Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #167
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #167
少女の前までオレが歩み、少女が不思議そうに首をかしげる 何も知らない…という少女の態度 元のオレは少女を慈しむように語りかけ、少女は虫を見るような感情のない目で返す もう愛情も関心もなくなった恋人のような反応に 時間が経てば直るだろう、みたいな安易な考えの基、オレは特に彼女に対して声もかけずに何もせずに、肩をすくめて踵を返し、廊下へと帰って行って…ムービーは終わる
いやそれはダメだろ…そう何度、突っ込んだか……
少女がこの椅子に座っている限り このイベントは何度でも起きる…ここへと入るたび シナリオは止まり、新しい場所へ行くこともできずに、いままでのいくつかのところへも行けなくなり、進展はなく、行き詰る 封鎖状態に陥る 開放するには屋上へと向かい、死に戻るしかない そこであるアイテムを手に入れる必要がある…そこまで到達していない今のオレにその資格はない
いや…同じようなアイテム オレはそれをいま、持っている…だがそれは……
この少女がすべての元凶…ほぼ間違いなく だがマイケルは何もせず、質問もせず、咎めもせずにただ帰るだけ 同じ状況に落とし込まれて…何を聞いたらいいのか全く思いつかなかった
イベントが起こり…少女が首をかしげた その途端 唐突に 自由意思が戻った 前兆もなにもなく 視線がオレの視野へ 身体に自由が戻る感覚…そして背負わされる ここでの全責任 いきなりの選択肢の発生…考えうる模範解答は二つ
〉少年と直に話す
〉イベント通りに立ち去る
実際の選択は隠された三つ目 相手に気づかれるのは避けなければいけない
〉状況を持続させる
こちらが無害であると相手が思っている ならそれに乗る 情報を吐きださせる
少年はまず間違いなくプレイヤー NPCでも実際にはどちらでも構わない…なにをしているのか 何がいま、このゲームに起こっているのか…オレたちは何もわからない なら…と聞いた解答が、まさかほかのプレイヤーを殺している、とかいいだす妄想癖にも似た、サイコな奴とは…敵対的なプレイヤーを演じたい奴はどんなところにも存在する…それこそGのように 優位に立ちたい 暴れ回りたい すっきりしたい そんな思考と指向を持つ奴らは戸板の水のように流れ堕ちる…周囲に容易く感化される 周りがそうだから自分もそうする…いつもどこかであいもかわらずに見る景観 自身に逮捕状が発効されるまでそれは続く…警官が押し寄せるまで 交流する相手、全員が全部、友好的であるとは限らない それぞれに即した、ぞれぞれの対応をする
「ああ…オレはマイケル、マイケル…ミドルパーカー、ここの2階に入院している。だけど気が付いたら病院がこんな風になっていてね? 誰もいないし…少々困っていたんだ…きみは…ええと? 名前はなんていうんだい?」
「………」
「アハハハハ…何だこいつ? ここに入院してるだって? 気が付いたらこんなになってた? バカじゃないのか? こんなゾンビみたいなやつらが歩き回っている病院に来た時点で気づくだろうがよ。頭、悪すぎるのにも程があるな…なあ、そう思うだろ?」
それにさえ少女は微笑みだけで応えた ただそこには若干の曖昧さが加味加えられている その真意に気がつくこともできないとは…ひとはほかの事に気を取られていると、事実を見誤る…行動理論的作為齟齬 特に他人と話しているような時には起こりやすい
「解答なしか…困ったな」
「知らないんだろ? こいつも。いい加減どっか行けよ、おっさん…ほんとうにぶち殺すぞ?」
最期のセリフだけをだみ声にして、まるでこれが地声です、とでもいうような雑味と嫌味が加わった声で少年はそういった……
「怖かねえよ…こういったのは本気で殺らないといけねえんだよ…ああ? 独り言喋ってるって? そんなこと…あー、プレイヤーじゃねえからそう見える? いい加減飽きてきてよ、この本を読むのももううんざりだ…絵本なんてガキの頃さえ読んじゃいねーってのによ。なんで今更こんなくだらねーもん、読まなきゃいけないんだか……」
少女と少年の間 少年の肩幅ほどある絵本 それはちょうど少年たちの腰の辺り、太腿の上 シートベルトのようにふたりをそこに抑えつけて 少しだけ隙間のある浮いた状態で空中に固定されていた 重厚で重量感溢れる本のページは飛び立つかのように開かれていて 少年はその開いたページを雑に指先で弾くように叩く 光の粒子が指先から飛ぶ…ダメージエフェクト それから本のページを愛でるように指でなぞり…いきなり、そこへと腕を振り下ろした 拳の先、伸びる光…八つ当たりするように腕を降ろした少年と理不尽に怒りをぶつけられた本の間から 煌めく破片が鋭い高い破裂音を発して飛び散った 粉々に砕け散った金属が回転しながら輝いて、そのひとつが少年の顔へと向かい陶器のような肌を切った
血を滴らせながら 少年が舌打ちをした
「ちっ」
刃物? 何も持っていなかった少年の手に、確かに鋭利な刃先が見えた それで…本を攻撃した なのに逆に刃先が砕け破壊され…イモータル属性? 少年のきれいな顔へと飛んだ欠片が頬を切り裂いた 鮮血と深く突き刺さる刃先 傷口からは…赤ではなく黒い? 内部が覗き、赤い体液が襟元へと滴り、白のシャツをワイン色に染めていく が、それすらもまたすぐに元の淡い白い襟元へと戻り、本に飛び散った血液はページに吸い込まれるように消えていった
少年が傷口を指で拭う 指先と頬に残る線状の痕 だが、指が動いだ後、傷口は跡形もなく塞がり 傷があったことさえわからなくなった 擦った血の線だけに残された痛みの痕 それさえも徐々に肌に吸い込まれるように消え、元のうり二つのきれいな双子がそこに揃った
「………」
その行動にさえ 少女は無言のまま ものおく微笑んだ
「ほんと邪魔くせー本だぜ…これがあるせいで、椅子から出られねー。縛り付けられてなきゃあもっと楽に殺せるのによ……」
そうだった…この本は閉じられない 本を閉じれば…それには何がいる? オレが持つあるものをそこに置きさえすれば、少女は解放されて、ルートが開く だが…こいつをこのまま開放するには…もう少し情報がいる……




