作戦会議
「じゃあ、『黄金の旗』を壊滅させた敵を、どうしたら倒せるかについて話し合おうか」
無理はするな。ゼンに言われた俺だが、彼女とシスターが消えてしばらくして、リィンたちに俺はそう言い放つ。
ゼンを寝室に送ったシスターが戻ってきて、「今日はもう休みます」と言ったシスターが俺に背を向ける一瞬、その顔は悲痛な感情を隠しきれなかったのか僅かに涙が零れていた。
年齢的に大人となり、孤児院を去ったギルバーたち。それでも彼らの死はやはり確かにシスターの心を深く傷つけてしまったのだろう。
あれを見てしまった以上、俺はあいつらの仇を討たなくてはならない。
最強の称号、シルバー級の冒険者である俺が、必ず無念を晴らす。
「……やるのか、ザック」
「当然だよ、シスターを泣かせるようなやつは絶対に許しておけない」
それを聞いて、3人は俺と同じ気持ちであると示すかのように頷いた。
が、同時にみんな顔に苦いものを浮かべている。
『そうなんだけど……海の中って言ってたよ。どうやって戦うの?』
「ヴェナ、あんまり泳げないよ」
ゼンも言っていたが、くだんの敵は海中を高速で動くという話だ。
さらに巨大な船を沈めたという点を考えてもかなりのサイズである事が予想できる。単独の相手とはいえそんなものに届く攻撃手段を俺たちが有していない以上、議題はそこだろう。
「だよな。……俺たちにできる遠距離攻撃か……」
と言っても、俺は剣、リィンが拳で、ヴェナは爪とか牙。シックスは攻撃手段なし。
それでも射程距離が1番長そうなのは……シックスかな。
みんなを見回し、俺は彼女に視線を向ける。
『わ……私?』
シックスが破損、または機体にダメージなどが入った時に発動する魔力吸収機構。あれが唯一の飛び道具だろうか。
俺の視線を受け、シックスはふるふると首を横に振る。
『私……泳げないよ……?』
「あ……ごめん大丈夫だよ、シックスに何かしてもらいたいって事じゃないから」
俺の言葉でシックスは安堵するように息を吐いた。驚かせてしまったみたいで申し訳ない。
魔力を奪ってしまえばダメージはあるかもしれないが、女の子を海に放り投げるなんて真似はできない。
それにシックスは全身が金属なのだ。最悪の場合二度と沖に上がることができなくなってしまうだろうし、そんな役目を負わせるわけにもいかない。
「う~ん、意気込んだはいいけど、打つ手なしなんだよな……」
確実に使える攻撃手段すらないと再確認しただけになってしまい、俺は頭を抱える。まいった、どうしたものか。
また女神様に願ってみようか。魔剣の時のように、何か遠距離攻撃の手段を授けてくれるかもしれないし。銃とか。
なんて考えていると、リィンが渋い顔をしながら口を開いた。
「……ま、手が足りないってんなら集めりゃいいだけ、なんだけどよ」
「街のギルドで戦ってくれる人を探すって事? ……でもプラチナ、いやダイヤモンド級は確実な相手だし、来てくれる冒険者、いるかな」
足りない役職は募集すればいいという至極真っ当な話ではある。
でもうちの街の冒険者ってそんなに強いやついなかった気がするんだよな、プラチナ級がそこそこいるかどうかくらいで、ダイヤモンド級ってリィン以外知らないんだけど。
「ザック、多分そっちじゃないよ」
そこにヴェナが割って入ってくる。あれ、違うのか。
「え? じゃあ……どっち?」
『あれじゃない? ちょっと前に会った、あの赤いやつの所』
「赤い……ああ、連合団の団長か!」
以前出会った冒険者連合団『ローゼン・レオ』のトルフェスの顔を思い出す。
困難な依頼を複数の冒険者チームで協力して達成するための組織だったか。かなりの規模らしいし、あそこなら確かに豊富な人材が揃っている可能性は高い。
「あたしもアイツの所なら海の中の敵を引きずり出せるような奴くらい見つけられる、とは思ったけどよ……」
だが発案者であるはずのリィンは気が進まないのか、眉に皺を寄せたままだ。
その理由はやはり、あの団長が抱えている闇が原因だろう。少女を嬲り、殺したんだっけか。
背に腹は代えられないが……確かにそんなやつの所にお世話になるのは気が引けるよな。後で何を要求されるか怖いし。
「ギルバーたちの仇は討ってやりてえ。……けど、そのために連合団に入らなきゃならねえ、ってのはなぁ」
『ローゼン・レオ』の一員になれば確実に海中の敵と戦えるようになる。
しかしそのために連合団に加入すると、孤児院を守るという大事な目的が果たせなくなるかもしれないから俺も避けたいんだよな。
だから、できれば連合団に入ることなく戦力を補充したいわけだが、そんな都合のいい話が……。
……いや、あるかも?
「連合団に入らずに済む方法、あるんじゃないか?」
「そうかい? ……でもトルフェスがそんなあたしらに都合のいい話、飲んでくれるもんかね」
「俺に1つ思いついた事があるんだ。明日、連合団の本拠地に向かおう」
上手くいけば彼らの戦力だけを借りられるはずだ。
俺はその方法をみんなに説明し、団長のいる町へと行くことにしたのだった。