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始まりのデスドライブ

「マッスル様! お気を確かに!」

「違う、違う。シルヴィはずっとわしの側にいるもん。本当は結婚なんてさせる気なかったもん」

「誰かあああ! マッスル様がまた幼児退行していらっしゃる!! 早く来てくれえええええ!」


 帰りの宇宙船では未だにマッスルは傷を癒せずにいた。

 認められない、けれど話せば話すほど確かにあの少年に惹かれるのも分かった気がした。

 良い目をしている。

 きっと素直に育てられてきた証拠だ。

 誰かの助けになる、口で言うのは簡単だがそれを貫ける人がどれほど居ようか。



「マッスルさん帰ったけどあれで良いのか?」

「良いの。たまには娘離れしてもらわないと」


 政府によって用意された、一部屋でシルヴィと豊は話していた。

 変哲もない一室だが、誰の目もないというのは有り難い事なのだと、豊は嚙みしめる。

 転校手続きも済み、準備は完了した。

 ここまでくれば、嫌でしたなんて事では、決してすまない。


「割と強引だよな。シルヴィも」

「ありがとう。それは褒め言葉よ。じゃあ迎えも来たし帰るわ! 明日迎えに行くから」


 ふりふりと手を振り回し、本当に自由な彼女はスキップしながら部屋を出て行った。

 やれやれ、なんて豊も最早言うつもりもない。

 この状況を享受し、在るべきことだとして受けいれる。

 それが、男の責任だと思う。


「行ってきます」

「じゃね、豊」


 別に家も変わった訳ではない。

 父母共に、豊の状況に何一つ口を出さなかった。

 着慣れない、茶色ブレザーを羽織り車を待つ。


「お早うございます。豊様!」

「おはようございます。宜しくお願いします」


 迎えに来てくれた運転手さんに頭を下げて豊は黒塗りの車の後部座席に乗り込んだ。

 目指すは、私立 姫桜学園。

 通称姫学は、決して中の生徒も見る事ができない超有名校だ。

 私立とは名ばかりの宇宙人学校で、全員がお姫様、その従事の方々らしく豊には、到底縁ない学園だ。

 この度は、名目上宇宙人と完璧にコミュニケーションをとる男として、人間との共存の為の一経験として扱われる事になる。


「おはよう、豊。あら、タイが曲がっているわよ」

「お嬢様、朝から大胆ですな。それでは飛ばすので、よく捕まってて下さいね」

「へ?」


 ぶおおおおおおおおんん!!!

 エンジンがかかり、とんでもない音が聞こえてきた。

 先ほどまでの優しそうな運転手は、何処へやら。

 黒の指ぬきグローブ、ティアドロップのサングラス装着し、被っていた帽子をほっぽり出した。


「豊、景色を見てはダメよ。吐くから、宜しくミルス」

「あいよお嬢! うおおおお! ひゃっはあああ!!」


 何でそんなに性格変わるの?

 シルヴィの星はみんなこんな感じなの?

 豊が思わずそう問い詰めたくなるくらい、激しくおじさんは進化した。



「レッツ、ダンシング!!!」


 キキーッ! 甲高い音ともに、地獄のダンスが幕を開けた。


「おえええええ、出る! 出るうううう!!」

「耐えなさい、豊!」


 グワングワンと、揺れ狂う車。

 右へ、左へ、左へ、右へ。

 その都度三半規管に大きく損傷を与えている気がする。


「行ってらっしゃいませ、お嬢様、豊様」


 敷地内に着いた頃には、天地はひっくり返っていた。

 豊の頭は揺れの衝撃で何度も頭をぶつけ、グロッキーを越えた何かに出会えそうだ。

 ここ姫学は全員が敷地内まで送ってもらう。

 それがルールのようで、誰一人校門前で止まる事は無かった。

 豊は衝撃に狂った頭を上げて、辺りを見渡した。


「なんだ、ここ……」


 そんなものが吹き飛ぶくらい、広大で莫大な土地が豊の眼前に広がっていた。

 バラが信じられないくらい咲いていて、中でも噴水が軽く見ただけで五はあった。

 ここまで広いのに、何故誰もその存在を知らないのか。

 豊は、もう一度広がる庭園と呼ぶにはあまりにも大きいその場所を見つめ続けた。


「ようこそ、豊。貴方の歓迎の為にこの薔薇を用意したそうよ」

「何でもう広がってるだ、どこの芸能記者なんだよ!」


 そう声を上げて、豊は天に向かって手を挙げた。

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