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28.珍同盟

 怪しい男が拘束され、一旦落ち着いたところで、ミリアムは電撃を浴びせてしまった男性のところへ向かった。


 目的地は医務室。


 彼がそこにいることはパンから聞いた。


 ミリアムが驚かせないよう控えめな声で言いながら医務室に入ると、カーテンの向こう側に簡易的なベッドが透けて見える。


 すぐには返事がなかったため、ミリアムはしばらく待ってみた。

 しかし、待っても待っても、声が返ってくることはない。


 もしかしたら誰もいないのかもしれない——そんな風に考えながら、足を進める。


 その時だ、白いカーテンが僅かに開いたのは。


 細いカーテンの隙間から顔を覗かせたのは、ミリアムが電撃を浴びせてしまった男性。入室してきたのがミリアムだと理解するや否や、彼は素早くカーテンを閉めた。ミリアムと顔を合わせたくなかったのだろう。


「あの……待って。閉めないで。お話したいことがあるの……!」


 半透明なカーテンの向こうにいるのが会いたかった人物だと気づいたミリアムは、考えるより先に言葉を発してしまっていた。


 返事はない。

 男性は何も返してくれないし、カーテンを開けてさえくれない。


 自分は話したくとも向こうは話したくないのだ、と突き付けられたような気がして、ミリアムは胸を痛める。


「……ごめんなさい。会いたくないわよね。じゃあ、これで……失礼するわ。その……あんなことをしてしまって、本当にごめんなさい」


 ミリアムは進行方向を真逆に変えて歩き出す。

 医務室から出るために。



 静かに医務室を出て、しばらく歩いていると、正面からサラダが歩いてきた。隣にはロゼットもいる。


「あっ! ミリアムさん!」


 サラダはミリアムの存在にすぐに気づいた。そして明るく声をかけてくる。


「偶然ね、サラダ」

「こんなところに何か用だったんですか?」


 呑気なサラダはニコニコしながら尋ねてきた。


「攻撃してしまった人に謝ろうと思って。でも、話せなかったわ」

「えー。そうなんですかー?」

「そうなのよ。やっぱり……怖がられてしまうわよね」


 非能力者の前で能力を使えば恐れられる。それは何も驚くようなことではない。起こらずとも想像できるようなこと。何も特別なことではなく、普通にあり得たことだ。


 ミリアムとて、それを理解していなかったわけではない。


 エトランジェの人々に対して自身に宿るその力を行使するということは、己の牙を剥き出して威嚇するようなもの。

 その牙がただの牙であればそこまで畏怖の対象とはならないかもしれない。が、それが特殊な能力であれば、牙といっても単なる牙ではない。扱いも変わってくるというものだ。


「ミリアムさん。何か、元気がないようですが」


 既にある程度手当てを済ませている様子のロゼットが、気遣うように口を開いた。


「……そりゃあね。非能力者に……手を出してしまったんだもの……」


 いつになく元気を喪失してしまっているミリアムを心配そうに見つめているのは、ロゼットだけではない。彼の隣にいるサラダも、同じように心配そうな顔をしていた。

 サラダは非能力者。それゆえ、ミリアムの側につくのではなく、男性側についてしまう可能性も皆無ではなかった。しかし、今のサラダは、ミリアムを敵とは見なしていないようだ。


「あれは仕方のないことでしたよ。向こうも力技に出ようとしていましたから。今回の件、ミリアムさんに罪はありません」

「そ、そうですよ! そもそも! わたしも原因を作ってしまってましたし!」


 ミリアムは不安げな面持ちのまま「ロゼット……サラダ……」と呟く。


「わたしなんてロゼットさんにまで迷惑かけていますし……!」


 さりげなく自虐を盛り込んでいくサラダ。


「それは気にしないで下さい。……とにかく、ミリアムさんに問題はありませんよ」


 ロゼットは、改めて、ミリアムに罪はないと述べる。

 しかし、当のミリアムはというと、納得できない、とでも言いたげな顔つきのままだ。


「そう言われても困るわ」

「ミリアムさん、もしやお疲れなのでは? 休まれた方が」

「……それは貴方でしょう。ロゼット」


 はっきり言われたロゼットはきょとんとした顔をする。


「それはそうかもしれませんが」


 ミリアムはどこかうわの空だった。

 ロゼットもサラダもミリアムの味方をするようなことを言ってくれているが、ミリアムの耳にしっかりとは届いていない。


「今日はちょっとこれで帰らせて」


 ミリアムはそれだけ言って、サラダとロゼットの横を通り過ぎる。

 落ち込みの色が濃く浮かんでいるミリアムの背を見て、それから二人は視線を重ねた。


「……ミリアムさん、大丈夫でしょうか」

「気になりますね」


 サラダも、ロゼットも、同じようにミリアムのことを気にかけていた。


「ロゼットさん、あの……」


 ミリアムはそそくさと歩いていってしまい、もう背中も小さくしか見えない。そんなタイミングで、サラダが控えめに話を振る。


「はい。何か」


 ロゼットは事務的な対応をする。


「後で、ミリアムさんの家へ一緒に行きませんかっ」


 サラダはいきなり提案する。

 それも、不気味なくらい明るい口調で。


 サラダが明るいのは元々のこと。今に始まったことではないし、不自然なことでもない。だが、一度でも冷ややかな彼女を見てしまっていたら、明るい振る舞いをしていることが奇妙に思えてしまうものだ。


「……なぜ僕に?」

「ロゼットさんはご存知なんですよね。ミリアムさんの家のこと」

「あぁ、はい。一度お邪魔しました」

「良かった! じゃあ決まりですねっ。ミリアムさん家へ訪問する企画、いっきまーす!」


 サラダは妙にテンションが高く、ロゼットはただただ戸惑うことしかできなかった。が、ロゼットとてミリアムのことが気になっていないわけではない。落ち込んでいるようだった彼女のことは心配である。なので、今はサラダの提案に乗っておくことにした。


「もう少し時間が経ってから行くべきではないでしょうか」

「それはそうですよね! ミリアムさんが帰ってから、です!」


 サラダとロゼットの間に特別な感情はない。

 しかし、今は、ミリアムを励ましたいという共通の思いがある。


「ロゼットさん! 家までの案内、よろしくお願いしますね!」

「はい」


 共通の思いがある時、共通の願いがある時、人は団結し目標達成のために歩くことができる。今のサラダとロゼットは、身をもってそれを証明しているかのようだった。

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