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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
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第85話 魔導生命編〜導巡〜

 グルトミア十星将、黒星のアルファスと黄星のローグは動きを止めた邪神の光体を観察しながら警戒する。

 周囲の人々は未だ混乱と恐慌の最中にあるが多少落ち着いたのか悲鳴らしきものは鳴りを潜めていた。

 だが未だ光体は存在しその威圧は解かれず水上街ラーセンの末路に人々は心胆寒からしめていた。


「さて……あの神の光。一体どうなりますかね?」

「……直に結果が出るさ。吉か凶かはわからないけどね……」

「ちょっと……アルファス、顔色が悪いですよ、大丈夫ですか?」


 声に生気を感じない為顔を覗き込むと声以上に顔に生気が無く滝のように冷たい汗を流しているアルファスの姿があった。


「もう……駄目かもしれないね、仕方ないさ。こんな力を使ったんだから」

錬金術師(アルケミスト)の万物改編能力は魔力と精神に依存するとは聞いていましたが……破格の能力はそれなりの代償という事ですか」

「でも……まだ死なないよ、先輩がどうなるかを見届けるまでは……」


 死の恐怖よりも好奇心が勝るその性質はやはり研究者という事なのかとローグは感嘆する。

 何か一言告げようとローグが口を開いたその時。

 神の光体に異変が起きた。

 その姿が徐々に、光が霧散していく事で維持できなくなってきたのである。


「やっとか……遅いよ、セリカ」

「セリカの仕業なのですか?これは」

「ああ、きっとこれで事態は好転する筈さ……」


 弱々しい声がアルファスの容体を物語っている。

 青い顔色で膝をついたまま神の光体を睨む。

 呼吸も浅く早い。

 だがその瞳には力がまだ宿っていた。


「……アルファス、ラドルは貴方のことをまだ何も知らないのですが」

「……別に主張するべき事柄でもないし言う必要もない。敢えて語るような事はしなくていいよ」

「とは言えこのまま放置という訳にもいかないでしょう。貴方がしたい事は何となく想像はつきますが、ね」

「……その先は先輩が戻ってきてからにしよう。先輩が必ず戻ってくるとも限らないんだから」


 含みある会話を無理矢理終わらせる。

 その姿にローグは違和感を感じるも敢えて追及はしなかった。

 だがローグの中で一つの確信めいた思いをアルファスに確固たる意思をもって言う。


「ラドルは自らが飼っていた神の残滓に負けはしないです。それ故の神滅者なのですから。必ず戻ってきて貴方を一発見舞う事でしょう」

「……やれやれだね……」



 ーーーーーーーーーー



『貴方は一体誰なのですか……?』


 水の巫女ターニャはラドルの精神世界でその世界の主と対面していた。

 未だ目を覚さないラドルは神の加護樹に絡め取られ物言わぬ姿を見せている。

 それを見たターニャは寂寥感を滲ませた瞳で目の前の神滅者を見つめてコツン、額同士を重ねた。

 その時。

 世界が震えるような、異変が起きた。

 ゴゴゴと自分の足元から揺れる感覚。

 実際に揺れているわけではない。

 精神世界全域が振動している、というのが正しいのか。

 これを感じた加護樹は苦々しい表情で舌打ちを打つ。


『これは……ラドル、貴方の仕業?』


 物言わぬラドルに加護樹が問いかける。

 それを見てターニャは加護樹にも異変が起きているのに気づく。


『加護樹の成長が……止まった……?』


 それまでガサガサと加護樹の枝葉が急成長していたのがその速度を緩めていた。

 時間的な余裕ができたのかと思ったのも束の間、ターニャに語りかける者がいた。


(……聞こえるか?俺の声が)


 男の声だ。

 まさか、と目の前の眠る男に視線を移すも当然ながら答えは返ってこない。

 しかしターニャには確信めいた直感がこの声は目の前の。

 神滅者の。

 ラドルと呼ばれた記憶にもない男の。

 その声だと分かった。


『貴方は……私を知っているのですか?』

(さて、な。知っていると言えば知っているし知らぬと言えば知らない。だが一つだけ言える事があるといえば。……俺は君と話したい)

『私も!私も……貴方と話したい……です!』

(ならばこんな所じゃなく俺たちのいるべき場所で。そこで全てを知る奴から聞き出そう。一緒に)

『でも……どうすればいいのか』

(君に。手にして欲しいものがある。受け取ってくれ』


 そう声が聞こえた時、ターニャの目の前に光が寄り集まり形を成していく。

 それは一本の剣。

 禍々しい刀身の黒い剣。

 だがターニャにはその剣に見覚えがあった。


『この……剣は……!』

(この剣の本来の用途を行使してもらいたいんだ。この神剣リーグヴェインの)

『神剣リーグヴェイン……』


 記憶ではない。

 魂とも言うのか。

 その魂に刻み込まれた痕跡がターニャ自身の身体を震わせた。


『この剣を……見たことがある気が……ううん、絶対に知っています……!』

(リーグヴェインは本来は俺の神霊力が暴走した時にその力を吸収し霧散させる抑止力の為に用意された剣。今は専ら存在確率の操作に使っているがな)

『この剣を使えば貴方が意識を取り戻せるのですか?』

(……それは君次第だ。今言ったようにその剣は確率操作を特性に持つ。これまで大から小に主として使用してきたがその逆、小から大にする事もできる。君が俺と話したいというならそう願いながらその剣を俺に刺せ)

『貴方を……』

(そうすれば君の希望が叶う)

『貴方に危険は……?』

(大丈夫だ。ここは俺の精神世界。魂魄レベルの君が精神体の俺に後遺症なく干渉できる術はこれしかない)


 そうラドルの声に促されターニャは神剣に手を伸ばす。

 禍々しい刀身とは裏腹に美麗な装飾を施された鍔や握りに感嘆しながらその手に取る。

 瞬間ガクッと力が抜けた感覚を強く覚えた。


『これは……?!』

(人が悪いわね、ラドル)


 今度は加護樹からの少女声。


(その剣は神霊力によって形成す神器。魂魄のみの貴方が握れば当然その剣に貴方の魔力の代わりに生命力を吸い取られるわ。それを使用するということは貴方の存在力にも関わってくる。それでも……やる?)


 力を吸われ一旦手を離したターニャ。

 だがそれをして尚顔を上げた少女の瞳にはもはや迷いはなかった。


『私は……私自身の存在がわからない。いまこの場に立つ私のこの魂さえ偽物かもしれない。私は何者か。それを明確にしなければ。こんな中途半端な人間未満の私は一歩も進めない。だからその為に……この方と話したい。否はない!』


 きっぱりと言い放ち神剣を手にするターニャ。

 瞬間途轍もない負担がターニャの魂魄体にのしかかる。

 だがそれでも。

 怯まずに切先をラドルに向けて。


『だから……目覚めて下さい!神滅者ラドル・アレスフィア!』


 勢いよく。

 拙く震える切先をラドルに向けて刺しこんだその刹那。

 世界が白い光に包まれたーー。




 白の世界にただ意識だけが存在した。

 ラドルは重怠い感覚に支配されてなお、覚醒の前兆を迎えようとしていた。

 そこに少女の声が掛かる。


(……行くの?)

(……ああ。今回は不覚を取った。お前が出てきたお陰で助かった)

(嘘。この程度の事で貴方をどうにかできるものですか)

(確かにな)

(肯定するのね、ほんと嫌な人)

(すまないな、生来の性格なんでね)

(ふん、……これはあの子の仕業?)

(まぁな、律儀に行動を起こしてくれたようだ)

(まだ生きているのね、あの真祖)

(死なないから真祖なんだろう?)

(貴方の懲罰はまだ終わらないのに一途に付き合っているのね)

(物好きな奴だよ、アイツもお前も)

(貴方に干渉できるのは私だけ。私に干渉は出来ないけどね、フフ)


 小悪魔の様な悪戯笑いが聞こえてくる。

 少女は意識の向こうでほくそ笑んでいるのだろう。

 だがラドルは不思議と不快ではない。

 感覚だけとは言え久しぶりの相手と会話している為か些か高揚しているのか。


(先程の加護のイメージ。樹木だったのはグリンレアの神樹を皮肉ったのか?)

(ご名答。貴方には何よりの皮肉でしょう?)

(思い出したよ、あの地獄を)

(こうしてたまには思い出してもらわないと私の存在も忘れてしまいそうだから)

(忘れるものか、この魔女が)

(あらご挨拶ね、だったらまた悪戯しちゃおうかしら)

(……また?)

(……ラドル、私は貴方をずっと見ているわ。そうずっと。そんな私から貴方に忠告。心して聞いて)

(言ってみろ)

(貴方に女神の因縁が絡み合いはじめている。あの小狡い醜女が貴方に関わろうとしているの。だから悪戯をしておいたわ。貴方にも)

(嫌な予感がするんだが)

(ふふ、貴方の精神に少し干渉して私が代行したのよ、感謝してね。きっとあの女神、泣いて貴方を憎みそして牙を剥くわ。それもそう遠くない未来に)

(待て、何の話だ?)

(うふふ。貴方に我等が神の懲罰を。女神に我等が神の神罰を。世界に我等が神の天罰を。揺蕩う現世はやがて我等が女神から与りし祝福によって崩れ落ちる。その日が楽しみね、私の愛しい神滅者(シルヴァリオ)……あははは)

(待て!一体何の……!)


 高らかな笑い声が木霊する精神世界から一気に弾き飛ばされるように加速度を増していく感覚がラドルを襲った。

 そして。

 一気にラドルの意識は現世に舞い戻った。



 ーーーーーーーーーー



「くっ……うぅ……」


 いつの間にか意識を手放した魔族の男は暗い路地裏に伏していた。

 魔族の男レザースは憎々しげに未だ腰を落としているラドルを睨む。

 見れば先程まで強力に放っていた神気が嘘の様になりを潜めている。

 眩いばかりの光は消えて辺りは月の女神マルティナが司るする夜の闇が支配していた。

 神の光体もまた消えた。

 いくばくかの時が経ったのか、街の混乱も次第に落ち着いているように見える。

 屈辱に等しい神の威圧での屈服。

 重い身体を起こすとレザースは近くに落ちていた魔短剣を拾い取ってラドルに向かって歩く。


「コイツは……危険だ。世界の敵と揶揄されてきたのは大袈裟でも何でもない。ほんの僅かな接触でこの街は神罰下る地となる所だった。放置すれば必ず世界を破滅させる。ならばいっそこの場で……」


 そこまで独りごつと魔短剣を逆手に持ち直して腰を低く落として構える。

 この様な好機は二度とない。そう自分に言い聞かせて刃を振り上げたその時。

 背後から声が掛かる。


「そこまでにしてもらいましょうか、レザースとやら」


 闇から音もなく現れたのは一匹の黒い魔獣。

 そして。

 見るからに重体なアルファスと肩を貸しているターニャであった。

 その3人を視界に認めるとレザースは激昂する。


「アルファス……!何故止める!お前たちも!コイツは世界を破滅に墜とす大罪人だぞ?神々の敵で邪神の手先だぞ!この男はここで倒してしまうに越したことはない!」

「……無理だよ、レザース。もう遅い」


 そう言うと背後で軽い金属音がした。

 レザースが振り向く前にその喉元にラジアス鋼の刃が突きつけられていた。


「神滅者……ラドル……!!」

「全く……してやられたよ、議員殿。こんな不覚は久しぶりだった」


 静寂が支配する裏路地にラドルの静かな声が響く。

 その異様な程に落ち着いた声のトーンから殊更ラドルの心情が伝わってくる気がした。


「さて……これからの脚本はどうしたい?」

「脚本だと……?」

「そうだな、さしずめこの混乱を引き起こしたのは貴様で人知れず邪神を召喚したが勇戦した水の巫女により討滅、計画の失敗を恐れた貴様はこの裏路地で独り孤独に自殺……というのはどうだ?」

「ふ、ふざけるな!!」

大凡(おおよそ)の筋書きは間違っていない気がするがな、貴様が俺の中を覗いた妄動が起こした事だ。好奇心猫を殺すと言った所だな」

「……お待ちください神滅者ラドル」


 待ったを掛けたのは今まで沈黙を守ってきた水の巫女。


「水の巫女。君には感謝しよう、だがそれでも俺の中に無遠慮に踏み込んだこの粗忽者を許せそうにない。それでも君は俺に剣を引けと?」

「お気持ちは分かります、しかしこのラーセンは今ラクリア王国の自治領としての政治的な理由に戦争の火種になりかねません。ここは彼をその真相を知る容疑者として捕縛していただきたいのです」


 言いたい事はわかる。

 隣国のティラーニア王国は兎も角、他の国は今回の件に関して説明しなくてはならない。

 ただでさえラーカニア大湖での利権を他国は欲している。

 ラーカニア大湖に接する国は南に軍事国家ベリシアン連邦がある。

 その他の諸国があわよくばこのラクリアを食い物にしたいというのはあるのかもしれない。

 その魔手がラーセンとラクリア王国ににじり寄ってくるのは確かだろう。

 水の巫女はそれを危惧しているのだろう。


「どうかこの場はその剣を納めては頂けませんか……?」


 ラドルは暫し考える。

 自分の怒りを惜しまずこの男にぶつけるか。

 それとも国の戦争に巻き込まれてこの街が戦火に晒されるか。

 答えは決まっている。

 だがーー。


「ならばこの男にはそれなりの罰が必要だな」

「な、何を……?」


 ラドルが剣を引いて空いた左手を前にかざす。

 その魔力の放出に反応してレザースの足元に魔法陣が展開される。

 それを見てローグが口を挟む。


「大丈夫なのですか?貴方は今魔力がーー」

「心配は無用だ。巫女が俺の魔力と神霊力を散らしてくれた。今はだいぶ安定している」


『タンタール・メア・シークアル 我が声に耳を傾けよ 流るる大河のごとく其を押し止めるは精霊の堰 ヴァルナルの地は消え世界に沈め 魔流禁錮閂(ベゼル・カーナ)


 魔法の詠唱が終わると魔法陣からの光も霧散する。

 霧散した光の粒は細かくなりそのままレザースに身体に吸い込まれていく。


「これは?」

「お前の魔力を封じた。下手に魔法や魔力を使う魔道具を使用すればその身に激痛が走る」

「なんだと!?」

「それだけじゃない。お前は魔力を封じられた事により魔族の烙印もまた消えた筈だ」


 そう言われて魔族の証である褐色の肌と赤い瞳は人間だった頃のそれに戻っていた。


「これで魔族としての貴様は死んだ。良かったな、まだこの街の為に働けて。尤もその前に尋問があるだろうがな」

「き、貴様……こんな事が許されるものか!!」


 憎々しげにラドルを睨みつけ魔力を収束しようとする。

 その瞬間。

 バチィと雷が弾けたような音が響くと収束した魔力がレザースを襲った。

 そのまま気を失ったレザースは地に伏せる。


「こいつ……話を聞いてなかったのか……?さて……」


 呆れた視線をレザースに落としたあとその視線を今度は水の巫女に支えられている男に向ける。


「今度はお前の番だな、アルファス」

「……だろうね」

「教えてくれるんだろうな、全て」

「……仕方ないかーーわかった、話すよ全て」


 敢えて明るく見せて観念してみせるアルファス。

 はーーっと一つ大きく溜息を吐く。

 一拍置いて話し始めるのを待つ一同。


「結論から言うとこのターニャの存在を含めた一連の騒動は僕の研究過程の一環なんだよ」

「碌でもない研究の匂いしかしないな」

「まぁそうだね、全て僕自身の存在意義に関わる個人的都合からのものだから。でも、これは僕が生きていく上で必要なものだった」

「何の研究だ?」

「生命停止による離魂の自発的回帰……まぁ人工的な輪廻転生さ」

「なんだって?」


 その場にいた者全てが息を呑んだ。

 この世界では死んだ者は輪廻の回廊を渡りそれまでの生の汚染を浄化し新たな肉体を持ち再び生を得る。

 それを再び同じ魂を使用するということは自らの魂魄の汚染を浄化せずに摩耗しながら生きる事になる。

 そんな行為を何度も繰り返す事は魂の存在を失う事を意味する。

 何故そんな研究をしているのか。

 それを聞き出す前にアルファスが口を開いた。


「僕は……僕こそが。人工的に作られた人工魂魄の魔導生命体だからさ」



はい、更新致しました!1ヶ月ぶりの更新は変わりませんね、申し訳ありません汗

さてようやく今回の騒動が一段落しました。

次回は真相回です。

アルファスの意外な研究を明らかにしていきます。

今回の騒動はアルファスの存在意義を発端とした事件でしたがそこで今回の魔導生命編というサブタイトルの意味を回収となります。

普段からずっと考えていましたが生命はどこから生まれてどこへ行くのかとか言い出すと色んな解釈ができるのでこの世界観では一つの答えを出したいと思ったのが今回の話です。

色々考えて楽しんで頂けたら嬉しいですね♪

感想評価お待ちしております!

ではまた次回☆

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