朝顔(あさがお)
あの四人は熟練者で、島左近配下きっての精鋭部隊である。
ここ関ヶ原に東軍が布陣してから、本格的に動いてもらうつもりだった。それまでは比較的楽な任務の「関ヶ原周辺の警戒」、その一部を担ってもらっていた。
ところが、関ヶ原の「北西」にある竹林で、何者かの襲撃を受けたのだ。
関ヶ原の東側ならともかく、「北西」である。本来ならば、敵に襲われるような場所ではない。
そもそも、今は敵も味方も偵察を出しまくっている。特に西軍は、一枚岩とは言い難い状態だ。
なので、誰かと遭遇しても、それが東軍か西軍か、すぐに判別するのは難しい。下手をすれば同士討ちになる。
したがって、見知らぬ相手に遭遇しても、互いに戦闘を避けようとするのが普通だ。たとえば、それぞれ黙って反対側の方向に立ち去るとか。
しかし、その何者かは躊躇なく襲ってきて、またたく間に四人を仕留めた。そういう形跡が、現場の竹林に残っていたのだ。全員が槍による即死傷だった。
わかっている情報からだと、襲撃者はおそらく一人で、その正体は不明。
竹林の中で槍を使い、熟練の忍者四人を瞬殺するなど、並の実力ではない。ものすごく腕が立つ。
四人が襲われた事実も問題だが、襲われた地点も問題だった。
その竹林は関ヶ原の「北西」にあたる。伊吹山の向こう側で、石田三成の本陣に近い場所だ。
北西の竹林と本陣との間には、西軍の武将が誰も布陣していない。空白地になっている。
もしも襲撃者の狙いが、石田三成の暗殺にあるのなら・・・・・・。
それを警戒、阻止するためにどうすべきか。その判断を島左近は迫られていた。
そんな時に、あの家康が現れたのである。
こっちは頭が忙しいというのに、本当に迷惑この上ない。
だが、あの家康を無視するわけにもいかなかった。あまりにもタイミングが良すぎて、謎の襲撃者との関係が気になる。東軍の策か?




