拝啓 6月27日 ライラ さんへ
お手紙ありがとうございます。エーリカです。
添付した資料はアームストロング氏の部屋から発見された本から書き写したものです。頁には折り目が付いており、“愚者の毒”に二重線が引かれておりました。氏は正体不明の毒に怯えていたと考えられます。
念のため薬物辞典を確認しましたが、“愚者の毒”という名称は見当たりませんでした。少なくとも帝国医学においては正式な分類ではないようです。担当医にも確認しましたが、同様にそのような毒は聞いたことがないとのことでした。ジェイムズ氏の症状自体は“急性の胃腸疾患として説明可能”との見解です。
看護師としては、患者に医療ではなく魔女や魔術といったオカルティズムに走らせてしまったというのは忸怩たる思いです。
さて、他に疑う者がいる可能性についてですが、拝見した時は膝を打つばかりでした。証拠を握っている者がいることに留意して聞き取りを続けます。
今回はお屋敷の人間についてわたしが知っている限りでお伝えします。
◆ジョージ・アームストロング
長男です。商人ギルドの管理職としてジェイムズ様のお手伝いをしておりました。今でも役職についておられます。仕事に明け暮れて、家には眠りに帰るような方ですね。
最近、お屋敷の建て替えを考えておいでです。と、言うのもお屋敷自体がジェイムズ様の祖父が建てたものでして、経年劣化によりもうずいぶんとガタが来ております。
ジェイムズ様とのご関係は父子でありながら仕事仲間と言ったように見えました。父は家の血が絶えることを恐れており、息子がその矢面に立たされていた状況ですね。
妻ヘレンとの仲は客観的事実として冷え切っています。ただ、ヘレン様との結婚はジェイムズ様が決めた見合い婚でして、父親の手前離婚は出来なかったようです。仕事ではリーダーシップを発揮しているそうですが、家庭は優柔不断と言わざるを得ません。
◆ヘレン・アームストロング
ジョージ様の妻です。結婚当初はジェイムズ様も大層期待されていたそうですが、長く子どもが生まれず、そのせいでジェイムズ様やジョージ様との関係が悪化。日に日に険のある顔に変わっていきました。今では、お屋敷で口を開くこともめったにありません。その反動か嗜好品の服飾品を買いあさり、置き場で部屋が三つ埋まっています。特にP4KER宝飾店への入れ込みが強く、法外な値段が書かれた領収書を見たジョージ様に咎められた際は、大山鳴動の如く怒りをあらわにしておりました。余談ですが、わたしの予想では誰かに貢いでいるのではないかなと。
家にはほとんどおりませんが、ジェイムズ様に次いで家政を把握しております。現在は家をほぼ牛耳っており、ヘレン様なくして家は回りません。そのこともあって、ジョージ様も強く言えないご様子です。
◆フレッド・アームストロング
次男です。ロクデナシという言葉がよく似合うお方です。仕事をしているのかもわかりません。賭場と娼館をハシゴして、軍資金が無くなればふらりとお屋敷に現れる。いつも屋敷にいないのに、居てほしくないときに決まってそこにいる。そういうお方です。
言うまでもなく借金があります。ジェイムズ様は返済に対して一切協力しないという立場をとっており、露骨に冷遇しておりました。遺産も相続されましたが、全体の1割程度。わたしはこの件で一悶着あるだろうと思っておりましたが、弁護士から遺言書を伝えられている時は落ち着いていました。
ジェイムズ様とのご関係は険悪の一言。ヘレン様ともまともに会話になりません。ジョージ様だけは気にかけている様子ですが、徒労になる結果ばかりです。また、梅毒を患っており、サルバルサンという薬を服用されております。
◆リンクス及びリヒト・トレバー
双子の執事です。屋敷には数十人の使用人がおりますが、実質的な責任者は彼らです。友好的なリンクスに礼儀正しいリヒト。子どもの頃から仕えていたらしく、二人の母親も女給頭だったそうです。二人の母親はジェイムズ様と不義の仲を疑われたことがあるらしく、ジェイムズ様の奥方から酷いいじめにあっていたと双子から聞きました。
仕事ぶりは丁寧で誠実です。使用人たちからも評判がよく、家の者からも信頼されております。
報告は以上です。
お返事お待ちしております。
敬具
エーリカ・R・ワトスンより
追伸
わたしの趣味はお菓子作りです。




