少女(おとめ)
それでトラカドを現場に向かわせた。あの家康を殺さずに、他の誰かに押しつけるために。
きちんと役目を果たしてきたトラカドには、本当に感謝だ。
たぶん今頃、島津義弘はあの家康を死なない程度に拷問して、口を割らせているだろう。こちらとしては、その結果だけを聞けば十分だ。
北西の襲撃者に、いきなり現れた徳川家康。
(本当にどこまでが東軍の策なのやら)
とりあえず前者に対しては、熟練の忍者十人を、石田三成がいる西軍本陣の守りにつかせている。
変に不安にさせたくないので、まだ三成本人に「北西の襲撃者」のことは伝えていない。が、三成配下の信用できる者たち数名にだけ話して、本陣の北西側で兵たちの調練をしてもらっている。
(とりあえず、急場しのぎではあるが)
謎の襲撃者に対して、少しは牽制になるだろう。
このあと島左近はため息をついた。
熟練の忍者が不足している、それが痛い。精鋭部隊の四人が全滅していなければ、他にも打てる手があっただろうに・・・・・・。
もう一回ため息をついたところで、部下の一人が戻ってきた。
なんでも、東軍の騎馬隊が現在、この関ヶ原に急行しているという。
こうなる可能性を考えていたからこそ、狼煙の策や橋の策で時間を稼ごうとしたのだが、
(よくもまあ、次の手をぽんぽんと)
休んでいる暇がない。こちらの頭脳を合戦前に消耗させるのが狙いか?
悪くない戦い方だ。あっちは服部半蔵と黒田長政。二人がかりで、次の手を打ってくる。
「向かってきているのは誰だ?」
島左近は部下に聞く。
どうせ大した武将ではないだろう、そう考えていたのだが、
「どうやら、本多忠勝のようです」
「は?」
思わず聞き返す。
が、部下の報告を聞く限りだと、向かってきている武将の特徴は、どう考えても本多忠勝だ。
島左近は開いた口がふさがらない。
(ここで東軍最強を使ってくるか!?)
東軍の策、その意図がまったく読めない。
(しかし、本多忠勝が向かってきているとなると、あの家康は本物の可能性が・・・・・・。いや、さすがにあり得ない。徳川家康は東軍の総大将だぞ)
考えれば考えるほど、頭が混乱してくる。
だが、このまま何もしないわけにもいかない。東軍が接近しているのだ。その目的地で一番ありそうなのが・・・・・・。
すぐさまトラカドを呼ぶと、いくつかの指示をしてから、島津軍の陣地へ急いで向かわせた。




