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女神龍の新機能

『まったくよぉ……。シャベル代わりにされる時はあったがとうとう岩まで掘らされるなんざ思いもしなかったぜ。人生……いや剣生初の経験だ』


 1時間ほど経過しただろうか。俺はひたすらジルを壁に突き立て、シャベルとつるはしの中間みたいな使い方で鉱石を掘り続けた。

 ジルは宣言通りに壊れず、頑丈さと持ち前の切れ味のよさでちょっと固まった雪を崩すような感覚で硬質な岩壁を砕いてくれた。

 まあどれが珍しい金属なのかは分からないままだったが、バハムートに俺が掘り当てた金属交じりの岩塊を見せるとかなりいい反応が返ってくる。


『素晴らしい。人の身でありながら中々の成果です』

「バハムート様……。ザック様は、魔王であらせられます……」

『そうなのですか?』

「いや、外見はね……。中身はこれでも人間のつもりだから」


 やっぱりカーナはまだ俺の事を魔王だと思っているみたいだ。否定しきれない程度には事実も含んでるので違うと断言もできないんだよな。

 ……どうしようかな、いっそ開き直って魔王を名乗ってみるか? ハインザックだったよな、前世の俺の名前。……魔王ハインザックかぁ。そこそこ悪くはない響きかも?


『貴方がなんであろうと構いません。これより当機は新規ユニット精製にかかりますので、2人は周囲に警戒を』

「無防備になるから守ってくれって事?」

『いいえ、当機でも対応はできますが、せっかく貴方がたがいるのだから何か役割を分担すべきかと思いまして』

「そ、そうなんだ……いや守るけどね」


 新しいパーツを作っている間は無防備になるのかと思いきや、そうでもなかったようだ。まあこの巨体だし、飛行に特化しているとはいえ大抵の相手は質量で押し勝てそうだもんな。

 だが頼まれた以上はやるべきだろう。俺はバハムートに背を預け、カーナと共に広く暗い坑道内を注意深く見回す。

 ……背後でなにやらゴリゴリ音がして気になるんだけど……、もしかしてさっきの鉱石を食べてる?

 そういえば確か体の中で作るとか言ってたっけ。


『……にしてもバハムート、だっけかぁ? 随分と頑張ってるみてぇじゃねぇか。あいつだけでここにこんなでっけぇ洞窟作ってんだからなぁ。感心感心』

「あー確かに。バハムートだけでここまで深く掘るのって、いくら大きいからって大変だっただろうね」

『いいえ、この坑道は元来メルキオに暮らす人間の作りあげたものでした』

「え……? それは……」

「ん~、廃坑になってたのを利用してバハムートが更に掘り進めたって事かな?」

『違います。当機は当時坑道で採掘を行っていた人員たちよりこの坑道を譲り受けた形となります。彼らは進んで当機のためにこの場所を明け渡してくれました』


 ……それは譲ったとかではなく、単にバハムートがこの場所を強奪しただけなんじゃ……。

 いや、別に彼女が力で奪い取ったって話ではないかもしれないけど。こんな巨大な機械龍がいきなり現れただけでも普通はビビるかもしれないし、それはバハムートの視点からしたら退避ではなく譲渡されたように映るかもしれない。


『この大陸はそのほぼ全域に渡って巨大な鉱脈が多数存在します。だからきっと、彼らも当機のために採掘場所を開けてくれたのですね』

「まあ……。それはいいお話ですね……」

「うん……まあ言ってる通りだったらね……」


 カーナは美談のように受け止めたようだが、実際はここの作業員は追い出されたんだろうな……。まあ他にも鉱山自体はあるっぽいから彼らが路頭に迷うまではいってないと思うけど。……思いたいけど。


『――改良が完了しました。2人共、当機への協力、感謝します』


 いずれにせよバハムートは何事もなく自身の回収を終えたようだ。

 俺とカーナは特に出番がなかったが、安全なのに越したことはないからいいだろう。振り返ってどうなったのか確認してみる。


「……? それって」

「バハムート様……、背中の、それは……?」


 何が変わったのかは一目見て分かった。

 全体のフォルムに変化はないが、カーナも言うようにバハムートの背中。俺たちが何度か乗せてもらった個所だ。

 そこには金属製の座席が2列。1列に2、3人は座れそうな大きさで、更にそこを覆うように透明なドーム状のものが被さっていた。


『優秀な頭脳をお持ちの貴方がたには即座にご理解いただけると思いましたが。これは人間を搭乗させる際のシートです』

「いや分かるけど! ……バハムート、そんなの付けたくないって言ってただろ? なんで……」


 そうだ、確かメルキオ脱出直前にそんな話をしてたはずだ。なんとなく俺が言った言葉に、バハムートはスピードが低下するから嫌だって。

 ……でも、まさかとは思うが俺の発言のせいなのか? 人が乗れるよう改造したらいい、とは俺の発言だったし。


「ッ、ごめん、バハムート……。俺が変な事言ったせいで……」

『何を言っているのです? ザックの発言など当機の機能改善に何も影響してはおりません』

「ち、違ったのか……? ならどうして」


 俺の言葉を真に受けてしたくもない改造をしたのかと申し訳なくなったが、関係ないらしい。

 だが、それではどうして彼女さえも嫌っていた「人を乗せるための機能」なんてものを追加したんだ?


『当機は近頃人間を乗せての飛行が増加しておりました。しかしそれに対して現状の装備では搭乗者の安全な飛行を実現できないと判断しての機能追加です。そこに当機以外の存在の思惑が加わる事はありえません』

「ですが……それはつまり、わたくしたちがバハムート様に強引に乗せて頂いた場面があり、結局はわたくしたちが原因なのでは……?」

『断じて否です。当機は安全面を考慮した上で機能追加の必要を感じただけに過ぎません。勘違いなさらぬよう』

『……へっ、素直じゃねぇなぁ。ザックもそう思うだろ?』

「うん、そうだね……」


 なんと言ったらいいか分からないが、ジルの言う通りだなと思った。

 バハムートはわざわざ俺たちが安全にその背に乗れるように座席を用意してくれたようだ。

 照れ隠しか本心なのか、否定はしているが結果的にはそういう事だろう。

 うん、素直じゃないな。……素直じゃないっていうか、これ、アレだよな。


「ツンデレ」

『単語の意味は不明ですが、不快です。訂正を』


 ……こうして、銀の女神龍バハムートは新機能、搭乗席を身に付けたのだった。

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