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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第1章 廻る時計
22/85

第22話 幕間〜戦乙女〜

 クステルム平原は緊迫していた。

 2万5000の騎兵対僅か2人の魔道士。

 もはや戦の様相を呈していない。

 精強たる騎兵擁するバルカード聖印騎士団は布陣してすでに5日。

 それに対峙している魔道士2人はグルトミア帝国が誇る特務武官組織「十星将」に属する金星のリーテス・ファラと銀星のドリムーラ・ファラの兄妹星。

 初めて両軍が激突してから互いに手を出せずにいた。

 聖印騎士団は十星の圧倒的力量に。

 十星の2人は国土防衛の名分に。

 手を出せない膠着状態を崩せずにいた。

 そんな状況に両軍は苛立つが特に金星のリーテスは生来の気性の荒さから生じた憤懣を呑気に読書をしている兄にぶつけていた。


「あーもう!一体いつまでこんな野っ原にいなきゃなんないの⁉︎ねぇ兄様!もういいでしょ?あいつらぶち殺しちゃおうよー‼︎」

「駄目だって言ってるだろ?俺たちはあくまで受け手に徹するんだ」

「えーなんで⁉︎」

「今回の件での被害者は聖王女を殺害されたバルカードなんだ。そこに相手が攻めてきたからといって勢いに任せて領土侵犯なんかしてみろ。傍観している他国までこっちを非難してくるぞ」

「そんな難しい事わかんないよ!もういい!私だけで……!」

「リーテス」


 ぞわっとした。

 兄の声はいつもと変わらない。

 読書している兄の視線も変わらず本に注視されている。

 だが怒気を孕むその気配は序列上位である筈のリーテスの背筋を凍らせるのに十分な圧を放っていた。


「ご、ごめんなさい……兄様」

「いや。無聊を慰めるのは俺も苦手だが……どうやら相手もそれは同じらしいぞ?」

「えっ?」


 パタン、と本を閉じて身を改めるとその視線は敵軍に注がれていた。

 それを知ってリーテスも敵軍に視線を送る。

 見ると敵陣に動きがある。

 まるで海が割れるかのように、こちらに向けられていた矢の陣が二つに分かれていく。

 その割れた陣の向こう側からただ一騎、いやただ一人こちらに向かって歩いてくる姿が見える。


「へぇ、仰々しくご登場とは度胸あるじゃない。たった一人でやろうって言うの?ねぇ兄様、アレはいいでしょ?殺っちゃって」

「……いや、俺が出よう」

「ええ⁉︎そんなっ!」

「……アレは……お前と相性が悪い。最悪な程にな」

「……!」


 信じられない。

 兄が汗を見せた。

 狼狽しているという程ではないが間違いなく強敵を見る目だ。

 リーテスの単純な魔力量と魔法に対する実力こそがドリムーラを凌駕する才能であり十星第4位という地位を与えられた所以だが、こと戦闘力という一点においてはドリムーラはその上をいく。

 そんな兄が本気になろうとしている相手。

 一体どんな相手だと目を凝らす。

 その姿はーー。


「女……?それも私と変わらないくらいの……?」

「あれが……バルカードが隠し持っていた切り札の一人、戦乙女か」


 長く腰まである流麗な金の髪。

 女神像がそのまま動き出したかのような美を隠さない柔和な相貌。

 光り輝く華美な銀の鎧に聖騎士の証たる青地に騎士章を誂えた外套(マント)

 その一つ一つが一種の芸術品のような麗しい佇まい。

 しかしその中でも最も目を惹くのが手にした槍だった。

 黄金の二股の穂先に美しく装飾された銀の柄。穂の反対の石突には翠の神玉。槍に巻かれた格式高い聖布。

 まさに神器とも言うべき存在感を所持者以上に放っていた。

 その神の槍を持つ戦乙女は二人に声が届くまでの位置まで歩いてくると歩を止める。

 互いに睨み合う訳でもなく、ただ黙って観視する。

 暫しの沈黙の後、口火を切ったのは戦乙女だった。


「……その自身満ち満ちたる姿、大軍を前にしても怯まぬ胆力、溢れんばかりの強大な魔力。卿らこそが世界にその名を轟かせるグルトミア十星将が二星とお見受け致しますが相違ありませんか?」

「……麗しき淑女にしては少々不躾な物言いだ。他人に名を問う時は自分から名乗ってはいかがかな?」


 ドリムーラに指摘され、大きい目がさらにぱちくりと瞬く。

 クスッと破顔したその容貌はその歳に見合った可憐さを見せる。


「これは失礼いたしました。我が名はアーシア・リングベルム。聖印騎士団副団長にして神槍に選ばれし「戦乙女」の称号を戴いた者。以後見知り置き下さいますよう」


 恭しく頭を下げてにっこり微笑む。

 その余裕の笑みが兄妹星の癇に障る。


「……グルトミア十星将序列第5位銀星のドリムーラだ。こっちが……」

「序列第4位金星のリーテス・ファラよ!…で?その戦乙女様がわざわざ大仰に登場して来て何の用?」

「はい。ここは退いていただきたのです」

「……は?」


 何をいいだすのか、と唖然とする。

 しかし当の本人は至って真面目、と言わんばかりに真っ直ぐ此方を見据えてくる。

 笑顔を崩さない戦乙女に対して苛立つ妹を制止する兄。


「我々の当面の目的は貴国を制圧する事ではありません。我が国の威をある程度見せつけ、再度の外交的交渉を有利に運ぶ為の手段に過ぎません。占領する都市や町村には手厚く遇しますし、略奪等は一切行わない事を騎士の名において約束致しましょう」

「あんた……!」


 今にも噛みつきそうな妹をスッと手で抑える。

 一方的な相手の態度にドリムーラも内心腹に据えかねない思いだが情動に任せるには危険な相手だと直感が告げている。


「……慇懃無礼とはこの事だな。折角だがそちらの要求は却下だ。舐める相手にしては俺たちは舌が溶けるぞ?戦乙女」

「では……仕方ありませんね。先日の第一軍団の仇を取らせていただく事にしましょうか」


 微笑みを消し、スッと槍を構える戦乙女。

 左前半身構えのその姿からは隙は見当たらない。

 ……成程、神の槍に選ばれただけの事はある。

 と感心した刹那。

 目の前に戦乙女が急に現れた。

 10歩分は離れた距離が一気に0にされたのだ。


「‼︎ 退がれ、リーテス‼︎」


 ドン、とリーテスを後方へ乱暴に付き倒しながら戦乙女の刺突を躱すも白い法衣が切り裂かれる。


「兄様!」

「来るな!コイツはお前の手に余る!」


 アーシアという戦乙女は右、左、上、下と変幻自在の槍捌きを見せる。

 だが初撃こそ不意を突かれたがその後は危なげなく槍を躱していくドリムーラ。徐々に目が慣れていくとその攻撃を観察できるまでになる。

 が。腑に落ちない違和感を感じる。


(……なんだ?確かに鋭く早く重い一撃を繰り出してくるが…この程度なのか?魔法も使わないだろう。正直な槍捌き。この程度の使い手ならグルトミアには吐いて捨てる程いる。……杞憂だったか)


 手にした聖杖で神槍の一撃を食い止める。

 互いの柄で競り合い、アーシアの手を止めると魔法詠唱を始める。


『踊れ。廻れ。地の精霊よ。雄々しき大地の腕に抱かれながら励起せよ!地裂圧瀑(デル・ベルセ)‼︎』


 詠唱を終えると大地に魔力解放陣が発動する。

 大地の表層が裂け、岩盤が折れ曲がりアーシアを叩き潰す。

 さらにグッと前に突き出した手で拳を握ると巻き上げられた大小の岩で岩盤を押し潰す。

 これで生きていられる筈がない。今までの経験がそれを告げている。

 しかし。


「?なんだ⁉︎」


 ビキッという鈍い音が響くと押し潰した岩盤に亀裂が入っていく。

 異変を感じ、ドリムーラは身構え警戒する。

 やがて。

 押し潰した岩が爆散し魔法力場が消えていく。

 その後に残ったのは。

 神の槍を持ち傷一つついていない戦乙女がその場に何事も無かったかのように立ち尽くしていた。

 ドリムーラも後方に下がって見守っていたリーテスも驚愕している。


「なんで……⁉︎地系の魔法は兄様の最も得意とする魔法。それが全く通じないなんてあり得ない!」

「確かに凄まじい魔力でした。しかし私には通じません。私がこの神槍レグアローフを持つ限り」


 ブンッと神槍を振り払うとその場に残留していた魔力が全て消散する。

 その現象をドリムーラが視認すると一つの結論を導き出す。


「まさか……その神槍の特性は所持者の完全魔法消散効力か?」


 その答えにニコッとまた微笑むアーシア。

 そこでまた構えを解く。


「いかがでしょうか?卿たちは純粋な魔道士とお見受けします。この槍の前で卿たちの力は十二分に発揮できないでしょう。今からでも先ほどの提案を受け入れては頂けませんか?」

「……舐めるなと言った筈だぞ、戦乙女。」


 聖杖の石突を大地に叩きつけると杖頭の先が変形し穂が現れる。

 さらにドリムーラの強大な魔力は視認できる程に濃くなり槍杖に宿る。


「……素晴らしい力です」

「過分な言葉痛み入るがまだだ」


 懐から神紋を刻んだ魔晶を取り出し親指で上空に弾く。

 上方に飛んだ魔晶が最高点に到達すると粉々に砕け散り、その瞬間ドーム型の結界が展開される。


「これは……?」

「こいつは我が神軍神イドラスの神力を封じた逸品でな、このドーム内ではイドラスの加護ありし者には能力を倍加させ、それ以外の者には能力を半減させる効力がある。その神槍を持つお前には通じないだろうが俺の力を底上げさせてもらう」

「構いませんよ。それでも私には勝てませんが」


 互いに構えると同時に前方へ突貫する。

 ガキンッという鈍い音が結界内のあちこちに響く。

 それを見ていたリーテスは目で2人の動きを追うが早すぎてとても追いつけない。

 だが微かに見える2人の攻防は全くの互角に見える。

 だが。


(……?何だろう、互角に見えるのに…何かが違う気がする……!一体何が……?)


 見えぬ違和感。

 それはリーテスの深層に深く刻まれ、2人の闘いに魅入っている。

 その闘いはまだ始まったばかりだった。



 ーーーーーーーーーー



 グルトミア帝国都城フェルアーザ城。

 暖かい陽気の露台テラスで摂政としての執務を休んでいるリカードに秘書であるアレサが淹れたての熱い紅茶を出す。

 その紅茶を口に含むと柔らかく笑う。


「紅茶を淹れるのが上手くなったな、アレサ」

「恐れ入ります」

「ところでクステルム平原はどうなっている?」

「はい、未だにリーテスとドリムーラが足止めしております」

「……困った奴らだ。遊んでいるのか?」


 2人の力を以ってすれば例え圧倒的兵力差でも遅れを取ることないと思っていたのか、全く問題にせず一笑に付した。

 しかし遠い地にある事を知る術はアレサに無い。

 だがそれを聞いた相手はアレサではなかった。


「いや、意外と苦戦を強いられています」


 その言葉を放ったのは露台の手摺に止まっている小鳥だった。


「ほう?何か起きたか、ローグ」

「バルカードの戦乙女が出張ってきました。開戦から5日経って現れたのは恐らく聖王都ベルクラーナから出向したからでしょう」


 切り札の一人と言われた戦乙女は普段フェニア神教総本山に詰めており、聖印騎士団が動いても共に行動する事はない。故にどの様な実力と地位にあっても副団長にのみ就く事になる。

 軍に有事ある時のみ召喚する事が許されるまさに切り札なのだ。


「戦乙女か。また厄介だな。ローグ、お前から見て2人に勝ちの目はありそうか?」

「恐らくは相性もあるでしょうが難しいかと」

「そうか。アレサ、ここにいる十星は誰がいる?」

「はい、序列2位ダルタニア、序列6位バトレシア、序列8位ライアス、そして私序列9位水星のアレサ・アルガマスです」


 ふむ、と報告を受けたリカードは頭の中である2人の人物を思い描いていた。


「ローグ、ラドルは今どうしている?」

「ラドルは今そのクステルム平原の戦いに介入しようと向かっています。ですが恐らく何も無くとも2週間はかかるかと」

「ふふ、あいつは普段腹が読めない代わりに動く時は直情的なところがあるな。よし、2週間時を稼ぐか。アレサ」


 ラドルの動きに満足しているのか、少しまた笑って見せながらもう一人の人物を口にする。


「ノヴァを喚べ」

「……え?」

「聞こえなかったか?序列1位『脚本家』白星のノヴァ・エインレーゼを喚べと言ったんだ」

はい、22話です。

十星vs戦乙女編です。

序列1位が早くも出てくる伏線。

さぁてどうしようかな、と腹案は色々ありますがやり方によっては設定破綻しそうで怖い。

がんばるぞい!

感想評価よろしくお願いしますね!ではまた2.3日後に〜笑

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