番外編8 テリブル・デッドZ「白薔薇オブ・ジ・エンド」
ロイスは一旦距離を取り、壁に立てかけられていた斧を取り外すとそれを振りかぶって斬りかかる。
俺も刀を抜いて両手に持ち、斧による攻撃を受け止める。
銃撃戦の後は激しい斬り合い。
だがロイスは間合いを読む素振りすら見せずただ闇雲に斬りかかっては俺に軽く受け流されている。
こいつ、縮小能力による不意打ちが厄介な程度で戦闘に関しては全くのド素人だ!
強くもないし賢そうにも見えない、見た目の方は言わずもがな性格も全く持って良いとは言えないこんな奴が
なんで一組織を立ち上げる事が出来たのか、ロイスの攻撃を受け流しながらも俺の中にふとそんな疑問が浮かび上がった。
「貴様…この期に及んでまだ抵抗を続けるのか!?
それ以上抵抗を続ければあの女の、いやあの女だけでなくその恋人の命は…」
またそれか。
いよいよ以てメッキが剥がれてきたぞこいつ。
追い詰められた時に切るカードが人質ってのは自分の事にしか頭が回らない小物のやる事だぞ。
それに、俺がそんな手使ってくるのに対して何も策を弄してないと思ったか?
「テリブル・デッド!!」
克也が戻ってきた。
ただ戻ってきたのではない。
今ロイスが人質にしようとしていたユリーシアとその婚約者アントニオを連れてだ。
「バカな…!!?衛兵は何をやっていた!!」
ロイスが顔面蒼白になり狼狽える。
「残念だが俺はそこら辺の雑魚その1その2とは出来が違うんだ!
お前のへなちょこな手下なんて速攻で片づけたに決まってるだろ!!」
「ナイスサポートだ克也君!!」
「それと!屋敷の奥の方に大事そうに飾ってあったから持ってきたけど、これ何か解る?」
そう言うと克也は何か棒状の物を頭上に掲げて見せた。
掲げられた物が笛、それもフルートのような横笛だと言う事はすぐに解った。
「貴様!今すぐそれをこっちに渡せ!!」
再び狼狽え右手を差し出すロイス。
「ほぅ?態度からして余程大事なものらしいなあれは。克也、試しに吹いてみたらどうだ?」
「やめろ!それを吹いたら…」
ロイスと間接キスする事になると考えてしまったのか一瞬吹くのを躊躇う克也だったが、
笛は克也の手で柔らかな音色を奏で始めた。
するとどうだろう。
俺たちの周りで銃を構え威嚇していた白薔薇の男達が次々と持っていた銃を手放し始めたのだ。
「お、俺達…今まで何をやってたんだ?」
「確か町で知らない女に話しかけられて…そうだあの女!!」
男たちの視線が一斉にロイスへ注がれる。
その眼差しは怒りと憎悪に満ち溢れていた。
「よくもエレナを殺してくれたな!!」
「お前のせいでミリアが!!許さねぇ!!!」
各々に恨み言をロイスにぶつけだす男達。
どうやら俺が想像していた中で最悪の所業をこの女は続けていたようだ。
克也が持ってきた笛には相手を意のままに操る魔力が秘められており、
ロイスは町中のカップルの内女を殺しまくり、男は笛の力で操り自らの下僕としていたのだ!
ジーザスアンドガッデム!!
何たる外道か!
NTRが許されるのは二次元限定だし「リア充爆発しろ」はあくまで言葉の綾で
ホントにやる奴はただのクソだと言うのにこの女!!
だが解らない事が一つあった。
ロイスがこの様な所業に走る理由だ。
こればっかりは本人に聞くのが手っ取り早いが言って答えてくれるものと言う訳ではない。
だがロイス本人以外で答えられる奴はここにもう一人いた。
「由紀、俺が今聞きたい事は解るか?」
「あの女が如何にして魔道に堕ちたか、で合ってる?」
「それも気になるが、まずはあいつの人となりだな。それが解れば自ずと魔道に堕ちた経緯もわかるだろう」
「解った。出来る限り遡って、探りを入れてみる…!」
由紀はロイスに聞かれないよう小声で応じる。
こんな奴の過去話なんて、と思う物もいるだろうが
こいつがただそこらのユーチューバーの再生数稼ぎみたいに場当たり的に男をさらっているのか、
それとも理由があってこんな事をしているのかは気になると言うのは確かにあった。
ポップコーンもソフトドリンクもないけど、見るだけ見てみるか
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世の中には大きく分けて二つの人種が存在する。
何らかの才能を持って生まれてきた者と、何の才能も持たずに生まれてきた者。
人間は大抵足が速いとか、絵が上手いとか得意なものが決まっていると言いたいが、
悲しい事に多くの人間の才能は中途半端なものだったりそもそも何の取り柄も無い人間として人生を費やす場合が多い。
ロイス・マルガリータ・ディッコは、取り柄と呼べる才能を一つも持ち合わせずこの世に生を受けた女だった。
勉強はジュニアスクール程度で手一杯になり、運動もロクに出来ず、人との会話もすぐに行き詰まる始末。
おまけに醜い容貌のロイスを彼女のクラスメイトは次第に疎ましく思い始め、ジュニアハイになるとクラスメイト達はロイスをいじめるようになっていった。
昼食を床に叩きつけ、顔に泥を投げつけ、罵詈雑言をぶつけ彼女を罵る様になると、
彼女は学校へ行くことが苦痛に感じるようになり、自分の部屋に引きこもるようになったが、
ロイスの両親はそれを許そうとはせず無理矢理にでも彼女を学校へ行かせようとした。
そして、それは起こった。
ある平日、ロイスは学校内でライフルを乱射。
クラスメイトのみならず教師や警官にすら発砲し60人近い死者を出した後警官隊の銃撃を受けて死亡した。
そして彼女は、何一つ良い思い出がないまま転生したのだった。
転生した彼女は圧倒的な力で他者を蹂躙し、異性が無条件で己に好意を寄せてくれるセカンドライフを期待したが、
現実はロイスが思い描くほど甘くはなく、彼女はそこいらの野犬にすら苦戦を強いられ、
容姿が醜くコミュ力も低いロイスをアーサレナの男共が気に入る筈もなく、
転生前と変わらない孤独な日々を送っていたが、ある日転機が訪れた。
森を散策中偶然にもある物をロイスは見つけた。
それは笛。それもただの笛ではなく、音色を聞いた者を操る事のできる魔法の笛だった。
魔法の笛を手に入れたロイスは自身の大きさを自在に変えられる能力に気づいたのと相まって調子づき、
町の男共を笛で洗脳し、女を自身の能力や洗脳した男共を利用して暗殺し着々と地位を築き上げ、
やがて彼女は新たな名を名乗るようになった。
地下組織『白薔薇』の支配者ローゼンを………。
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「…要するに拾い物拾ってイキってるのかあいつは」
「そうなりますね」
「だがそれも克也君が笛を吹いて洗脳を解いた今奴のユートピアも音を立てて崩れ去った訳だ」
尚もかつて下僕にしていた男たちの馬頭を受け続けているロイス。
その拳が震え、歯ぎしりを始めるのを俺は見た。
マジギレ五秒前と言った所か。
「……!プギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッ!!!!!!!!!!
どいつもこいつも好き放題言いやがって!!!!ブスだからか!?あたしがブスだから寄ってたかってのけ者にするのか!?え゛ぇ!?」
頭を掻きむしり、右腕を振り回しながら怒鳴り散らすロイス。
こいつ自分が何やってきたのか本気で解ってるんだろうか?
「この世の中はクソだ!!美人ばかり優遇するこんな世界はクソだ!!
そこのお前だって、あたしの顔が気に入らないからぶちのめそうとしてるんだろうが!!!?」
んでロイスは俺を指さして的外れな指摘をしだした。
何も解ってないし怒りで冷静な判断が出来ていない。
ならば俺も一肌脱ぐしかあるまい。
俺は自分自身の顔を覆っていた覆面を脱ぎ、転生してから一度も人前に曝した事のなかった素顔を曝け出した。
覆面を脱いだ俺に誰しもが動揺の視線を注ぎだす。
当然だ。俺の素顔は生傷と火傷で親でも実の息子だと解るのに時間がかかるほど豹変していたのだから。
「…言葉も出ないか。それほど俺の顔が醜いと言う事を理解できたか。
昔は女子にモテてたがこんな顔になってからと言うもの俺の素顔を見た途端みんなビビり出すようになっちまった…。
今の俺に比べればお前のブスさなんてまだまだ…」
「じゃあなんで!?なんであたしの邪魔をする!!」
「お前がユリーシアから彼氏を奪って、他の男共からも彼女を奪ったからに決まってるだろ。
俺がお前と戦うのはお前がブスだからじゃない。お前が悪だから戦うんだ。
俺自身、正義なんてガラじゃないがな…。」
「訳が解らん!結局お前もあたしの敵って事なんだろうが!!」
ロイスの体がみるみる内に肥大化し、屋敷の天井と壁に亀裂が走り崩れていく。
やがて清々しい青空が露になると、その青空を覆うほどの巨体に変貌したロイスの姿があった。
おいおい、小さくなるだけでなく巨大化まで出来んのかよ。
「デカい…!30メートルはあるんじゃないか!?」
克也がこっちの世界じゃまず使われない単位を使って驚く所を見ると
彼もまた転生者である事を改めて実感させられる。
ホントヤードとかポンドとか面倒くさいだけだからどっちかに統一してほしい。
俺は白薔薇の男達が落とした銃を拾い集め、残弾を確認。
更にロケットランチャーの残弾もチェックする。
「どうする気だよ!?」
「戦う気だよ。なーに、的はデカくなってんだ。小さい時よりは戦いようはある」
「くたばれこのグロ画像がああああぁぁぁ!!!!!!」
そんな絶叫と共にロイスの右腕が振り下ろされる。
ゆるやかな弧を描くのろいストレートだ。
俺は軽い助走をつけてから前方へスライディングしてこれを回避。
ロイスの後ろ側へ回り込むと銃を構え、三連射。
狙いはロイスの後頭部…ではなく足首。アキレス腱だ。
銃弾がロイスの足の皮膚を抉り血が噴き出す。
思った通りだ。こいつ体の大きさが変わっても防御力が高くなる訳ではない。
ロイスは撃たれた足を抱え苦しみもがき始める。
当然だ。
ギリシャ神話の英雄が矢で射られて死んだ事に由来するように
アキレス腱と言うのは人体の中でもかなり鍛えにくい部位の一つ。
しかも一度ケガしたらなかなか治らないおまけ付きだ!!
俺は銃を捨て、代わりにロケットランチャーを肩に担ぎ照準をロイスの頭に合わせる。
「うぐああぁぁぁああ!!」
こちらを振り向くロイスの顔を見て、俺はチャンスだと確信。
「…死にな!!」
決断的にロケットランチャーの引き金を引く。
ロケット弾が白煙を吹きながらロイスの顔面目掛け直進し、爆発。
爆炎は瞬く間にロイスの体を呑み込んだ。
「やったか!?」
功を焦ったのかそんな事をぼやきだす克也。
「そのセリフ言うんじゃねぇ!!ピンピンしてたらどうする!」
自分で言ってて心配になってきたが、煙が晴れた中から現れたロイスは…偉くボロボロだった。
足の出血は止まらず、顔は煤け歯は何本かが欠け眼も片方がつぶれ出血している。
目を伏せたくなるような痛々しい姿だが、こいつは自分のエゴの為に無関係な人間の命や尊厳を幾度も侮辱してきた奴だ。
今更可哀そうなどと言う気持ちになる事は、できやしない。
「あ…あああ~!!!」
「その態度、これから俺がお前に何をするのか解っているみたいだな」
「ゆ、許して!助けて!!殺さないで~!!!」
ロイスは今までの不遜な態度は何処へやら。
親の怒りを買ってしまった幼子の様に泣きじゃくりながら許しを乞う。
「命乞いか。小妻コウならテメェを許したかもしれない。だがお前は今まで1人でも人を許したか?
今のテメェみたいに命乞いしてきた奴を何人殺してきた?」
「しっ、知らない!!」
「だったら!」
俺は再び刀を取り切り上げる。
ロイスの左腕が宙を舞う。
「ブヒィィッ!!?」
「俺がお前を!」
更に刀を振り下ろす。
今度はロイスの右腕が切り落とされる。
「ブヒィィッ!!?」
「許す!理由なんて!」
更に刀をロイスの右腿に突き刺す。
「一つもない…!!」
そして刀を横薙ぎに振るい、ロイスの首を跳ね飛ばす。
力なく倒れるロイスだった物と長い静寂。
「…し、死んだのか?」
「これで生きてたらそれこそ化け物だよ」
戦いは終わった。
一つの小さな町にはびこる悪が、今消え去ったのだ。
ユリーシアとアントニオは状況が呑み込めきれず眼をしばたたかせるが、
「あ、あの…ありがとうございます。アントニオを見つけ出してくれただけでなく私自身の命まで助けていただいて…」
「私からもお礼をさせてください。貴方たちがいなければ、私は生きて再びユリーシアと会う事はできませんでした」
そう言うとアントニオは深々と俺たちに向かい頭を下げる。
顔だけでなく性格まで良い!さっき死んだ豚とは大違いだ。
「いえいえ、俺たちはただ困っている人がいたからそれを助けたまでです。」
照れ臭そうに頭を掻きながら応じる克也。
こいつ俺が言おうとしてたこと全部言いやがった…!!
とは言え克也に悪態ついて印象悪くなるのも頂けないし、勝利の余韻に水を差す事にもなりかねないので、
俺はただただ「さぁ帰ろうか」と言う事しかできなかった。
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真白な教会、舞い散る花びら、集った人々は笑顔が溢れている。
その視線の向こうには白いドレス姿のユリーシアと同じく白いタキシード姿のアントニオ。
ロイスの死に伴い白薔薇が壊滅してから五日。2人は無事挙式を上げる事が出来たのだ。
アントニオにもユリーシアにも、そしてロイスに洗脳され白薔薇のメンバーとして働かされていた男達にも
目立った後遺症はなく日常生活にも支障はないと言うらしい。
「参列しなくて良かったのか?せっかく誘ってくれたのに」
群衆から離れるように立っている俺に克也が疑問を投げかける。
「良いんだよ。元々俺はさほど親しい仲じゃなかったし、
こんな覆面しないと相手がビビって話も出来ないような万年不審者がいたら幸せムードに水を差しちまう」
「ホントにそう?」
ただ自分が嫌われるのを避けてるだけじゃなくて?と由紀の眼が問いかけてきた。様な気がする。
回答に困っているとユリーシアのいた方から花束が飛んできた。
ブーケトスってヤツだ。
あまり興味はないが土をつけるのも癪だから、とりあえずキャッチする。
「ナイスキャッチ!」
「テリブルさんもしかして結婚とか…」
「………やる」
俺は持っていた花束を由紀に押し付けた。
「え?これどういう…」
動揺する由紀に俺はただ、
「俺や兄貴よか良い男見つけなよ。正直俺にそんなのは全然似合わん」
俺はフラフラとした足取りでその場を後にする。
柴田兄妹が背中越しに「カッコつけんじゃないよー!」「戦ってばっかの人生とか嫌にならないのかー!?」と叫ぶが、
俺は振り返らず、ただ後ろ手に手を振って2人と別れるのだった。
特に目的がある訳でもない。
組織とかのしがらみに囚われるのは好きじゃない。
何やったって終わりはない人生だけど、
部屋に籠っているほど臆病でもなし。
だから俺は生きて戦い続ける。終わりの来ないこの人生を。
俺の名はテリブル・デッド。
自由とロックを愛し支配と映画のDVDの最初の方に入ってる長ったらしいPV集を憎む口数の多い傭兵。
助けを借りたい時は、いつでも呼んでくれ。
これでスピンオフは終わりです。
次回からは再びコウ達リゼル騎士団の活躍をお送りします




