拝啓 6月14日 ライラ=ロ=ノクタリカ さまへ
【ささやかな案内状】
この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。
本エピソードで読者の皆さまにご提示する謎は――犯人当て。
富豪アームストロング家に巣くう姿なき悪意、
すなわち「魔女」は誰なのか。
真実は、作中7月12日。
ライラが綴る一通の手紙によって明かされます。
ライラとともに推理を巡らせるもよし、
結末に驚かされるもよし。
どうぞ、物語の終わりまでお付き合いください。
お初にお目にかかります。P4KER宝飾店のロジャーさんより紹介があり、こうしてお手紙を差し上げました。エーリカ・R・ワトスンと申す者であります。
実は折り入って相談がございます。
わたしはとある屋敷に看護師として勤めておりまして、少し前に屋敷の主が亡くなりました。故人の名はジェイムズ・アームストロング。ギルド長として務め、62歳でその生涯を閉じました。死因は病による発作と診断され、先般葬儀を終えたところですが、どうも妙なんです。
アームストロング氏が亡くなったときのことをお話します。氏は私室で夕食を召し上がった直後に亡くなりました。わたしと氏の長男の奥様がご用意しましたので、献立も良く存じております。胃腸の病でしたので、麦にワイン少々とミルクを混ぜて温めた消化に優しいミルク粥でございました。
いつもは食べ終わりますと、空いた食器が部屋の外に出されるか、隣の看護師待機室に繋がった呼びベルが鳴らされるのですが、その日に限ってずいぶんと遅い。わたしは奥様とお食事をお持ちした後、看護師待機室でひとり読書をしながらお待ちしておりましたが、まったく音沙汰がなかったんです。不思議に思ったわたしは氏に夕食をお持ちしてから1時間近く経った折に、そろそろかなと、様子を見に参りました。
しかし、扉の前に立ったとき、看護師として勘と申しましょうか。何やら様子がおかしいと胸騒ぎがしたことをよく覚えております。喉の奥が詰まり、肌が粟立つような、そんな感覚です。意を決し、静かに扉を開けて中を確認したその時、わたしは目を見開きました。そこにはアームストロング氏がベッドから逃れるように床に倒れ伏し、苦悶の顔を浮かべながら腹を抑えて蹲っていたのです。顔は土気色で呼吸も浅い。小刻みに震えながら玉の汗を流しておいででした。
氏は息も絶え絶えにわたしを一瞥すると掠れるようなお声で医者を呼ぶように命じました。わたしは弾かれたように大声でご家族をお呼びし、大急ぎでかかりつけ医を呼びに飛び出したのですが、部屋に戻った時には時すでに遅く、もう氏はご家族に看取られながら、お亡くなりになっておりました。
察するに、アームストロング氏は最期の力を振り絞り、ご家族と別れの言葉を交わしながら、糸が切れたように力尽きた。床にはサイドデスクから落ちた食器が転がっており、残っていたお食事が床に撒かれている。そして、それをペットの犬が舐めていた。ぴちゃぴちゃと水音が響く部屋の中で、アームストロング氏を看取った長男、その妻、次男、執事2名が沈痛な面持ちで立ち尽くしていた。このような状況です。
その後、遺言書によって財産はご家族に分与されました。よくある話でございます。ですが、氏が飼っていた犬。これが、なぜかアームストロング氏の死後、数日で死んでしまったんです。ご家族は主人の後を追ったのだと悲しみに暮れておりましたが、わたしにどうにも※※※(かき消した跡)。いえ、はっきり申し上げます。わたしには氏の召し上がっていたお食事に毒が入っていたのではないかと、そう思わずにはいられないのです。
そこでライラ様はどう思われるかをお聞きしたくてお手紙を差し上げました。法王庁にはまだ申し立てておりません。氏の火葬は済んでおりますし、食器もすでに洗ってしまいました。毒の証拠は何も残っておらず、真実の残滓は言の葉の中にしか残っていません。このまま申し立てをしても、世迷言だと門前払いを食らうだけでしょう。
もし、ライラ様にお言葉を頂戴いただけましたら、せめてもの慰めになります。どうか、よろしくお願いいたします。
敬具
エーリカ・R・ワトスンより




