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第九話

時刻は午後20時。

空が暗くなる一方でイノベーションフェスタの会場である国際科学技術センターの周囲は外灯などで昼間と遜色ないほど明るい。

俺達矢野研究室のメンバーはイノベーションフェスタへの出展に際して大学から費用を潤沢に貰っているため今日は会場近くの高級レストランで食事をとることになった。


「遅いね」


待ち合わせ場所で腕時計を何度も確認しながら、宮坂は落ち着きなく辺りを見渡していた。

女子2人、冬川と朝霧がなかなか現れないのが気になって仕方がないらしい。

確かにもう20分ほど待っているが一向に現れる気配がない。


「落ち着け宮坂。レディの準備には時間がかかるもんなんだ。アニメでもだいたい、ヒロインが登場するのは2テンポ遅れてからって決まってるだろ?」


真田は自慢のアニメ論で宮本を納得させる。

それから数分後ようやく女子2人がやってきた。


「冬川・・・マジか」


「何だ?文句あるか?」


俺は冬川の格好を見てため息を付いた。

冬川の服装は普通のカジュアルなワンピース――の上から、いつもの白衣を羽織っていた。

ボタンは一切留めておらず、風になびくように裾が揺れている。まるで医者が急患対応の合間にレストランに来たような格好だ。


「今から行く場所分かってるのか?」


「勿論。レストランだろ。それも高級な」


「じゃあ、なぜ白衣を着ている?」


「今日一日中白衣を着てないせいか落ち着かなくてな」


冬川は常人には理解できない感性を持っているため本当の事なのだろう。


「すみません、暁先輩。私なりに止めたんですけどどうしても聞かなくて」


朝霧が申し訳なさそうに謝罪する。謝罪すべきは目の前でおなかを鳴らしているこいつ(冬川)だというのに・・・。


「朝霧が謝る事じゃない。それに、白衣の下に来ているワンピースは朝霧が選んだんだろ」


「どうしてそれを?」


「うーん。何となくセンスが良かったから?」


俺がそう言うと、朝霧の目がぱちくりと瞬いた。

一瞬、何を言われたのか理解できていないようだったが、次の瞬間、頬がふわりと赤く染まった。


「そ、そうですか。ありがとうございます!」


両手でスカートの裾をきゅっと握り、顔を伏せながらも、小さく笑うような声が漏れる。喜びを隠しきれないのが表情にも仕草にも出ていた。



レストランに到着し運ばれた料理を口にする。正直庶民的な味の方が好みだがこれはこれで悪くないと思う。


「それにしてもこのワインは香りが良い」


矢野教授は先ほどからワインの感想を言っているが通ぶりたいだけなのはこの場に居る全員が分かっていた。


「真田も飲め」


「酒はダメなんでオレンジジュース下さい」


真田は成人しているがこのセリフを言いたかったのかソフトドリンクを飲んでいる。

本当は酒を飲みたかっただろうがやけに満足げな顔をしている。


「暁先輩」


俺の隣に座っている朝霧が小声で話しかけてきた。


「どうした?」


「さっきからやけに視線を感じませんか?」


朝霧の言う様に周囲の客の視線を感じる。原因は明白だ。俺の対面に座って食事をしている女(冬川)の服装が浮いているから———ではなく俺たちの近くの席に現アメリカ大統領であるトム・ジェイクとテレビで見たことあるようなアメリカの政治家が食事をしていたからだ。

周囲の視線は俺達ではなく彼らに向いていた。それを朝霧は誤解したのだろう。


「気のせいだ。まあ、どうしても気になるなら俺と一緒に戻るのもありだぞ」


「いえ、せっかくなので食事を楽しみたいと思います。」


「そうか」


俺達の会話を一部始終見ていた冬川が不機嫌そうにこちらを見てくる。


「助手、なんか私と澪で対応が違くないか?」


冬川は不貞腐れたような声色で言った。


「そりゃあ、朝霧には愛嬌があるが冬川にはないからな」


冬川は俺の返答にイラついたのか、フォークを手に振り上げたまま顔を真っ赤にしている。


「とりあえず外の空気でも吸いに行くぞ」


このままでは店に迷惑を掛けかねないので冬川を一旦外に連れ出す。

朝霧は俺の意図が通じたのか「行ってらっしゃい」と一言。

冬川は立ち上がり、俺と一緒に店を出る。

店の外に出た途端、夜風が心地よく少しだけ肩の力が抜けたような気がした。


「何か話があるんだろ」


冬川は俺がわざと怒らせて外に出す口実を作ったことを理解していた。


「まさか、わざと怒った振りをしたのか?」


「いや、実際に頭に来たぞ。まあ、その話は今度しようか。」


後で一方的に嫌味を言われるのが確定してしまったが、それに見合う状況は作れた。


「話はあるが相手は冬川じゃない」


「私じゃない?他に誰か呼んだのか?」


俺は入り口から出てくる複数の人間を見た。

その男たちは、まるで最初から俺たちを目指していたかのように、迷いなく歩み寄ってきた。


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