完
「ツーちゃん絶対トリプル食べるアル! 先に頼んでヨロシ?」
「参謀がトリプル行くなら、幹部の俺もトリプル確定だ。活躍の度合いを考えてクアトロがあればそちらにするべきなのだがなぁ!」
「カイザーそんなに活躍したアルカ?」
「なにおう⁉︎」
「コソコソ隠れてやり過ごしてただけな気がするヨ。それに引き換え、ツーちゃんは歴史に名を残せるほどの大活躍だったネ!」
「言わせておけば、生意気な!」
「ふふんっ……私もトリプル。食べたいなあ。何味にしようかしら?」
「ここってこんなに種類あんだなぁ。アイスだけじゃなくてシャーベットもあんじゃねえか」
「ソンくん。何味探してるの? 薄毛に効く食べ物味?」
「バカにしてるつもりだろうが見てみろ。『石井味噌バタースコッチ』に『ブルーベリーバジル』なんて味まであるんだぜ? 牡蠣味とか甘草味とかあってもおかしくないだろ」
「全員がトリプルを頼んだら……アイス代の八〇〇円と、ダブル以上の注文にはワッフルコーンのプラス五〇円が必要で、八五〇掛ける六人の合計五一〇〇円ですか。やばい、お金下ろしてないから立て替えられないぞこれ」
「なんだハクヤ、立て替えようとしてくれてたの? 別に俺たちは自分のぶん払うけど」
「私も。お財布。ちゃんと持ってきてるから。大丈夫よ?」
「本当ですか! 助かった……」
「おいおい、俺たちが財布持たずにもの食べようとしてるとでも思ったんか?」
「そこでやり合ってるポニーテールとツインテールに聞いてください……」
「ふふんっ……色々あったのね。それにしても迷うわあ。にーしーろー……とーじゅういちー……じゅうなな……まぁあれね。たくさんあるわ」
「二〇種類です、御眠さん。そこまで数えたんだから頑張りましょうよ……」
「ハクヤ君。『マル井わさび』というやつがおいしいよ」
「ワサビしか食べないワサビーガンかあんた。緑色の食べ物以外の選択肢はないんですか?」
「ふっ、決めたぞ。俺は『キャッスルスタウトファッジ』に『ジャックダニエル』、そして最後は『カルーア&クリームリキュール』のトリプルコンボでいくぜッ!」
「 全 部 横 文 字 ! 」
「いいないいな、ツーちゃんもそうするネッ!」
「やめといた方がいい。こいつは酒が入っている(度数約二%)から、お子様にはまだ早いぜ。ツーなんかが食べたら泥酔は免られない」
「うえぇ、そうアルカ⁉︎」
「酔ってんのはあんただろ。自分に」
「まぁもう少し大人になってから出直すんだなぁ参謀! でないと、火傷することになるぜ!」
「今回は見送るとするネ……」
「低温火傷かな?」
大王わさび農場から車で二分。
安曇野わさび街道を南下していった先で、左手に見つけることのできる店の名は『マウントデザートアイランドアイスクリーム』。
米国メイン州のマウント・デザート島で創業されたこのアイスクリームショップは、日本進出するにあたって、一号店を長野県松本市、二号店を同県安曇野市に出店するという、少し変わったお店である。なんでも素材重視かつ少量生産の販売方法と、北アルプスの綺麗な湧水が使える安曇野という土地の方向性が合致していたのだとか。
また興味深いのは、豊富かつ独特過ぎるフレーバーのバリエーションである。
創業者のリンダ・パーカーが求めた「どこにもないようなアイス作り」が色濃く反映されたメニューは、海外由来の「ベトナムコーヒー」や「マダガスカルバニラビーン」といったフレーバーから、「宇治山政抹茶」、「信州アップルソルベ」といった日本の素材を活かしたものと幅が広い。
店頭に並ぶのは二〇種類だが、時期に合わせて商品の入れ替えがあるため、普通のアイスクリームショップでは到底見られないような個性的なフレーバーを、ショーケースに並ぶ以上の数だけ見つけることができる。
「これってやっぱり、注文した順番に合わせて盛りつけられる順番も決まるんですかね?」
「まぁそうだね。先に伝えておけば、任意の順番で掬ってくれるはずだろうし」
「となると、やっぱり無難な味が一番下に来るようにするべきか……」
セーフティーネット。
言い換えれば予防線というやつである。
「ハーくん、そんなんで完全燃焼できるアルカ?」
「燃えるより涼みたいもんでね」
「それじゃ面白くないアル! もっと冒険するべきネ!」
「俺はそんなにギャンブラーじゃねえ!」
と、そこで。
揺れるズボン。
鳴るスマートフォン。
確認してみれば、兄からの着信だった。
「すみません、電話来ちゃったんでちょっと出てきますね」
西洋らしい内装のなかで一箇所だけ妙に和風な木製の引き戸を滑らせ、柏矢は外へ出る。
「もしもし、兄さん?」
「やぁ柏矢、元気か? ちっと話してえことあってな」
その口調。
デンパ先生のような口ぶりに、柏矢は一瞬思考停止する。
「…………え、どういうこと? なんで信州弁なの⁇」
「あっはっは! いやぁなかなか帰ってこないから、気になって位置情報アプリで居場所確認しちゃったんだよ。そしたら長野なんかにいるじゃんか。なんで急に『里帰り』なんか、って思ってな」
「はあ、里帰り⁇ ちょっと待てよ、なに言ってるのか分からねえんだけど」
「なに、お前ただただ長野行ってるだけ? てっきり実家に顔出してその足で遊び回ってるんかと思ってたよ」
「…………俺らの実家って、長野にあるのか?」
電話を落としそうだった。
「お袋の親戚が諏訪にいるんだよ。まぁ、あの人が死んでから関わらなくなっちまったからな。柏矢はほとんど知らないか」
紛らわしい土地名。
玄関に出る度に見たカエルたち。
腕に浮かび上がった紋様。
諏訪の、蛙伝説。
もしかしたら、ここに来るように。
そうなるように、なっていたのかもしれない。
なんて、おかしな運命論を夢想していないで、戻らなきゃと。
そう思った。
「友達待ってるから切るよ、兄さん?」
「ああ、悪い。楽しんでな。でもあんまり長居しちゃ迷惑になるから、早く帰って来いよ?」
電話を切り、ウッドデッキ風のテラスを横切って、入り口のドアを横に引いた。
「ハクヤ君、みんなはもう決めたよ。君はどうする?」
「そうですね。俺は『信州アップルソルベ』と『真澄酒粕チョコ』と……」
尻ポケットにスマートフォンを仕舞い、
柏矢は店員に注文を告げる。
「あと『マル井わさび』を、お願いします!」
十七歳。
高校二年生。
夏休みはまだ、始まったばかりだ。




