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序章・弐 山間の集落

「ねえ、この山の向こうって何があるの?」


 後ろへ走り去ってゆく景色を窓からぼうっと眺めていた私は、なんとなく気になって聞いてみた。

 すぐ隣の窓の外にそびえる、他の山と比べて少し背の低い山。

 何の変哲もない小さな山だけど、その頂上に何か小さな小屋のような建物がぽつりと建っているのが見える。

 すると運転席のパパがちらりと、バックミラー越しに私の視線を追った。

「そっか、夏帆はまだ一度も来たことなかったんだよな。あの山を越えたら乙黒村だよ」

 思わず大きなため息が漏れた。

 東京を出てから、そろそろ三時間が過ぎる。

 ゴールデンウイークの渋滞で混み合う高速道路を抜け、街中を走ったのも束の間。この車はかれこれ二時間以上、くねくねとカーブの続く山道を走っている。まだ山を越えなくてはいけないのかと思うとげんなりした。

「あとどれくらい?」

「一時間くらいかな。トンネルが通れば、もっと早く行けるんだけど。お手洗い、大丈夫?」

 私の心の内を察したのか、助手席からママがやんわりと口をはさむ。

「……大丈夫」

 渋々答え、座席のシートに背中をあずける。

 窓の外に広がる風景は、先ほどからあまり変わらない。

 辺り一面をぐるりと囲む、緑色の山々。最初はキレイだと思ったけど、二時間も似たような風景が続けばさすがに食傷気味だ。

 暇つぶしにママのスマホでネットでも見ようかと、助手席の横に置かれたトートバッグから引っ張り出した。

 しかし画面左上には、東京にいる時はまず見かけなかったマークが表示される。

「え。圏外とか、うそ」

「山奥だから仕方ないぞ」

 他人ごとのようなパパに少しイラッとした。

 一体、誰のせいだと思ってるんだろう。こんな山奥に引っ越さなきゃいけないのは。

 パパに気付かれないよう、うつむいてため息をつく。

 スマホをバッグの中に戻し、窓から外を眺めた。

 相変わらず代わり映えのしない木、木、山。時々、道路にはみ出す草や枝。

 ひたすら緑に囲まれた風景。

 右側にそびえる小高い山を、何気なく見上げる。木々の合間からのぞく小さな建物と、その傍らに二つ並んだ赤い柱。

 車がカーブを曲がった瞬間、赤い柱に見えたそれが、小さな鳥居だったことに気付く。

「ん?」

 赤い鳥居のそばで、大きな黒い影のようなものが動いたように見えた。

 動物だろうか。

 そういえば近くの山にはクマやシカが出るとパパも言っていた。

「どうしたの、夏帆」

 ママに尋ねられ、私はなんとなく「べつに」と返す。


 しばらくすると車は鬱蒼と木が茂る、薄暗い山道に差し掛かった。

 私たち一家が「乙黒村」に着いたのは、それから二時間近く後のことだった。 

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