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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
84/85

第84話 魔導生命編〜反意〜

 水上街ラーセンは邪神の顕現で狂乱の都市と化していた。

 邪神の巨大な神威による圧力で人々は半狂乱となり失神する者、泣き叫ぶ者が続出した。

 その中で正気を保っていたグルトミア十星将黒星のアルファスは背中に怖気を一人感じていた。


「これが邪神の神の威……。流石の圧力だけど……何より恐ろしいのはこれが一人の個人の身体に潜んでいた事。こんなモノを先輩は御し切れていたというのならあの人も充分化け物だよ、全く……」


 その様子を見てアルファス同様に違う意味で冷たいモノを感じていた水の巫女ターニャは別の意味で喉を鳴らした。


「私は……この感覚を知っている……覚えている……!でもいつ?誰?どこで?その記憶だけが抜けている。何とか知りたい……だけどその前にこの神の威圧を何とかしなくちゃ……」


 先程まで争っていた2人。

 その2人が目の前の神の存在に身体が萎縮してしまっていたがその意思はまだ折れてはいなかった。

 特にアルファスはこの状況が望むものではなかったが最悪のものでもなかった。


「これは計画の前倒しにする他ないかな……」


 周囲を見やるとターニャが使役していた精霊も水龍も霧散してしまっていた。

 状況を打開するにはアルファスが自身の力で何とかするしかないと結論づけるとターニャに向けて懐から取り出した小瓶を投げつける。


「これは?」


 怪訝な表情で手にした小瓶を見つめるターニャ。


「君に死んでもらう為のクスリさ」


 剣呑な言葉を事もなげに言い放つアルファス。

 それを聞いてターニャは抗議の声を上げる。


「こんな時に……何を考えているのですか?!」

「まぁ聞きなよ。君も感づいているんだろうがあの神の苗床となった人は君に関係のある人だ。今は少々寝ぼけているみたいだがね」


 突然の告白。

 手の中の小瓶の中身とどう関連するのか今ひとつ理解が追いつかなかったが求めていた答えの欠片がそこにある。

 もしくは全部か。

 そう思うとアルファスの言葉の続きを待つ。


「……その小瓶の中身。さっき話した臨死体験を体験できる、つまり一時的に肉体と魂をつなぐ命脈を弱らせるものだ。だがその肉体に強い衝撃や刺激を受けるとその命脈という糸は容易く切れる」


 つまりは死ぬ、そう言う概要を告げるアルファス。

 一筋汗を流すターニャを横目になお続ける。


「今から君は魂だけの存在となって眠る彼の意識に直接訴えるんだ。恐らく彼は自我を神の加護によって押さえつけられている状態で自分から覚醒できないでいる。それを君は横っ面を(はた)いて無理矢理起こす。それが出来ればこんな騒動は落着だ」

「……できなければ?」

「この水上街ラーセンのみならず世界が終わるだろうね」


 世界が終わる。

 それは人類の滅亡を意味するのか。

 それともこの世界が滅び去るのか。

 どちらにせよ碌な結果ではないのは間違いない。

 世界を救う。

 だがそんなお題目はひとまず横に置いて一つだけ質問する。


「これが出来るのは私だけなのですか?」

「僕にはできない理由があるんでね、それに君も自分の疑問の答えが得られるなら是非もないだろ?」

「……もう一つ。私たちは未だに身体が萎縮しています。どうやってあの強大な神気に立ち向かえばいいのですか?」

「それは専門家に聞くとしようか?出来るかな、小さな魔獣さん」


 ちらと見ると眼下の屋根に一匹の黒い魔獣がこちらを見ていた。

 重力操作を解きその側に降り立つ黒星と水の巫女。


「どうなんだい?ローグ」

「そうですね、強制的に動かなくなった身体を無理矢理動かすだけなら俺の絲で身体操作すれば不可能ではないです。が」

「逆接の接続詞が続くのか、で?」

「あの神気そのものを何とかしない事には近づく事すらできないでしょうね、下手に近づけば精神がまぁ持ちませんね」


 ローグの絲の操作は彼の魔力によって発動する為身体の自由不自由は関係なく思考操作に近い。

 しかも複数の人間を操る事もできる為状況と環境次第では凶悪無比な能力でもあった。

 だが宿主の思考意思がやられてはその後の行動に支障が出る。それではアルファスの提案も実行できない。


「あの女神様は……本当にラドルの内の邪神なのですか?」


 ローグが確認を取る。


「そりゃこれだけの力を振りまいて神を名乗るのならそんな事できるのは一人しかいないだろう?」

「ですよね。正直ラドルが何者に遅れを取ったのか、未だに信じられない自分がいるのでね、となると……先ずは露払いとして我等十星将の力をお見せするとしますか?」

「……それで少しでも神様が怯んでくれればいいんだけだね、仕方ない。やるか」


 神の圧力にも負けない精神力を振り絞り立つ。

 そしてアルファスの懐から一本のアンプルを取り出すとそれをグイと飲み干す。

 するとアルファスの肉体に異変が出始めた。

 黒髪が一気に白髪に変色していく。


「それは?まさか何かヤバいクスリでもキメたので?」

「まあ……僕の肉体の寿命を極限にまで縮めるモノさ。その分僕の肉体寿命分の魔力が肉体に還元される。そんなヤバいお薬だよ」

「大丈夫なの?」

「おや巫女様、敵の心配かい?」

「貴方は……敵ではないわ。ただイヤな人なだけ」

「ふ、それは光栄だね。ではいきますか、死なない程度に」


 その言葉と同時に片手を天に向けてかざす。

 すると。夜の闇が深まり夜空の星々がその瞬きを止め消えていく。

 深淵の闇、とでも言うのか。

 水上街は闇という闇に包まれていく。

 唯一の光源は邪神が放つ光のみとなりそれもその闇に抑え込まれようとしていた。


「闇に溶けろ。忌々しい神の光よ」


 深淵の闇は闇に溶けた全てを呑み込む能力か、とローグは推測する。

 それは神の光と言えども消失させる。

 それ程の力の行使をアルファスから感じていた。


「これは……錬金術師の力の範疇を超えていますね」

「いいや、錬金術とは万象を構成する物質を変化させる術だ。これは僕の力で周囲の魔素を闇に同化させているのさ。普段こんな力は使わないけどね」


 アルファスの解説が終わるのと同時にいよいよ神の光もまた闇に溶けようとしたその刹那。

 再び神の声が聞こえた。


『人の子よ。神の光に抗う人の闇を操るは見事。しかし、だ。ヒトの作る闇とは所詮人の安らぎを得る闇よ。真の闇たる闇は絶望と虚無の概念が人の世界に顕れた存在。それと比ぶればこの闇などヒトが安らかに安息の寝息を立てる程度。……一つ教えてやろう、人の子よ』


 その瞬間。世界は再び神の光によって闇が切り裂かれた。


『闇は光には勝てぬ。絶対に』


 再び夜の星々が瞬きを開始する。

 切り裂かれた闇は月光の柔らかな光にすら散らされてしまった。

 そして。

 その光に敗れた闇と同様に。

 アルファスの身体全体から紅い鮮血が吹き出した。


「アルファス!?」

「くっ……!やはり……紛い物の闇じゃこれが限界かな……、だが気に入らないな……」


 片膝を落として白髪の分け目から感じるその瞳からは未だ諦めない意思を感じた。


『諦めよ、人の子よ。全てを神に捧げその魂を浄化するのだ。それがお前たち人の子の本来の役目なのだ』

「僕を……人の子と呼ぶなぁ!!」


 アルファスの怒声が響くと今度は大量の水を変質させた鏡を邪神の周囲に散らばせた。

 神の光がその大量の水鏡によって反射されていく。

 とある一点に集中した光は直視出来ないほどの光量を放ちながらなおその光を集める。


「ローグ!!」

「承知!!」


 アルファスに呼応するかのようにローグはその身体から大量の絲を繰り出し一つの形を織りなしていく。

 ローグの絲で編み込まれたそれは巨大な剣の形をしてそれに集束した光を宿らせる。

 神の光でできたその剣は途轍もない光量と熱量を放つ。


「神を斃すのは神の剣……子供の寝物語のお伽話にもある陳腐な展開だけど……光には光で神を斃す!!」


 アルファスの咆哮に近い叫びと共に光の剣を邪神に向けて轟然と投擲する。


『神の光の御業を真似たその似非の剣など神には届かぬ……む?』


 向かってくる光の剣を跳ね除けようと再び光を放つ邪神だったがその全ての光がすべて剣に届かず屈折していく。


『まさか……これは斥力か?質量のない光をも弾くほどの高濃の斥力密度だと……!?』


 解き放たれた矢の如く光の剣は邪神の胸元向かって飛んでいく。

 全ての抵抗を弾きながら。

 勢い衰える事なくその光の剣は邪神の身体を貫いた。

 その瞬間ほんの僅かに。

 邪神が放つ光が弱まった様に見えた。

 それを好機と見たアルファスはターニャに促す。


「今だ、水の巫女!今は僕を信じろ!」

「……!」


 その必死の形相と力ある瞳に相応の覚悟を見たターニャは手の中の小瓶を一気に口に含み呷った。

 コクン、軽い嚥下の音が鳴った瞬間。

 ターニャの視界がグニャリと歪む。

 思考が止まる感覚。

 全ての情報が世界から隔絶されていく。

 しかし意識はある。

 ほんの少しだけ奇妙な感覚。

 恐る恐る目を開けると。

 眼下に一人の少女が倒れている。

 どこかで見たその少女は誰あろう、自分自身だった。


『これが……臨死状態……?なるほど、この不安定な状態で外界から刺激を受けてはひとたまりもないわね……それにしても……』


 その奇妙な感覚には覚えがあった。


『この感覚……覚えている。死の感覚とでもいうのかしら。魂の温もりなのか妙に暖かい覚えがある。それはそうと詮索は後にして今は自分のすべき事をしないと』


 そう思いながら光が弱まった今、ターニャの魂は光の根源たるその場に急ぎ向かう。

 曲がりくねった街並みを感覚で進む。

 やがて暗い路地にその男がいた。

 近くには気を失っているもう一人の男。


『レザース……!彼が引き起こした事象なのですか?そうすると……こちらの方が……例の神滅者……』


 膝を曲げて意識を無くしたラドルの目の前に立つ。

 ターニャもまた膝を曲げて意識のないラドルの顔を覗き込む。


『……綺麗な蒼い髪……やっぱり私はどこかでこの人に会った事がある……』


 そっとラドルの頬に手を差し伸ばす。


『ごめんなさい……私、私の都合で貴方の中を覗く事になります……今のうちに謝罪します……でも……貴方に起きて欲しいと望む人がいます……だから……ごめんなさい」


 ターニャは互いの額を合わせるとラドルの意識に同化するように溶け合う感覚に身を任せる。

 そして。

 ターニャの魂は一度この世から消失したーー。



 ーーーーーーーーーーー



「アルファス、大丈夫ですか?」

「……これが大丈夫だと見えるなら君の目は節穴も同然だね……」

「……これで良かったので?」

「仕方ないさ。恐らく先輩は今、回帰薬によって意識が過去に飛んでいる。レザースはその情報の鍵の順番を間違えてしまったんだろう。全く……とんだヘマをやらかしてくれたもんだ」

「水の巫女は今?」

「彼女の魂は今は自分の欲求に従って先輩の意識とコンタクトを取っているはずだ。その証拠にあの邪神さまはその圧力は健在だけど行動を未だ見せない。何らかの外的要因があったと見るべきだよ、そしてそれは間違いなく彼女だ」

「……上手くいくでしょうか?」

「さあね」

「さあねって……」

「問題が無いわけじゃないからね、そもそも「意識」と「魂」ではその容量の差がありすぎる。そして神がコンタクトを取りやすいのは間違いなく「魂」状態の彼女だ」

「それって神と対決するって事ですか?」

「そこまで大袈裟な事にはならないよ、何故ならば単純に存在の骨子で言えば邪神はラドルの意識に根付いた、言うなれば寄生虫とも言えるもの。対して巫女は風に漂う凧のように1本の命脈で繋がった存在。どっちが有利かなんて言うまでもないだろ?」

「それってマズいじゃないですか!」

「そもそも神に対抗するなんて無謀以外の何者でもないって話さ。……それでも人は奇跡を望む。明日を望む。だからあの神様は今はまだ必要ないんだ」

「邪神なんていつだって必要ありませんよ」

「……?君あの神様がなんの神様か知らないのかい?」

「……邪神なんてどうせ破壊神とかじゃないんですか?」

「……あの神様はね、人々の、世界の、そしてこれまでの記憶と記録に関わる神様さ。そんな神様が何故をもって邪神に認定されたのか……それは当事者にしか分からないんだろうね。どちらにせよいつも先輩は……ハズレを引く運命なんだね……」



 ーーーーーーーーーー



 ターニャは白い世界に立ち尽くしていた。

 ただ白い世界。

 何も無い世界。

 いや厳密にはあるにはある。

 それは大樹に絡まり未だ目を覚さないラドル本人だった。


『これがこの方の深層意識……表層意識もろともにこの木がこの方の意識の覚醒を邪魔しているのね」


 そっと先程と同じように頬に手をやる。

 今度は触れた感触がある。

 さらっと蒼い髪を梳く。


『でも……どうすればこの方の意識を起こす事ができるの……?確かアルファスは横っ面を引っ叩く、とか言っていたけど……まさか……ねぇ?』


 試しに、とペチペチと軽く頬を叩いてみる。

 しかし反応は無い。


「まぁ当たり前よね……そもそも干渉する力が足りていない。対してこの加護の木は強固に絡みついているわけだし……無理矢理引っぺがすしかないかしら?』

『よしなさい』


 突如聞こえた声。

 年若い女性の声。

 自分と変わらぬ程度の歳の声。

 どこにいるのかとキョロキョロと辺りを見渡すも見えるのはただ白い世界。

 となると声の主はまさか。


『そう、私はこの樹木そのものの意思よ』

『という事は……この方の神様ですか?』

『神様……ね。そうとも言えるしそうでもないとも言えるわ』

『この方を起こすと何か不都合があるのですか?』

『大有りよ。この樹木の形をしている加護はかつての女神がラドルとの繋がりを保つ為に植えた、言わば縁綱とも言える樹。変に傷付ければラドルの意識にも影響があるわ』

『女神様との縁綱……』

『これまではラドルの意識が強くて若芽程度だったんだけどね、ここ最近のラドルの変調からこの芽が急成長したのよ。そこへ過去への強制想起によって更に成長して意識を絡め取られたの。今のラドルは過去へ回帰している夢の中。だからこのままでいて欲しいわ』


 優しく諭す声。

 邪神の加護から派生している存在とは思えない程に優しく語りかけている。

 外界で聞いた声と似た声だが受ける印象は天と地ほどもあった。 

 とは言え。


『……それでは。誰も幸せにならない』

『幸せって?それは貴方の一方的な見方でしかないのでなくて?皆が幸せになる方法などありはしない。それは生まれた瞬間からすでにその環境が違うから。更に言えば人は生まれた瞬間裸では生まれては来ない。その人の親や立場。宿命とも言える衣服を身に纏って生まれてくるの』

『……でも。人はその人生で宿命の衣服を脱ぐ自由がある。私はそれが救いだと思います』

『ふふ。面白いわね、貴女。幼い容姿に反して神の欠片とも言える私にそう言えるのは大したものね』

『……欠片?』

『それはまたにしましょう、貴女も長くはここには居れない。長居すれば私に絡め取られてしまうわよ?そうなる前にここから出ていきなさいな』

『……私はこの方に聞きたい事があります。だから……是が非でも起きてもらいます』

『ふぅん……ならばやってみなさいな、でも時間は無いわよ?』


 邪神の加護樹はターニャに時間の猶予を与えると少しずつ枝葉を繁らせていく。

 それを見てターニャはラドルに視線を落として今一度ペチッと頬を叩いて優しく問いかける。


『貴方は……一体誰なのですか……?』

最新話です。3日で更新。久々ですw

いつもの後書きの前に前話を少し手直ししました。機会があれば再読をw

さて少しずつ明らかになるラドルと邪神との関連性。

今回また伏線を張りました。

それを回収できるのはいつになるか汗

そしてアルファスの力をもっと見せたかったのでここで本気になってもらいました。

この世界での錬金術は以前にも書きましたがチート特性を持つクラスでそれを表現しきれずにいる自分に嫌気。

もっと頑張らねばなーw

感想評価お待ちしております!

ではまた次回☆

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