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ただいま、みんな!


 立て札に追記されていた場所へと俺は来た。

 孤児院は場所を移し、街の1番西側、その入口とも言うべき場所に居を構えていた。

 端に追いやられている、とも言えるような立地だけどちょっと進めばそこら中に娼館があるしな、逆に良い立地かもしれない。

 外観を見ただけで以前のボロ屋が嘘のような立派な建築になっていた。

 早く入ってみたい、そう思う俺だが、そんな俺の前には立ち塞がる者がいた。


「来やがったか……!!」

「ここは絶対通さないよ」

『わ、私たちが……守るっ!!』


 リィン、ヴェナ、シックス。俺との再会を待ち望んでいてくれるはずの3人が敵意を剥き出しに俺たちを睨んでくる。

 ……まあバハムートに乗って来ちゃったからな。街の近くを飛んでいたのを見て魔物の襲来と勘違いさせちゃったようだ。


「悪いバハムート、急いで降ろしてくれ!」


 このままでは本当に戦闘になりかねないので俺は慌てて彼女の背中から降りる。

 バハムートとリィンら3人の間に立ち、しっかりと彼女たちへ顔を見せた。


「……っ!? そ、その顔」

『ザック!? 嘘でしょ……?』

「……遅いよ」

「……あー、と……その……。……た、ただいま」


 想像してたとおり、みんな驚いて俺を見てくる。

 驚愕と同じくらいの歓喜を声に滲ませた3人に、俺がたっぷり時間をかけて絞り出せたのは、結局その一言だった。


『ザック、久々の再会だろぉが。もうちょいなんか言ってやれよ』

「いや、そうなんだけど……、他になんて言ったらいいか、やっぱり分からなくなって」

「ザックーーーーーー!!!」


 そんな俺に1番にリアクションを取ったのはリィンだった。弾丸のように飛んできて抱き着いてくる。

 リィンの身体に俺は包み込まれ、嬉しい気分に……いやそんな事言ってる場合じゃないな、まったく力加減できてないからメキメキ言ってるんだけど俺の体。


「痛たたたたたた!! り、リィン!? これ歓迎なのか!? それとも普通に俺を殺そうとしてる!?」

「馬鹿野郎もうどこにも行かねえように抱き締めてんだろうが!! 急にどっか行きやがってお前よぉー!」

「大丈夫もう勝手に逃げたりしないから! もうちょっと緩めて!!」


 万力のようなパワーで締め上げられていたが、俺の言葉でわずかにだが力が緩み、ようやく痛みから解放された。

 それから密着してくるリィンの筋肉質な体の感触にドキドキし始めるのと同時にヴェナとシックスも俺を取り囲んでくる。


「何してたの」

「うん……みんなにこの姿を見られるの怖くなって、少し、各地を巡ってた」

『ちょっと体が変わるくらいで気にするわけないじゃん! なんで逃げたのよー!』

「そうだよね。立て札を見てきたんだけど、俺が悪かったよ。みんなも、シスターも、これくらいじゃ何とも思わないよな」


 誰も俺を見る目が変わっていない。本当に、魔王の姿になってしまっていたのを気にするのは、俺だけだったんだな。


「んで……あいつは何なんだよ、ザック」


 俺を押し倒したリィンは顔を上げ、背後のものへ視線をやる。

 そこにはバハムートがカーナと共に俺たちのやりとりを見守っているはずだ。

 ただどちらかといえばその誰何はバハムートに対して向けられたものだろうな。見えているのは彼女だけだろうし。


「バハムートは……何だろう、仲間……友達? ……具体的になんて言えばいいか分かんないけど、助けてもらったんだ」

『当機は貴方と友人になった覚えはありません』

「うお、喋るのか!」


 バハムートの声を聞き、リィンは驚いた。ヴェナも同様で、シックスは……表情は分からないが、多分ビックリしてると思う。


『嘘でしょ……この前戦ったのに、今度は友達になったの?』

「え、戦った? ……バハムート、もしかしてウチを襲ったりしてたのか?」


 まさかこの孤児院を襲った事があるんだろうか。そんなわけないのだが、俺は彼女に聞く。


『この場所に着陸したのは今回が初です。第一、当機にこんな低空の建築物を破壊する理由は存在しません』


 やっぱりか。俺もなんとなくそう来るだろうなと思っていた。天高くそびえるメルキオのあの塔だったらともかく、10メートルもないような孤児院を攻撃するわけないよな。


『そして妹の言葉に訂正を。重ねて言いますが、当機はザックと友人になった記憶は存在しません』

「ほら、バハムートもこう言ってるし、シックスは何か勘違いしてるんじゃ……。え、待ってバハムート、今なんて言った?」

『何度言わせる気ですか。当機は貴方と友人になったつもりはありません。仲間ではご不満ですか? どうしても当機の良き共になりたいと?』

「いやそこじゃなくて!! 誰が妹だって!?」


 再三聞いた事を繰り返すバハムートだが、その前だ。妹って……誰が? 誰の?

 俺の声にムッとした態度をしながら、彼女は続ける。


『聞かねば分かりませんか? そこの実験生物6号こそ当機の後続、言うなれば妹に他ならないでしょう』

「えええええぇぇぇぇ!?!? じゃ、じゃあバハムート、お前って……!?」


 シックスではなく、彼女が研究所にいた時の呼称を使うバハムート。

 俺はそんな話をした覚えはない。だというのにそれを知っているという事は。


『当機の正式名称は実験生物2号。バハムートとは、人間たちが呼ぶ仮称に過ぎません』

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