14話 第二、三試合
「第二試合。二尾 愛莉、森 雫玖、段に上がれ」
那月から見て奥の階段から茶色の髪を揺らしながら、短剣片手に猫口の少女ーー愛莉が闘技場に登る。
手前の階段からは眼鏡をかけた黄緑色のロングヘアの少女ーー雫玖が闘技場に登る。
「二尾さんのスキルは《結封》。任意の位置に結界を張るスキルだね。森さんは《植生》、植物を操るスキルだよ」
「サンキュな日奏」
「えへへ」
「凄いな……日奏ちゃんは」
「颯。日奏は男だ」
「え!?」
颯がテンプレと化したやり取りを行う。
日奏はなぜ女の子と間違われるのだろうと首を傾げるが、那月と紅蓮は颯に共感の票を投じていた。
そんなやり取りをしている内に、試合が開始される。
「第二試合。レディ、スタート」
音淵先生の掛け声が辺りに響く。
直後、雫玖が動く。
地面に手を付き、スキルを唱える。
「《植生》……です!」
すると、雫玖が触れた地面から、コンクリートの闘技場を突き破り、五本の太い蔓が顔を出す。
蔓はランスのように尖った部分を愛莉に剥けると、そのまま一直線に飛んでいく。
この間、まさに三秒も経っておらず、雫玖の速攻によって試合が始まる。
「およ……《結封》」
しかし、雫玖の速攻は虚しくも失敗に終わる。
蔓は愛莉の顔を貫く寸前で透明な壁のような物に阻まれて、動きを止めている。
「ニャハハ。惜しいね雫玖っち。でも残念、速攻は沢山見てきたから……まだ遅いね」
そう、これが愛莉のスキルである。
自分の周囲に結界を張り、全方向からの攻撃を防ぐ。
彼女のスキルがある限り、彼女に傷を付けるのは愚か、近くことすら出来ないのだ。
愛莉はニャハハと笑うと、雫玖を手で煽る。
「ほらほら雫玖っち、そんな攻撃じゃうちは倒せないぞ」
「うぅ……《植生》!」
雫玖は呻き声を上げると、再度、地面に手を付き、スキルを発動させる。
今度は手を着いた部分だけでなく、愛莉を囲むように円を描いて総数二十の蔓が顔を出す。
それらはまたも頭を愛莉に向けると、釘刺しにせんと飛んでいく。
「無駄無駄。うちの結界は全方位。うちに死角はないんだにゃ」
愛莉は退屈そうにつま先で地面をつつくと、攻撃が止むのを待つ。
雫玖の攻撃が勢いを落とし、動きを止めたのを確認すると、愛莉は重心を前に乗せる。
「んにゃ、今度はうちから行くにゃ」
直後、愛莉は雫玖めがけて走り出す。
そこをチャンスと見た雫玖は更に十本蔓を増やし、総数三十本で愛莉を攻撃する。
しかし、結界は愛莉を囲むようにして展開されているため、当然攻撃は当たらない。
ならば、と雫玖は愛莉と自分を結ぶ直線に一本の蔓を飛ばす。
すると、愛莉は一度止まると、目の前に結界を展開した。
「ふぅ、危にゃい危にゃい」
蔓は無情にも結界に阻まれる。
が、雫玖は一つのヒントを得た。
━━結界は二尾さんも通れない。
というヒントを。
つまり、正面だけは攻撃が通るという事である。
その考えに至ると、雫玖は一本ずつ蔓を愛莉に向けて飛ばしていく。
「あたってください……!」
「うわぁ、危にゃいにゃ。……そっちがその気なら!」
数回、止まって、結界を張って、また走るを繰り返していた愛莉は突然ジグザグに走り出す。
それは、蔓を直線にしか飛ばせない、雫玖には効果的な作戦だった。
「な……ッ!」
「ニャハハ!もうこれで、うちは止められないね!」
愛莉がジグザグジグザグと雫玖との距離を着々と縮めていく。
雫玖は諦めたのか、手を地面に着いたまま俯いている!
「ありゃりゃ。諦めきちゃった?じゃあ、これでお終ーー」
「…………………ーーッ!」
「にゃ!?」
愛莉が止めとばかりに短剣を振り上げた瞬間、雫玖がキッと顔を上げる。
雫玖と視線があった愛莉には雫玖の瞳の奥に勝利の色が見えた気がした。
━━雫玖っちはまだ諦めてない……!?
その考えに至った時、背中に寒気が走るのを感じた。
反射的に身体を逸らした愛莉。
直後、右肩を一本の蔓が掠めて飛んでいく。
蔓が飛んで行った場所は先程まで、愛莉がいた場所。
その蔓を見届けた愛莉は、それが雫玖の最後の攻撃だと確信して、今度こそ止めを刺そうと剣を振り上げる。
「ーーぇ?」
そして、気づく。身体が動かないことに。
何とか動く顔で見ると、そこには地面から伸びた無数の細い蔓が自分の体に巻きついている光景が広がっていた。
続いて、前方からの足音に気づき、顔を上げると、喉元に一本の蔓が突きつけられる。
「やるね、雫玖っち……最初からこれを狙ってたの?」
「い、いえ、ほんとに最後に、思いついた案で、まさかほんとに成功するとは……」
「さすがにうちも地面には結界張れないからにゃ……」
「……ごめんなさい」
「?なんで雫玖っちが謝るのさ。あぁー負けちゃったにゃあ!」
愛莉のその言葉を聞き、音淵先生が試合終了を宣言する。
「第二試合。森 雫玖の勝利。よくやった」
音淵先生は二人が段を下りるのを確認すると、次の試合の生徒を指名する。
「次、烏野 木菟、蒼黄 翠。準備しろ」
先生の合図で、二人の生徒が動き出す。
「二人とも面白いスキルの持ち主だね」
「へぇ、そうなのか?」
日奏の言葉に那月が首を傾げる。
「烏野君。スキルは《鳥人》で、体を鳥に化かすって能力だね」
「へぇ、変体系のスキルか……確かに珍しいな」
スキルには大きく分けて、三つの種類がある。
魔法系と身体系そして特殊系である。
特殊系は文字通り特殊なスキルである。
魔法系は翔の《雷電》や、雫玖の《植生》などで
、身体系は紅蓮の《剣師》や、颯の《加速》など。
そして、変体系とは、身体系の中で無数にある区分の内の一つである。
特徴としては、体の一部、もしくは全てを変形させるというものだ。
因みに、紅蓮の《剣師》は補助系、颯の《加速》は強化系である。
「へぇ、それで蒼黄?さんのスキルは何系なんだ?」
「蒼黄さんのスキル《色液》は特殊系のスキルだね。インクを使うみたいだけどどんな能力かは僕にも予想が出来ないな……」
「なぁ、日奏?特殊系ってなんだ?」
「んー、ごめん正直僕にも分からないんだ。特殊系は身体系、魔法系のいずれかに属さないスキル。これだけ抑えておけば大丈夫だよ」
「そうか!サンキュな」
那月は満足そうに笑う。
しかし、その後ろで紅蓮と颯がヒソヒソと話す。
「なぁ、あれって常識じゃないのか?」
「そうだな、小学校で習う基礎中の基礎だな」
「え、あいつよくこの高校に受かったな……」
「というか、ほんとに十五歳なのか……」
那月の考察が熱を帯び始めた頃、闘技場に二つの影が現れる。
片方は焦げ茶色に黒の斑点模様の髪の少年ーー木菟である。
手には何も持っておらず、上ジャージを脱いで、シャツ一枚である。
対する反対側は、髪を桃色、黄色、水色に染めた少女ーー翠である。
手にはパレットと筆、背中にはスケッチブックを持っている。
両者が位置に着いたことを確認すると、音淵先生が開始を告げる。
「第三試合。レディ、スタート!」
言葉が響き渡るが、前二つの試合とは違い、二人は動こうとしない。
「烏野君だっけ?降参とかしない感じ?」
「そうだね、僕も戦いはあまり好きじゃないから降参してくれると助かるかな」
「んー、無理な感じぃ」
「そっか……《鳥人》」
木菟がその言葉を唱えると、体がドクンと一つ跳ねる。
直後、口と鼻が合わさり黒色で鉤状の嘴となり、体は茶色の羽毛に覆われ、背中から黒の斑点を模様とした茶色の羽がシャツを破いて姿を現す。
手足は黄色く細くなり、最後に茶色の目が黒目を除いてオレンジ色に染まる。
「じゃあ、やろう」
「そだねー。私もそんな感じぃ?」
翠も、筆にパレットのインクを染み込ませると、無造作に闘技場に薙ぎ払う。
赤、青、黄とインクが弧を描いて塗り重なる。
「うん。おっけー」
両者が各々準備を整え、睨み合う。
視線を交わすこと数十秒。その時は唐突に訪れた。
翠の筆に染みたインクの一滴が滴り、地面に着いた瞬間、両者が行動を起こす。
「フッーー!」
「《色液》!」
木菟は羽を広げると、地を離れる。
翠はスキルを発動させる。
すると、無造作に撒かれたインクが、まるで蛇のようにうねうねと地面を動き回る。
更に驚くことに、インクは二次元の移動ではなく、三次元、つまり木菟のいる上に向かって飛んで行ったのだ。
流石の木菟もそれには驚き、一瞬思考を停止させる。
「ーーッ!」
インクは木菟の頬を掠めると、仕事を終えたとばかりに液体に戻り雨のように降り注ぐ。
「いったぁ……でも君のスキル距離に制限があるみたいだね」
一目で翠の弱点に気づいた木菟は地の利を活かして翠の真上から突進する。
「…………ひひ」
「ーー!?」
翠はこれを避けようとしない。
それどころかーー笑ったのだ。
木菟はその笑みを見た瞬間に、反射的にその言葉を口にしていた。
「……《色ーー」
「降参!!」
翠が何かいいかけていたが木菟のその言葉を聞いて、試合が終了する。
「第三試合。蒼黄 翠の勝利!」
音淵先生の言葉で本当に試合が終わる。
「どういうつもり?」
「いや、あのままやってたら多分大怪我してたし、どうせ僕の負けだったからね……」
「……呆れた。見込み違いって感じ……」
二人は同じ段から闘技場を下りたが、それだけ言うと翠はそそくさとその場を離れた。
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