紅梅(こうばい)
井伊直政の部隊には、元武田家の家臣が多い。
かつて戦国最強と謳われた、甲斐の武田軍の騎馬隊。その流れをくむ者たちだ。
一五七五年、甲斐の武田勝頼が長篠の地で、織田信長・徳川家康連合軍と激突した。
この時、織田信長は大量の鉄砲を用意。迫りくる武田軍の騎馬隊を打ち破っている。
鉄砲隊が守る陣地に、騎馬隊がただ突撃するというのは分が悪い。それを証明した戦いだ。
しかし、もしも敵の鉄砲隊が、その実力を十分に発揮できない状況なら・・・・・・。
服部半蔵率いる忍者軍団からの情報によれば、明日と明後日の早朝、関ヶ原の天気は、「小雨」か「霧」になるらしい。
ただし、「午前九時までには晴れる」という予想だ。晴れてしまえば、こちらの騎馬隊は格好の的になる。
で、東軍の現地集合は「明日の正午」だ。集合した時点で、この日の早朝はすでに過ぎている。
なので、戦いを仕掛けるのは、「明後日の早朝」になるだろうか。天気が回復するまでに、勝負を決めてしまいたい。島左近の陣を一気に突破するのだ。
その場合、福島正則の部隊が動くのを、のんびりと待つわけにもいかない。手遅れになっては困る。
福島正則の部隊が宇喜多秀家の陣をあっさり突破して、西軍本陣への道を切り開いてくれるのなら、話は別だが・・・・・・。
「そういうわけで、協力してくれるか?」
「・・・・・・難しいことをおっしゃる」
難色を示す黒田長政。
このような反応をしてくることも、ある程度は予想していた。
黒田長政にとって、今の提案に乗れば、福島正則から恨みを買いかねない。
敵陣への一番乗りを抜け駆けされるのだ。その怒りの矛先は、実際に動いた井伊直政だけでなく、協力した黒田長政にも向くに違いない。福島正則との関係がこじれることになる。
なので、この提案を断ってくるかもしれないと、井伊直政は考えていた。
だから、早めに相談したのだ。黒田長政に断られた場合、別の作戦を立て直す必要がある。
東軍が勝つためには、「短期決戦」が絶対条件だ。いかに速く、西軍本陣にいる石田三成を仕留めるか。
二人の間で、短い沈黙が流れる。
そして、黒田長政が告げてきたのは、
「実は私も、似たようなことを考えていました」
「ほう。奇遇だな」
どうやって、島左近の陣を攻略するのか。あそこさえ突破してしまえば、その先は石田三成がいる西軍本陣だ。本陣強襲の最短距離。
予定では、島左近の正面に布陣するのは、黒田長政だ。当然、島左近の軍と最初に戦うことになる。
しかし、黒田長政にはどうやら、別の考えがあるらしい。




