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よくやった!

「よぉ。災難だったな」


 何日かぶりに女神が夢の中に現れた。

 メルキオでの一件も見ていたのか、俺に同情するような目で見てくる。


「何の用だよ。……っていうか、見てたんなら先に忠告ぐらいしろよ。危うく撃たれる所だったぞ」

「ふん、俺の愛するカトレアに雑用なんかさせた罰だ。どうせ死なないのも見えてたしな」


 自分のお嫁さんをビスク撃退のために利用したのが許せないようだ。それはまあ分からないでもないが、カトレアさんだってオッケーしてくれてたしな……。


「そもそもあそこにカトレアさんがいたのはお前に問題があるだろ。なんで俺に構って愛する妻をほったらかしにしてんだよ、そんなに俺が魅力的か?」

「まあお前からも目が離せないのは事実だけどよ……」

「ひ、否定しないのかよ……」


 こいつがこんな調子だからこそビスクからカーナを守り抜けた面もあるのであんまり責める気にはならないが……俺の事そう言う目で見てたのか。

 その割には何もさせようとしなかったのは気になるんだけど。


「ここで何しようが所詮は夢だからな。……その話は置いとくとして、ビスクをぶった切ったのは気持ち良かったぜ、やるじゃないか!」

「ああ、やっぱりあいつの事は嫌いだったんだ……」


 幾度か戦っていたという銀の災厄とビスク。想像するまでもない事だが、両者の仲は相当に悪いようだ。


「勝てもしねえくせに、俺の事を悪だ悪だと言って襲ってくるからな。何度殺しても生き返るし、それなりに知恵も力もあるせいか自分が正しいと思って疑いやしねえ。ああいう所が嫌いなんだよな、喰う気にもなれねえ」

「そこは、同意見かもな」


 ビスクは自分が悪だと断じた者は間違いなく悪であると、それが絶対に正しいと信じているかのようだった。

 しかもその悪を討つための犠牲など大して気にもしていない。ギルバーたちの命を、あいつはあまりにも軽々しく扱ったのだ。

 前世で俺を魔王の姿へと変貌させた相手だが、ビスクに向ける感情は分かり合えるものだ。


「……そうだ、お前、俺の姿を人間に戻す方法くらい教えろよ」


 ふと、人間の姿になっている自分の手を見てハッとし、俺は女神に尋ねた。

 夢の中では人の姿に戻れているが、目を覚ませば俺はまたあの魔王の姿で過ごさなくてはいけない。

 俺が孤児院のみんなの元へ帰るのを躊躇う理由そのものでもある。そして目の前にいるのは魔王化の元凶そのものがいるのだから、聞かない手はなかった。

 前回は聞きそびれていたが、思い出した以上は聞かない手などないだろう。


「え? あ……戻りたいのか、やっぱり」

「当たり前だろ。お前のお嫁さんとかメルキオでは気にされてなかったけど、こんな……いやあんな、か。あんな姿のままでシスターたちには会いたくないんだよ」

「……俺はかっこいいと思うけどなぁ。正直、人間だった時のお前よりも興味津々なんだけど」

「元に戻りたいって言ってるんだよ! あるんだろ!? 何か方法が!!」

「ああっ……♡」


 思いっきり詰め寄って俺にできる限りの怖い顔をして女神に迫る。本当に俺に興味アリだったのかやけに色っぽい声を聞いてちょっとドキッとしちゃう。

 気まずくなって顔を離すと、向こうも冷静さを取り戻したのか一つ息を吐く。


「はぁ……。戻せとは言うけど、本当のザックの姿がそれだからなぁ。むしろ今までの人間の姿の方が捻じ曲げられてた結果だぜ?」

「そもそも俺を人間から魔王に捻じ曲げたのはお前じゃないのか?」

「えへへ……」

「えへへじゃないだろ!!」


 可愛く笑うが、流石にそれで済ませはできないので俺は大声を出す。女神にはあんまり聞いてないみたいだが。


「でもお前がシルバーランクの力を手に入れられたのだってそのおかげなんだぜ。ザック、お前のその強さは前世の、魔王ハインザックという存在あってこそのもんだ」

「なッ……」


 俺がギルドでシルバー級と測定されたのは、前世の魔王の力を引き継いでいたからだっていうのか?

 まさか、そんなわけがない。そんなわけが。


「そ、そんな、わけ……」

「思い当たることだってあるだろ? 俺がこうしてお前と会いに来てるのだって、お前が人間じゃないって分かってたからだしな」

「ッ……」


 人間を嫌悪しているという銀の災厄。それが女神として俺の夢に現れるのは、魔王だったから?

 孤児の身でありながらゴールド級の盗賊複数を瞬殺できたのも、猛毒の魔獣の毒に耐えられたのも、シックスの魔力吸収に耐えられたり、即死してもおかしくないような傷を負っても平気でいられたのも?

 全部俺がこの世界に産まれた時に元から持っていた素質ではなく、魔王だった前世の力を引き継いでいたからだっていうのか?

 そんなの、納得できるか?


「……まあ、割としっかり納得いった感はあるな……」


 一通り考えてみたけど、確かにそれならあれだけ強くても納得いくわ。

 それにそういう縁が無かったら俺は孤児院にも残らずギルバーたちと一緒のパーティで冒険者として働き、いつかはビスクに利用されて死んでいた可能性が高い。


「え、てことは俺が魔王になったのが良かったって、そうなるのか?」

「少なくとも、なってなけりゃあお前にシスターを救えって言いには行かなかったかもな」


 となると、孤児院は盗賊に襲われ、シスターやリュオンローレナがどんな目に遭うかは想像したくもない。

 その後街には魔獣が迫り、もしかしたらそこで俺とギルバーたちの6人は全員毒で死んでいた可能性もあるだろう。

 キメラが街を襲いはしなかっただろうが、ヴェナやシックス、リィンもどんな不幸な運命を辿るかは想像すらできない。


「……っつーことで、別にこのままの姿でもいいんじゃねえか? な、ザック?」


 改めて女神は聞いてくる。

 失ったものは大きいが、その代わりに救えたものもある、そう言いたいのだろう。

 全面的に賛同できる、なんてことはないが、部分的に言いたい事も分かる。

 だから俺は、女神に対してこう返した。


「それとこれとは別だから、やっぱ人間の姿に戻る方法を教えろよ!!」

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