06-1 宿主、魔法少女は死にたい
前後編の前編です。
後編は19:00予約です。
何が称号「魔法少女」よ!
全然上手にならないじゃない! 期待されて村から出てきたけど、こんな底辺冒険者じゃ帰れないわよ!
魔法使いは後方火力よ。なのに私の魔法は飛ばないのよ。おかしいじゃない! 飛ばないし、クリーチャーに近付く運動神経もないわ。当てられない魔法に何の意味があるのよ!
とうとう、パーティーを止めたわ。火打ち石程度の価値しかないものね。当然よ。優しいパーティーだったから居たかった。皆に貢献したかった。
……もう、村に帰ろ。居場所はないけど、薪にならなるわ。そう、物として朽ちていくのよ。
ははっ。悔しい!
* * *
今回の宿主は魔法少女か。称号の魔法少女は歳を取ると美魔女とかに変化するのかな? じゃないと痛い。数年したら少女は失業だろうに、せめて魔法美女ならいいのにな。美人だし。
しかし、故郷に帰る道中なのに食料が乏しい。装備もない。ゴブリンすら怪しいぞ。荒い街道だが盗賊も出るかもしれない。んー、自殺行為。いや、理由を付けて殺されたいのか。
自分に絶望してるしな。
宿主の魔法少女は頑張り屋さんだ。冒険者パーティーでも雑用は率先してしていたし、出来る範囲は全てしていた。だが、欠けているものが大きすぎた。
戦力にならない。
少数パーティーでは複数の役割を各自で分担するが、戦闘に関しては補い合い強さとする。それに貢献できないのだ。優しいパーティーだったが、命をかける職業だ。守るものは少ない方がいい。弱点は壊滅の危険がはらむ。苦肉の決断だったようだ。
この魔法少女。極度に魔力が強いが、身体能力は低い。典型的な魔法使いなのだが、称号で縛りがある。魔法で直接殴る。遠距離攻撃ではないのだ。弱いので前には出れず、後方で出来ることはない。持ち腐れ。
おもいっきり自分に失望してる。
出会ったのは失意の底の一歩手前。1ヶ月前だろうか。僕は普通に買われた。失意のどん底に落ちたのは5日前。魔法少女を庇って仲間が怪我をした。魔法少女は脱退を決意し、パーティーは止めたいが結果があるため止められず受理した。
「来たわね。もう私は魔法少女じゃないわ。魔法も使えないのよ。さあ、戦いましょう」
ん? 称号ってオンオフ可能なの? あ、マジでオフってる。魔法少女の魔法は称号由来か。クリーチャーは上質な肉を求めるから称号をオンにして歩いて、目の前で戦う手段の称号をオフにする。過去にオフって修行でもしたのかな? オンオフの切り替えが自然だった。
絶望をもたらすクリーチャーはゴブリン1匹。はぐれのゴブリンか。これなら僕でも迎撃可能だが、今回は勝手させてもらおう。悪くない性格だ。死ぬには惜しいが、僕の囁きに耳は貸すまい。
セット、『称号「蛮族+10」』、『身体能力強化(統合)』、これで十分に倒せるだろう。本人の気持ち次第だがな。
「な……に……これ!? 体が疼く。あぁー…………あはっ♪」
称号「蛮族」は野生に帰るからな。本能が疼く。本当に死にたくなかったら生存本能が敵を殺せと叫ぶ。
バコンッ!
見事なやくざキック。倒れたゴブリンに馬乗りで執拗に顔面を殴る。称号「魔法少女」は魔法の適正をもたらすが、魔力は少女のものだ。モリモリの身体能力強化(統合)が潤沢な魔力で唸る。
「はぁ、はぁ、はぁ。何してるの、私。初めてゴブリンを倒せたわ」
(悪くないな)
「誰!?」
(ああ、スライムだ。少しだけ特殊なだけだ。今も腹に居るさ)
「はぁ? 意味わからないわよ」
(称号を封じたから、僕が蛮族の称号を貸しただけだ。身体能力強化もオマケでつけた。どうだ? 戦えるっていいだろ? 生きてるって嬉しいだろ?)
「あっ!」
魔法少女は泣いていた。自然と零れる涙に気が付いた。強がっても年頃の少女だ。死は怖く、生きていたいのだ。
(宿主が死ぬと僕は困るんだ。僕は生きたい。魔法少女はどうだ?)
「魔法少女って、いつから見て……1ヶ月前からね。嫌味なの? 魔法を使えない魔法少女って」
(見ていた限り、使い方だな。僕と共に生きないか?)
「悔しいけど、死ぬのが怖いわ。使いなさいよ!」
(スライムに操る能力はない。使えるギフトを貸すだけだ。それをスキルへと昇華して自分の物にするといい)
「使わないのなら、使われてやるわ! 私の意思で! 奴隷のように扱いなさい!」
魔法少女は野生に帰るようだ。どうも故郷にも帰れず、優しいパーティーのいる町にも顔を出せない。サバイバル生活で生かせとの要望だ。なら、食える獣を狩って、食える果実を探して、ああ、先ずは寝床か。
○ ○ ○
故郷への街道は人通りは少ない。主要街道ではないのだろう。街道とは大体が水場を必要とする。行商が馬に水を与えるためだ。お、あった。透視は便利だな。不必要な物を透過する視力を与える。川を探せば直ぐだ。
街道の影になる小高い丘を削った川の岸壁を拠点とすることにした。魔法少女は水を魔法で生めるが、普通に水場は欲しい。あと、崖の中腹に穴を掘ることで夜の襲撃への守りとする。
「私って土木工事に適正があったのかしら?」
(触れれば使える魔法だ。今からでも町に帰るか?)
称号を魔法少女にして、僕のギフトから魔法「火・水・風・土+2・氷」を適応中。僕のギフトでも魔法少女だと魔法は飛ばない。
「私は貴方の奴隷よ。スライムの奴隷って底辺でお似合いだわ」
(まあ、いい。ロッククライミングが出来て良かったよ)
「ろっく? ああ、崖上りね。貴重野草は崖に残ってることは多いわ。魔法で足場を作れば私でも上れるもの。私の使い道はそのくらいよ」
魔法少女の称号は、火水風土の主要4属性を網羅している。飛ばないだけで需要は多かったのにな。
崖の中腹に寝床程度の横穴を掘る。これで寝床は確保。水も川がある。火も大丈夫。服は……いつか朽ちるから考えよう。で、1人と1匹の生命線である食料の調達だな。
「殴って倒すのね」
(蹴ってもいいが、魔法少女の称号は一時封印だ。蛮族の称号が今は活きる。称号の重複はどちらも無効になるだろう)
「一時? 永久封印じゃないの?」
(先にも言ったが、称号は貸すだけだ。それが魔法少女のスキルとなって初めて自分の物になる。僕の寿命を考えろ)
「スライムは1年……嫌よ! 独りにしないでよ!」
(すがる者が出来て頼るのはわかるが、僕の目標は魔法少女の自立だ。先の話は後だ。食い物探すぞ)
「…………分かったわ」
○ ○ ○
(拳や足を痛めてないか?)
「貴方のギフトのお陰で無事よ。ねえ見てよ! 猪よ! これだけあれば」
(運ぶ手段が少ないな。切り分けて運ぶか)
「いけるわ! 崖の上まで引きずって、そこから解体して運び込むわ」
(崖の上に獣の臭いを残すのは嫌だが、当面の食材だな。許可する)
「よし! 綺麗に捌くわ」
戦闘以外は万能だった魔法少女は、戦闘ができれば引く手数多な人材となったな。今からでも町に……
「嫌よ!」
読心系のスキルがあったっけ?
「女の勘は鋭いのよ。貴方が町に戻したがってるのは分かるわよ。それに借り物は1年でしょ。それまでにどうにかなるわよ」
自立する気が減ってる。ここまで依存するのは初期の娘っ子以来だな。さて、このサバイバル生活はどうなるやら。
スライム歴 6年1月~
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