第十一話
その後、少しの雑談を終え俺と冬川は気分転換に夜道を歩く。
「あーあ、これで私たちの命が狙われることが確定したな」
冬川が言っているのはあの場で永久機関の情報を渡しておけば命を狙われずに済んだという事だ。
「時間の問題だろ。アメリカ軍が永久機関の情報を独占するためにはその原理を知っている俺と冬川はいつか殺される。何なら矢野研全員が狙われる可能性だって大いにある」
「それもそうだな・・・」
少しの沈黙の後、冬川はぽつりと呟いた。
「なあ、助手。永久機関・・・作らなかった方が良かったと思うか?」
それは後悔の質問だったのか、それとも、罪悪感の吐露だったのか。
正直、俺には分からなかった。だが、答えだけは決まっていた。
「俺は作らなかった方が良かったなんて一度も思ったことは無い。と言うか、冬川が永久機関の研究を始めると言い出してからこうなることは何となく想像できてた」
冬川は安心したような表情をする。
再び沈黙が流れる。
冬川とは付き合いもそこそこ長くなり、沈黙が気まずいと思う事は無くなったが、なぜか今は凄く気まずい。
「・・・」
「・・・」
お互いに何も話さない。
沈黙に耐えられなくなった俺は適当に口を開く。
「冬川って敬語使えたんだな」
「馬鹿にしてる?」
「いや、素直に驚いただけ。いつも、目上の人間相手でも敬語使わないから敬語を話せないのかと」
本当に冬川が誰かに敬語を使うところなんて見たことが無かった。
「アメリカ大統領だぞ。それに命を狙われてる身だ。私の生存本能が正常に機能したという事だ。」
「その生存本能、普段の実験でももう少し働かせてくれよ」
冬川は周囲の事を気にせず実験をするため度々研究室に有毒ガスが充満することがあった。
先月も矢野教授が研究室に入ったとたんに気を失い救急車で運ばれた。
原因はもちろん冬川が密室で毒ガスを充満させたからだ。
本人はガスマスクを装着していて何の問題もなかった。
こういうことが頻発することで矢野研究室が周囲から禁忌ラボと呼ばれている。
「私は安全に実験しているだろ。お前らが近づいて来るのが悪い」
「研究室は共用の場所だろ!」
自分は全く悪くないという冬川の主張に思わずツッコんでしまった。
冬川は分が悪くなったことを感じ取りわざとらしく咳払いし話題を変える。
「それで、トム・ジェイクと接触して何か得られたのか?」
話題を切り替えた冬川に俺は少しだけ表情を引き締めた。
「まあな。まず、俺たちが永久機関の情報を絶対に渡すつもりが無いという事を直接伝えることが出来た」
「そんなの直接言わなくてもメールとかで伝えればよかっただろ」
冬川は意味が分からないといった表情をする。
「いや、俺たちの意思を伝えるためには相手から直接聞かれなければならなかった」
「どういう事?」
「アメリカ側は、秘密裏に俺たちを狙っている。だが、偶然にも俺がアメリカの動きに気づいた。つまり、俺たちが永久機関のデータを渡すつもりがないと伝えることで俺たちがアメリカの狙いに気づいていたことを明かしたことになる」
「確かに、言われてみればアメリカ側はまだ私たちを狙っていることを気づかれていないと思っている」
「そうだ。それこそが俺達のアドバンテージだ。戦力では圧倒的に負けているが情報量なら俺たちが勝っている」
「そしてあと一つ。トム・ジェイクとの雑談で裏切り者を炙り出す布石を置いておいた」
「その布石って?」
「明日になれば分かるさ」
最後に冬川には言わなかったがアメリカ軍のウィークポイントを見つけたかもしれない。
これがこれから起こるであろう騒動にどう作用するかは分からないが頭の片隅には入れておこう。




