第一話
やぁ、ボクは高井田勲。
今年で45歳になる工場の期間工だよ。
独身で実家暮らし、彼女なんて出来た事も無いけれど、
世の中には迷惑をかけずに生きてる。
母親はそんなボクの事をいつも「偉いね」って褒めてくれる。
そんなボクがいつも通り工場で働いていた時の事だった。
フォークリフト担当の社員さんがボクの近くの棚から
たくさんの金型が乗っているパレットを引き出そうとした時━━
『ガッシャアァァァーーーン!!!』
フォークリフトの爪の位置がズレて、
棚の金型が全部、一気に崩れて来た。
ボクは逃げようとした。
だけどもう、間に合わなかった。
目の前に迫るたくさんの金型に視界を奪われながら思った。
━あ~あ、何にも良い事無い人生だったな・・・。━
こうしてボクの高井田勲としての人生は幕を閉じた。
目が覚めた時、ボクはやけにいつもと違う景色の中にいた。
路地裏のような場所で、やけに視界が低い。
スッと起き出した時、身体が妙に軽かった。
「ん?何だ、コレ?」
そもそも、ボクはあの時金型に押しつぶされて死んだんじゃなかったのか?
不思議に思いながら路地裏から表通りに出た時、
ある店のガラスに映ったボクの姿は、何と形容したら良いのか、
マスコットのような小さな謎の動物の姿をしていた。
「な、何だコレは~~~~!?」
ボクは驚いた。
ボクの姿を見た通行人の人達が、驚いてボクを凝視する。
「何だ、アレ?」「ぬいぐるみ?」「いやそもそも、生きてるのか?」
様々な声が聞こえて来た。
もう、ワケがわからない。
だけど、このままここに居て良いとも思えずに走った。
どこへとはわからないけれど、とにかく人のいない所へ、走った。
すると、その途中で━。
「キャアァァァァ!!!!」
女の人が、露出狂に襲われていた。
「ヒワイダー、ヒワイダー!!」
どうやら露出狂は自分の意思でやっていると言うより、
何かに憑りつかれているようだった。
いや、そもそも自分自身の身に起きた事が飲み込めていない状況で、
この事件性のある場面への遭遇。頭の中がぐちゃぐちゃだった。
そこへ、一人の少女が通りかかった。
中学生くらいだろうか。
無垢そうだけど、正しい事はちゃんと見極められるような、
不思議な聡明さを携えて澄んだ目をしていた。
まだあどけなさの残る口元に、動揺が見られた。
「え、え、な、何!? どうしたの!?」
少女の驚きも当然だ。
この状況、冷静で居られる人間なんて居ない。
だけど、ボクの心の奥からある一つの言葉が浮かび上がった。
(この子だ、この子しかいない!!)
一体何故そのように思ったのかはわからない。
だけど次の瞬間にボクは叫んでいた。
「キミ、魔法少女になるんだ!!
今のこの状況を救えるのは、キミしかいない!」
言っている自分でワケがわからなかった。
だけど、言葉が勝手に自然と口を出てしまった。
少女はポカンとしていた。
そりゃそうだ、ボクがあの子だとしても同じだろう。
「あの、えっと・・・誰、ですか?
ぬいぐる、み?」
当たり前だ。
ボクだってこの子の立場なら、きっとそう言うと思う。
そして何より、ボクがさっき自然と口をついて出た言葉
『魔法少女になるんだ』について、その後の言葉が何も出て来なかった。
「あ、えーっと、その、今のは何か勝手に口から出たと言うか・・・。」
ボクがそう言うと、少女はポカンとしたまま、棒立ちになってしまった。
そうしている間にも、露出狂は女性に近づいていた。
「ヒワイダー、ヒワイダー!!」
「やめてぇ・・ダメ、腰が抜けて動けない・・・。」
ボクはたまらず、飛び出した。
小さな体で、露出狂に体当たりをかました。
━しかし━
「どけー、邪魔だー、ヒワイダー!!」
露出狂に軽く手で払われて、ボクは地面に叩きつけられた。
「ハァウッ!!」
小さな体に人間の力はあまりに強く、ボクは全身を強打した。
「う、うぅ・・・。」
痛みに動けないでいると、少女が駆け寄って来た。
「キミ、大丈夫!?
そこのおじさん、ダメだよ、そんな事したら!!」
ボクを心配しながら、同時に露出狂に一喝する少女。
しかし構わず、露出狂は自らの股間を女性に近づける。
女性の口元に、怒張したソレが触れそうになったその瞬間━━。
「そこまでよ、ヒワイダー!!」
突然現れた白い衣装の少女
白い独特なデザインのワンピースに長い銀髪を携えた、
少女よりも少しだけ大人びた女の子が居た。
手には棒状のステッキのようなものを持っている。
まるで僕が日曜の朝に見ているアニメの魔法少女のようだ。
コスプレ、かな? だって、魔法少女はアニメの中の存在で━━
「ホワイトロッド・プリフィケーション!!」
白い衣装の子は突然、ステッキを振りかざしてそう叫んだ。
すると白い雷撃のような光が男に向かい、男が叫んだ。
「ヒワイダァァァァァッァァァーーーー!!!!」
男の体から、半透明の『H』の形状をした悪魔のようなものが抜けた。
その瞬間、男はドサッと倒れ込み、一瞬、この場を静寂が支配した。
「もう大丈夫。怖い思いをしたわね。
さぁ、お家に帰れますよ。」
白い衣装の少女は優しく女性に声をかけた。
「あ、ありがとうございます・・・。」
女性は不可解そうな顔をしながらもお礼を言い、
小走りにこの場を後にした。
更に白い衣装の少女がボクに話しかけた。
「あなた、魔法少女のパートナーマスコットでしょう?
どうしてその子を変身させないのかしら?」
ボクは頭の中が?でいっぱいになりながらも答える。
「あの、ボクついさっきまで工場で働いてて、
それで、あの、金型が急にガーって落ちて来て、
それで、押しつぶされたと思ったら何でかこんな姿で、
人の目から逃れるために走ってたら、この場面に遭遇して・・」
「え、元人間って事?
そんな事ってあるのかしら・・・。
だけど実際にそうなのですものね。
だったら私が魔法少女の事を教えるから、
二人とも私に付いて来て。
近くのフターバックスコーヒー(フタバ)で
私が教えられる事を伝えるから。」
僕と巻き込まれた少女はただ言われるがままに、
白い衣装の少女に付いて行く事にした。
一体この町に何が起こっているのか。
そしてボクはこの体のままで生きなければならないのか。
色々な不安を抱きながら、ボクはワンチャン、
この少女達とムホホな関係になれる事を期待していた。




