第3章:新たなる肉体の創世
漆黒の虚空の中、
浮かぶ光の輪が、微かに震えながら輝いていた。
それは、無限の空に吊るされた生きた星のようで、
神聖さすら感じさせる脈動を続けていた。
その中心で、不可視の力が動き始める。
何者かに導かれるように――創造の儀が静かに始まった。
すべては、一つの小さな火花から。
儚く、脆く、それでも確かに存在するその光は、
円の中央にふと現れた。
やがてその輝きは、ゆっくりと糸のように伸び、
まるで風に揺らぐ銀の糸のように揺れ動く。
それは徐々に質量を持ち、
滑らかで硬質なものへと変化していった。
――脊椎。
一つずつ、まるで旋律に合わせるかのように、
椎骨が整然と並び始める。
音もなく、しかし絶対的な意志をもって、
それらは完璧な配置で嵌め込まれていった。
その中心を軸に、次々と銀の糸が放たれ、
肋骨、骨盤、そして手足の原型が編まれていく。
骨は驚くほど繊細に、
まるで神の彫刻家が一つずつ彫り上げるかのように作られていた。
指の関節は緻密に重なり、
肩甲骨の湾曲や頭蓋の構造すら、恐ろしいほど正確に形成されていった。
そして――
骨格の完成と共に、
輪の中から赤い光が放たれる。
それは心臓の鼓動のように脈動し、
骨を優しく、しかし力強く包み込んだ。
その赤はやがて枝のように分かれ、
絡みつくようにして骨に巻きついていく。
まるで古の大樹の根のように、
複雑に張り巡らされていくそれは――
血管だった。
まずは太く力強い動脈が、
次に、それを補うようにして細かな静脈と毛細血管が無数に広がる。
赤い光は、そこに「命の息吹」を宿していた。
脈打つように、静かに、しかし確実に。
そして次に現れたのは、青。
鋭く、力強い青い光が、空中に浮かび、骨と血管を取り囲む。
それらは次第に赤に絡まり、
やがて筋肉という“肉”を形作っていった。
層を重ねながら、筋繊維が繋がっていく。
それを束ねるのは、眩いほどの白光――靭帯だ。
胸部の曲線、腕の力強さ、脚の重厚さ。
そのすべてが、芸術的な精度で描かれていく。
腱が筋を引き、骨に命を繋げる。
その工程は、まさに神業だった。
――そして最後に、金。
金色の光が天から舞い降りる。
それは柔らかく、温かく、
祝福のように、肉体を優しく撫でた。
その瞬間、透明な膜が肌となって全身を包み始める。
初めは薄く脆いその肌は、徐々に滑らかさを増し、
やがてしなやかで均一な人の皮膚となった。
関節のしわ、毛穴、微細な陰影。
そして、最後に――
顔。
鼻、唇、瞼。
眠るように閉じられた表情が、静かに形を成す。
完成した肉体は、光の輪の中で浮かんでいた。
動かず、語らず、まるで永遠を宿す彫像のように。
だが、空気には確かに緊張が漂っていた。
宇宙そのものが、息を止めているかのように。
――そして。
音もなく、風が吹いた。
目に見えぬその風は、力強く、内なる鼓動を伴っていた。
それは肉体の全てに入り込み、
血管に、筋肉に、神経に、命を注ぎ込む。
光の輪が最後の振動を見せ、
強い閃光を虚無の中に放った――
――そして、すべてが、闇に沈んだ。




