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第十二話

翌日、矢野研究室メンバーは全員揃って発表の準備をしていた。

学会が初めてで緊張しているのか朝霧と宮坂はどこか落ち着かない様子だ。


「二人共大丈夫?そんなに不安だったら俺のこの豊満な脂肪で包んでやってもいいんだぞ」


「いらないです」


朝霧が即答する。表情は強張っているが、少しだけ笑みが漏れた。


「じゃあ、僕はお世話になろうかな」


宮坂はそう言って真田の腹にダイブした。しかし、真田がひらりと躱したことで、宮坂はそのまま盛大に転んだ。


「男はノーセンキューです」


真田が胸元を軽く払いつつ、涼しい顔で言い放つ。


「大丈夫か?」


俺は床に這いつくばって動かない宮坂に手を差し伸べる。


「大丈夫じゃないです。多分脳の大事な部分を損傷しました」


「お前ら、何やってんだ」


冬川が自分の背丈を隠すような量の書類を抱えながら近づいて来る。そして、当然の様にその書類を俺に押し付けてきた。


「教授の発表は私がサポートするからお前たちは適当な場所で聞いててくれ」


「冬川がやるのか?不安なんだけど・・・」


俺の発言に真田、朝霧、宮坂が賛同する。


「お前ら、私を舐めてるだろ。発表内容は完全に理解しているし、何なら教授が分からい質問にだって答えられる」


自慢げに胸を張る冬川だが、俺たちの心配はそこではなかった。


「矢野教授の補佐の人、準備お願いします」


スタッフらしき人が控室の扉を開き静かに告げた。


「じゃあ、行ってくる」


俺達の不安をまるで理解していない冬川は堂々とステージへ向かった。



教授の発表は今発表しているメイリン・チェンの次だ。

彼女の研究は『クリーンエネルギーのための新型光触媒材料の開発』で環境問題に一石を投じるような内容だ。

やはりこのイノベーションフェスタに参加している科学者のレベルは高い。俺自身も科学に携わる者としてこの発表を最後まで聞きたいところだが、やらなければならないことが山ほどある。


「ちょっとトイレ行ってくる」


俺は静かに立ち上がり廊下へ足を向けた。

周囲を見渡し誰も居ない事を確認する。俺たちの情報を全て集め終えたのか監視の人間の姿も今朝から見当たらない。

俺はスマホを開き昨日真田が俺の為だけに開発してくれたソフトを起動する。


「お久しぶりです、マスター」


画面の中の少女リリスは笑顔で俺を出迎えてくれた。


「久しぶりだな。てか、お前のマスターは真田か教授じゃないのか?」


このリリスの開発者は教授と真田であり俺は何もしていない。


「確かに普段のマスター(管理者)は忠彦様ですが、マスター自身が一時的に如月様をマスターに昇格させました」


「なるほどな。それで、真田からどこまで聞いてる?」


「忠彦様からは何も聞いてません。ただ、如月様を手伝えとだけ。」


俺はその言葉を聞いて「十分だ」と答える。


「じゃあ、早速だがこの会場の監視カメラを全部ハッキングしてくれ」


俺が指示を出すとリリスは「かしこまりました」と告げ数秒で監視カメラの画面を出した。

俺は数百ものカメラを一つ一つ確認する。下層階のカメラには、現在進行形で進む学会の様子が映し出されている。

スーツ姿の研究者たちが壇上の発表者に聞き入っている。

中層階では、参加者用の居住エリアに隣接する廊下が映っており、人の気配はまばらだ。

そして上層階。ここは国際科学技術センターの心臓部。危険物や毒物、最新鋭の実験装置が並ぶ、立ち入り厳禁のフロアだ。

そして俺はその中でも自分たちが寝泊まりする部屋に注目しある人物が入ってくるのを待つ。

やがて、俺たちの宿泊部屋の映像に動きがあった。


「……どうやら、罠に掛かったようだな」


俺は悪戯っぽく口角を上げ、呟く。


「マスター、嬉しそうですね」


画面の中のリリスが、ほんの少し微笑んだ気がした

宿泊フロアの静けさの中、俺は自分たちの部屋の前に立ち、わずかに深呼吸してからドアノブに手をかけた。

カチャリ、と音を立てて扉をゆっくり押し開ける。


「やっぱり、お前だったのか。アメリカに情報を流してたのは」


室内には、うっすらとモニターの光だけが灯っている。

俺のノートPCの前に座り、画面に何かを打ち込んでいたのは——宮坂だった。


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