櫻木康太
「チッ、雨か………」
康太は縁側から空を見上げた。確か今日は晴れの予報のはすだ。こんな日は決まって"アイツ"が店に来る。まぁ、"アイツ"はこんな日でなくても毎日店に来るのだが………。それでも康太は憂鬱な気分になりながらも、店を開店させた。
"櫻木屋"は所謂"何でも屋"だ。ピンからキリまでの依頼を淡々とこなし、依頼者から依頼金をもらう。犬の世話はもちろん、部屋の掃除や草刈りなど何でもやる。
だが、店を開業して今年で10年。滅多にそんな依頼は来ない。まぁ、来ないのは康太のせい、と言われても仕方ないのだ。
焦げ茶色の髪に深緑色の瞳。メガネにタバコ。それに三白眼。康太を見たものは必ず「怖い」と避けていく。本人はそれはあまり気にしていない。自分の容姿に文句を言われる筋合いは毛頭ない。康太は今日も、店の広間で寝転がって新聞を読んでいた。
「おじさーん!康太おじさーん!いるんでしょー?」
「(うるさいのが来た……)」
雨足が強くなり、そろそろ店じまいをしようと思っていた頃、元気の良い女の子の声が店の外から聞こえてきた。時計は16時を回っており、康太は重いため息をついた。
「(無視無視……)」
無視を決め込んで、康太は新聞に目を通す。
「おじさーん!お、じ、さーん!」
「……………」
"おじさん"。その言葉が気にくわない。自分はまだそんな年ではない。何度もアイツにそう言った。だが聞きやしない。むしろアイツは
…おじさんはおじさんじゃん!他に何があるの?…
と頑固にいつも自分のことを"おじさん"と呼ぶのだ。康太は重たい腰をあげ、おもむろに店のドアを開けた。
「おい春希。おじさんじゃねぇって何度言ったら分かるんだ」
「あっ!おじさん、やっぱり店の中に居たんじゃない!」
ニコッと笑って、春希と呼ばれた少女は康太を見上げた。少女の名前は内山春希。濃いオレンジ色の髪が特徴なこの少女は、毎日のように康太の店に通う。
「………。だから、おじさんじゃねぇ」
「だって。今更名前で言うのもおかしいでしょ?」
「俺はまだ40だ」
「"もう"40でしょ。それに、その年でまだ彼女もいないの?」
「うるせぇ」
あぁ言えばこう言う。口から生まれてきたのかと思うくらいうるさく、そして蛇のようにしつこい。春希が店に通うようになって二年がたっただろうか。
始めて会った時は、この店の前で雨宿りをしていた。寂しそうな横顔が今でも頭に残ってる。だが、月日が経つにつれ、春希の素顔がだんだんと分かってきた。
こいつは、今までであった人間の中で一番うるさくしつこい人間だ。
「あーっ!またタバコ吸ってる!体に良くないからやめなよって、言ってるでしょ!?」
「うるせぇ、キャンキャン騒ぐな」
「私は犬じゃなーーい!」
大声で叫ばれ、耳の中がキーンとなった。春希は所謂"残念な美少女"だ。濃いオレンジ色の髪は無造作に高く結われており、肌は小麦色に焼けている。胸も大きい。元気で明るくて活発で、だがうるさくてしつこい。残念な美少女、なのだ。
「で、今日は何の用だ」
「そうだ!おじさんに相談があるの!」
「相談?」




