第十七話
目的地(第一ホール)付近にはさらに多くの男たちが銃を持って徘徊している。
人数は10人以上。全員銃を携帯している。
「隊長、どうします?正面突破は厳しいかと」
部下の一人がささやく。
「…無理だな。別の経路を使う」
即答だった。
数秒後、公安の潜入部隊は一斉に姿勢を低くし、施設の構造図に基づいた別ルートへと進路を変えた。
照明がところどころ落ち、配線が剥き出しの細い廊下。敵の目が届かない裏側、だがそれゆえに足場も悪く、視界も限定される。
「ここを抜ければホールの南端に出る。急ぐぞ。」
漆間の命令に部隊が従い、無言のまま慎重に進む。全員が、銃口を低く構え、壁に沿って滑るように前進していた。
だが——
「伏せろ!!」
廊下の出口に差し掛かった瞬間、漆間が叫んだ。
次の瞬間、破裂音とともに火花が飛び散る。
銃声。跳弾。床を滑る閃光。
「ぐっ……!!」
一発の銃弾が部下の一人に命中した。
すかさず漆間が腕を伸ばし、その身体を強引に引きずって壁際の遮蔽物——配送用の大型コンテナの陰へと滑り込ませた。
他の部下も自己判断で遮蔽物へ逃げたようだ。
「大丈夫か?」
「問題ありません。掠っただけです」
そう言いながらも、彼の言葉には明らかに無理があった。
漆間は素早く視線を下に落とす。暗がりの中、制服のズボンの一部が破れ、そこからじわじわと滲む赤。
足の脛——そこに、銃弾が深く食い込んでいた。
「掠った、ねぇ……。どう見ても刺さってるんだが」
「……ッ、すみません」
「謝るな。動けるか?」
「……片足なら」
漆間は無言で頷いた。すぐにベルトを引き抜き、傷口の少し上を強く縛る。
漆間は耳元のイヤホンを指でコツンと叩いた。無線が通話モードになる。
「安西、聞こえるか?」
『はい、こちら安西』
少し離れた遮蔽物に隠れている安西から即答が返ってくる。
「来栖が足に一発食らった。そっちで連れて撤退しろ」
「待ってください! 俺、まだやれます!」
痛みに顔をしかめながらも、来栖が食い下がる。膝を押さえている手は震えていたが、その声だけははっきりしていた。
「その状態で前に出たら、真っ先に蜂の巣だ。命令に従え、来栖」
低く、鋭く言い放つ漆間。来栖は苦々しい表情のまま唇を噛んだ。
「……了解です」
その声には、未練がにじんでいた。だが、漆間はあえてそれを無視する。
「安西、来栖を任せる。外まで運んだら、状況次第で再合流しろ」
「了解」
無線越しに安西の声が返り、即座に遮蔽物から身を滑らせるように来栖のもとへ駆け寄った。
そうこうしているうちに、銃声を聞きつけた敵がじわじわと集まってきた。
最初は一人、次に二人——そして今は五人。こちらは安西と来栖が抜けて三人。再び、数で劣勢になっている。
しかも、今度はこっちの位置がバレてる。
「……お前ら、聞け。俺が先行する。フォローを頼む」
短く命じる漆間。その目は、すでに遮蔽物の向こうを見据えていた。
選んだ手は、殲滅。今この状況で生き残るには、それが一番手っ取り早い。
バン、と遮蔽物を蹴り飛ばすように飛び出す。派手に動いて、敵の目線を一気に自分へ引きつける。
その瞬間、背後の部下たちが遮蔽物から顔を出し、正確に引き金を引いた。
パン、パン——短く乾いた音が三度鳴り、敵が次々と崩れ落ちていく。
残るは二人。
漆間は立ち止まらなかった。
そのまま懐からナイフを抜き敵の懐に入り込む。
あっという間に一人が喉を押さえて倒れ、もう一人も腹部に一撃を受けてその場に崩れ落ちた。
——全員、制圧完了。
周囲にいた敵はすべて排除した——が、楽観はできなかった。
ひとり、無線機のようなものに向かって何かを叫んでいた男がいた。たぶん、仲間に報告したのだろう。
「移動するぞ。」
手で合図し、残った部下を率いて、薄暗い通路を駆ける。第一ホールから遠ざかる形で。
逃げるようで癪だったが、ここで囲まれたら終わりだ。
——それに。
(……嫌な予感がする。誰かに誘導されてる……そんな感じだ)
直感じゃない。現場での勘。
これまでに何度も死線をくぐってきた、公安警察・漆間諒也の“匂い”が告げていた。




