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【連載版】「もう会うこともあるまい」と手紙で私を捨てた元婚約者様へ。あなたが食べたそのお菓子、毒よりおそろしい「真実」が入っていました  作者: 佐倉美羽
或る婚約破棄の顛末〈血の聖夜事件〉

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拝啓 三月一五日 ミア・フェルネスト様ヘ

 お手紙、ありがとうございました。

 帝都では麦の芽吹きが始まっており、青く広がる草原が美しく出来上がっているとのこと。とても素敵ですね。ネコちゃんがのんびりと寝転がっているそうで、それもまた微笑ましい話です。


 まずはあなたに謝らねばなりません。事情があったとはいえ、あなたへ挨拶もなしに帝都を去ってしまったこと、ご心配をおかけして誠に申し訳ございません。お詫びと言っては何ですが、こちらの写し絵を同封します。ノクタリカの空は未だに分厚い雲に覆われ、街も民も心なしかドンヨリとしておりますが、ようやっと雲の切れ間から太陽の光が差し込んできた。そんな気持ちを込めて描いてみました。これから雲が晴れ、山はみごとな薄紅色に染まっていくことでしょう。


 そして、あなたのお手紙を読んでいて、私は少し笑ってしまいました。お察しの通り、私とあの人との婚約はおじゃんになってしまったのですが、なにもそこまで言わなくても。ミア。あなたの語彙の豊富さはどこから生まれたのでしょうか。まるで毒蛇が舌を鳴らしながら睨みつけるが如し。私の分まで怒ってくださって、本当にありがたいことです。あなたの洞察の真相は私の口からは言えないのですが、ここで少し豆知識を。蛇がチロチロと舌を出すのは獲物や脅威の存在が近いという意味らしいですね。まったく、興味深い生体です。私はそのうごうごとした蛇行を陰ながら見守ることにします。


 さて、こちらは久しぶりの我が家を楽しんでおります。思い返せば、給仕たちがあくせくと行き交い、煌びやかなシャンデリアの光が降り注ぐ帝都の屋敷よりも、刷毛で刷いたような雲が流れる朧月夜の方が落ち着きますね。窓の外を見上げると、あの人と婚約して帝都へ上ったときのことが浮かんで来ます。必死にモジモジしまいと肩肘を張っていたのですが、もう少し力を抜いてみてもよかったのかもしれません。と、言うことで私はグータラと過ごしていますので、ご安心を。父も母も「ずっと居ていい」と言ってくれていますので、しばらくその言葉に甘えようと思います。なので、どうか心配なさらず。


 それに、此度の婚約破談も悪いことばかりではありません。こうやって辺境伯の娘に過ぎなかった私が、ミアのような帝都評議会に名を連ねる貴族のご息女と知り合えたのは、ひとえに婚約あってのこと。とても幸運でした。これからも末永く仲良くしてくれたら嬉しいです。今度ぜひノクタリカの地にいらしてください。連なる銀の峰が横たわる田舎ではありますが、水と空気のおいしさでは帝都に負けません。都会の喧噪に疲れた際はぜひ。家族ともども歓迎いたします。

 それでは、また。


 敬具

 ライラ=ロ=ノクタリカ

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