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一方、その頃。
大王わさび農場、大王窟。
「報告があったのはここか……『レプリカ』とは思えない邪気だ」
「『聖地』っちゅうもんはな、人ん都合ひとつでころころ変わるもんずら」
野暮用、というやつで来ていたカイザーとエクレールは、人工的に作られた洞窟の薄明かりにぼんやり照らされながら、最奥に置かれた二つの小さな石仏を眺めていた。
かつて有明山に封じられた八面大王。
その魂を祀るための再現洞窟が、この『大王窟』である。
剥き出しの岩肌が並ぶ洞窟は、紙垂と房の飾りが交互についた注連縄が入り口を飾っており、高さは大人の背丈ほど。そこまで深くはなく、少し歩けば、終端に置かれた二つの石仏とその前の平たい石の皿に供えられた賽銭が見えてくる。
二つの地蔵菩薩像は簡素な彫りが特徴的で、名前はない。
暖色系の小さなライトの光を受け、魔術師のふわふわワサビグリーンの髪が、静かに光る。
「キリストの生まれたっちゅう『ベツレヘム』は預言に合わすために後からこしらえた話だし、広島ん『厳島神社』かて台風が来るたんびに壊されては作り直されとるんさ」
「再現だからどうこう、という道理はないわけだな」
「んだ。聖地ってやつには、原理主義っちゅうもんは向かんってことずらな」
エクレールが賽銭を投げ、手を合わせる。
ぽちゃり、と。
光の雫が洞窟のなかに落ちたように、淡い黄色の波紋が地面を伝って広がり、カイザーとエクレールの足元に到達した。
それに呼応して、エクレールの腕に隠された九頭龍大神の紋様が浮かび、ワサビ色に光る。
「やっぱり、ここに出てきよるか」
「『大王庵』で俺たちが遭遇した姑獲鳥。あれの出現後に『端物』も現れたって話だ。一昨日の夜も『端物』が現れた後、同じ場所に『本体』が現れたんだろう。同じ場所に形を変えて二度出現する。こういう法則性だと考えてもいいんじゃないか?」
「乳房大橋んとこに出たやつのことか。けどな、おらがハクヤ君と初めて会ったとき、有明駅で『端物』が出たっけな、あれっきりだったに。でもまぁその前に鎮めた本体二つは、『端物』と同じとこに出とったんだったか……うーん、妙な話だに」
「たしかにサンプルが少なくて判断に困るが、悪くない賭けだろ。事前準備が必須になりつつあるんだし」
「ああ、段々だけんど『本体』ん力が確実に強うなっとるでな。ある程度は先読みして、結界くらいは張っときてぇとこだに」
祈りを終えて、合掌を解いたエクレールが、洞窟の出口へと踵を返す。
「そんときゃな。おらとカイザーと、ツーちゃんと三人で、なんとかすっちゃ」
「ハクヤはどうするんだ? きっと手伝いたがるぞ」
「ソンと御眠と、うちでおとなしく待っとってもらうに。あぶねぇでな」
「俺が戦力として不可欠なのは当然として、ツーも置いていった方がいいんじゃないか?」
「二人だけだとちぃと心許ないんよ。あの子なら動きが人一倍きびんだでな。神具の使い方も他の誰より覚えとるし、いざってときゃ一人でもすっと逃げられる」
「……マジなんだな、エクレール。あんたが『逃げる』なんて言い出すってことは」
洞窟を出ると、夏の強い日差しが待っていた。
眩しさに手で廂を作ったふわふわワサビグリーンの魔術師は、溜息を一つ、ひそめた眉で緩やかな「ハ」の字を描いて空を見上げた。




