学習型自己改修航行機構 バハムート
「実験生物2号って……空を飛んでどこかに逃げた、アレの事!?」
シックスの事を『妹』と呼んだバハムート。そしてその正しい名前は実験生物2号だという。
あの博士の日記には確か空から脱走したものが1体いたはずだ。聞くまでもない事だが、彼女はそれを肯定する。
『ザックも当機の事を知っていたのですか。であれば詳細を語る必要もないかとは思いますが、当機こそが自動学習機能を搭載した飛翔特化型人工生命、実験生物2号に他なりません』
「マジかぁ……」
見るからに機械である点はツッコむべきなのか分からないが、ともかくバハムートは事実を語っているようだ。
あの研究所のヴァーナムとかいう研究者の生み出した生物、その脱走したうちの残り1機。……いや、1匹? まあそこはいいか。
リィンたちが孤児院の前で待ち構えてたのもそこが理由かもしれない。以前レヴィアタンと接近した時もシックスはその存在を感じ取ってたから、今回もそれで対応が速かったのかも。
『研究所で資料は見てたけど、こんなに大きかったの……?』
『当機は当機の判断で自己の改良、改修を行えます。妹が見たのは当機の初期型でしょう』
『い、妹って言わないで! あんたみたいなお姉ちゃん、知らないもん!』
「ははは……そんなに拒絶しないであげなよシックス。バハムートは悪いやつじゃないし、お姉ちゃんって呼び返してあげたら?」
『嫌よ、こんなのがお姉ちゃんだなんて、私認めないから』
『嫌われてしまったようですね。当機としては6号に親類のような感情を持っているのですが』
『……ふん、知らない。それに私はもう実験生物6号なんて名前じゃなくて、シックスっていう名前があるんだから』
だいぶ親しげに、それこそ姉のようにシックスへ言葉をかけるバハムートだが、肝心のシックスは彼女の事を姉とは認めたくないようだ。
感情の見えない銀の機械龍ではあるが、俺には心なしかバハムートがしょんぼりしているような気がした。
「……ザックが言う通り、あんま危ないヤツには見えねぇな。レヴィアタンの仲間が来るなんて言われて身構えてたが、随分可愛げのあるヤツじゃないか?」
「おっきいよね」
2人のやりとりを見ていたリィンとヴェナも警戒を解いた。
そうだよな、俺の目にも今のバハムートは生き別れの妹に会えて高揚してる姉みたいに見えるし。
『それでシックス、で宜しいのですね? 先程の『この前戦った』とは何を指しての言葉だったのですか?』
「……あっ」
話を戻したバハムート。そこで、俺もシックスが何を言わんとしていたのかを思い出す。
レヴィアタン、みんなからすればつい最近に戦った強敵。それの事に他ならない。
トルフェスたちとの協力もあって撃破できたオリジナルランクの海の支配者。……まあ、トドメは銀の災厄に持っていかれた形なんだが。
それはいいとして、レヴィアタンにはもう1つの名、正確には本来の名前があった。
実験生物9号。バハムートやシックスと同じ、ヴァーナムの生み出した実験生物の1体。
最後の一撃は銀の災厄だが、それを追い詰めたのは俺たちだ。シックスの事を妹と呼ぶような彼女に、どう伝えるべきか。
「……どうしよジル」
『俺はまぁ……ザックが悪ぃとは言わねぇが、あれだ。いざって時はザックもぶん殴られる覚悟はしとけ』
「殴るっていうか全身で突撃してきそうな気がする……」
俺にもレヴィアタンを破壊する理由はあった。だがバハムートも自分の妹の命を奪われては怒りもするだろう。
その場合はみんなの代表として俺が彼女の怒りを受け止めろとジルは言いたいんだろうけど……耐えきれるかな。
まあだとしたら俺の口から言うべきか。シックスたちは怖くて言い淀んでるみたいだし、俺が意を決してバハムートと向き合う。
「……バハムート、9号ってわかる?」
『直接の面識はありませんが、飛行中に海中を回遊するのは目撃した事があります。シックスはそれと戦闘を?』
レヴィアタンの事を確認すると彼女はすぐさま答えを導き出してくる。学習が武器というだけあって頭の回転は速いよな、やっぱり。
「そいつ、レヴィアタンって呼ばれてて。俺の……友達を殺したんだ。それより前からもっと、たくさん、犠牲を出してたらしいんだけど、だから……俺が人を集めて、破壊したんだ」
あえて銀の災厄の名は出さず、そう教えた。やったのはほとんど、俺たちだったから。
いずれにしても後は彼女がそれをどう受け止めるかだ。返答があるまで、俺はバハムートをじっと見つめる。
『……そうでしたか。近頃は機影を見なくなったと思っていましたが、ようやくその理由を知りました』
「……ごめんな」
『なぜ謝罪を?』
瞳を閉じた俺に、バハムートが返すのは意外な言葉だった。
「お、怒らないのか?」
『後続機が破壊された事に思う所がない訳ではありませんが、9号は度々反撃をされておりました。いつかはこうなる時もあったでしょう』
そうか、バハムートとは違いレヴィアタンは幾度か冒険者たちに討伐されようとしていた。
それを見ていた彼女は実験生物9号の破壊に、そこまで衝撃を受けていないのだろう。
これも、学習の結果ってわけなのかな。
「……っはぁ! 呼吸、忘れる所だったぜ」
「こわかった……」
『ふ、ふん……。私の事は妹って言ったりするのに、9号の事はキッパリ諦められるのね』
『シックスとは研究所で面識がありました。僅かではありますが、当機の親愛はそれ故に発生しているのでしょう』
『わ、私はそんなの覚えてないし!!』
バハムートが許してくれていると分かってリィンとヴェナも今度こそ緊張を解いたようだ。
相変わらずシックスはつっけんどんだが、これでどうにか一件落着か。
「あの……ザック様……。わたくしもそちらへ行ってよろしいでしょうか……?」
「あ……ごめん、カーナ」
ああっと、急に飛び出してきてしまったせいでカーナをバハムートの背中に放置してしまっていた。
俺は彼女の元に戻り、今度こそようやく新しくなった孤児院へと足を踏み入れるのだった。




