帰路
友人に見送られ、別荘を発つ。
紅葉に彩られた峠の景色はなかなかに見ごたえのあり、千紫万紅のコントラストを楽しみながら、相変わらずカーブの多い道に車を走らせる。
途中、大きな椎の木の上に猿の親子を見かける。冬毛をまといはじめた親子が寄り添う姿は愛らしく、なんとも微笑ましい気持ちになった。
同時に、真織の机の上に飾られていた三匹の猿を思い出す。
「あいつも、こういう可愛いのを作ればいいのに」
別荘から二十分ほど走ると、見覚えのない細い道に出る。
カーナビを確認するが、案内された道で間違ってはいないようだった。
首をかしげつつ、別のルートを検索してみようかと道路の脇に車を停めた。
その時――――――――
「わっ!?」
すぐ目の前に、上から何かが降ってきた。
大きな音を立ててボンネットにぶつかったそれは、車のすぐ真横に転がり落ちる。
「な、なんだ……?」
動物を轢いてしまったのだろうか。或いは、鳥が落ちてきたか。
それにしては、やけに固い音がした。ボンネットは無残にへこんでいる。
おそるおそる車を降りて、落下物の正体を確かめ――――言葉を失った。
握りこぶしほどの、肌色の木の塊。
両手をそれぞれ耳の後ろに当てた、木彫りの猿。
真織の作業机に置かれていた、三匹の猿のうちのひとつだ。
それが何故、こんな所に……とっさに周囲を見回す。
すると銀杏の大樹の陰から不自然に丸く黒々とした人影が、暗がりの中で赤々と光る双眸をこちらに向け、じっと私を窺っていた。
全身の血がざっと音を立てて引くのを感じた。
「……っ‼」
あわてて車に駆け込み、エンジンを入れる。
神にも祈る気分で、手汗に何度もハンドルをとられそうになりながら、得体のしれない影から逃げるように元来た道を必死でたどった。
三十分もの間、けものみちのような細い山道をさまよった挙句に見覚えのある峠道に出るまで、全く生きた心地がしなかった。
幸いにも、その後は事故やおかしなものに遭うこともなく、無事自宅に到着することができた。
しかし荷物を車からおろし、ジャケットを脱いだその時。
ふと違和感を覚え、ポケットを探る。
真織がくれた小さな根付がない。
鞄や車の中を何度か探してみたものの、見つかることはついぞなかった。
後にこの時のことを思い出すたび、私は思う。
真織はもしや、私が帰路で「何か」に出くわすことを予期していたのではないかと。
そしてこの小旅行で、あの奇妙な山荘と「活き人形」との長い付き合いが幕を開けたことを、私は後に思い知らされることになる。




