくっきり人一人通れそうな範囲で草]
[本当に一緒っぽいな]
[もう壊すのか?]
[深層の下は何層って言うんだ?]
[待ってもしかしてもう壊そうとしていないよな!?]
「普通にギミックを解いて次へ行けるようになるならともかく、壊して進むとなれば何が起きるかわからない以上、しっかりギルドに確認を取ってからやるわ」
ギミックの場合は正規の方法感があるから別に気にせず解いたと思うが、さすがに壊すとなれば何が起こるかわからない。最悪ダンジョンが崩壊する可能性もあるから、他の探索者を巻き込まないようにしっかり連絡を入れてから、この部分の破壊を進めていこうと思う。
「配信中で済まないが、少し連絡を取る」
[はいよ]
[どうぞどうぞ]
[サクっと終わらせてくれ]
視聴者にそう断りを入れてからスマホで連絡を取る。そして数コールも鳴らないうちに通話状態に移行した。
『はい』
若干、冷え込んだ声がスマホの向こうから聞こえてきたがとりあえず、こちらの要件を伝えておく。
「すまん。配信を見ているからわかっていると思うが、ギルドの方でこのダンジョンに潜っている探索者が居るか確認を取ってくれないか? もしいるようなら避難するように伝えてくれると助かる」
電話先の相手は美穂なので、今配信がどんな状況なのかしっかりわかっているだろう。それに美穂のことだからある程度予想を立てて動いてくれているはずだ。
モデレーターの件といい、今回の件といい、美穂には結構な負担をかけてしまった。近いうちに何かお礼として何かいい物でも送ることにしよう。
『優、貴方って本当にもう…加減とか。あぁ、いえ。今回のことに関しては私がそうするように促したわけだし、その時制限を設けなかったのが悪いのよね。うん』
「何かすまん」
明らかに覇気のかけらもない、疲れている美穂の声に思わず謝罪の言葉が出てしまった。
『本当よ。とりあえず、もう避難というか、元々あなた以外誰もそこのダンジョンの中にはいなかったから、中に入れないよう今は入り口封鎖している状態よ。だから不法侵入者が居ない限り、そこのダンジョンの中にはあなた一人しかいない状態ね』
「対応が早くて助かる。ありがとう」
そう言って通話を切ろうとしたとき、美穂が『ああ』と何かを思い出したような声を上げたため、通話終了のボタンを押さずに美穂の言葉を待つ。
『さっき西郷さんから連絡があってあなたとちょっと話がしたいって』
「郷さんが? まあ、とりあえず了解」
『えぇ』
「それじゃあ、ありがとうな」
今度こそ、そう言って通話を終了した。
郷さんは探索者としての俺の先輩もしくは師匠に当たる人だ。
普段は滅多に連絡をくれるような人ではないのだが、何かあったのだろうか。もしかして今の配信を見て連絡をしてきたって可能性もあるのか?
まあ、郷さんに関してはこの配信が終わってから考えればいいよな。
[誰よ! その電話先の相手!]
[なげぇわ(´・x・)]
[変な寸劇始まってて草]
[ごうさんって誰だ?]
[許可取れたっぽいな]
[マジかよ]
「それじゃあ、もう察している奴もいるみたいだが、何があっても大丈夫な状態になったから、さっそく壁を壊していこうと思う。後、電話の先は普通にギルド関係者だよ」
そう言ってカバンの中から物を砕くときに使っていたメイスを取り出す。
もう少し大きなハンマーも持ち合わせているが、この場所で使用するには少々手狭なので、今回は小型で取り回しのいいメイスを使うことにした。
[うおーメイス!]
[マジで大丈夫だろうか]
[何が出るかな 何が出るかな]
[サイコロ振らないと]
[わくわくもあるが正直、不安が勝るな]
不安がる視聴者たちも居たが、そういう存在は無視してさっそく俺はメイスを壁に向かって思い切り振りかぶった。
メイスが壁に当たり、ガギッっという音と共に壁の一部に軽くひびが入る。
さすがに1発では壊れないようで、入ったひびを広げるよう、さらにメイスを打ち付ける。
そして数分ほど殴り続けた結果、壁は無残に破壊され、その奥に在った空間が見えるようになっていた。




