63.悪魔を探すガール
わたし達が大聖堂を離れていたのは一時間弱といったところでしょうか。
行って戻ってくるまで大した時間がかかったわけではないですが、それでも何となくの雰囲気や空気感は少なからず変わっているように感じられます。
「今も不安がないわけじゃないでしょうけど、そろそろ勝ちが見えてきましたもんね。この調子なら、早ければ正午頃までには片付くんじゃないですかね?」
院長先生や聖なる武器を持った騎士さん、普通の武器で奮闘していた兵隊さん達や、無闇やたらと強い民間人。ちなみに最後のは話に聞いていたレイさんのお爺さんらしいです。
彼らの活躍によって凶悪なバケモノが倒される様を目撃した人が次々と避難してきたおかげで、直接その戦いぶりを見ていない人々も希望が持てるようになったのでしょう。
最初はいきなり現れた怪物にパニックを起こしかけていた群衆も、それが人の手で倒せる相手と分かっただけで不安感が薄れるのは自然な心理。無論、そういった強い人達がいない場所で襲われたら大変危険ですし油断はできませんが、こうして避難所として開放されている大聖堂で他の避難者と一緒に固まっている限りは恐らく問題ありません。
せっかく準備してきた建国祭が台無しになったのは残念ですが、早めに敵の掃討が済めば無事残っている資材や食材をどうにか工夫して、祝勝会を兼ねた建国祭の続きをどうにかできないか……なんて、楽しそうな相談をしている声も聞こえてきました。
わたしとしても楽しみが一つでも多いのは大歓迎ですし、個人的にも是非とも応援したいところです。せっかく仲良くなれたことですし、エリーちゃんを誘ってみるのも良いかもしれませんね。
「避難してきた者から馬を借りられたぞ。これで王都を走り回るのも少しは楽になるだろう」
「お、レイさん気が利きますね。二頭いるし二人ずつ分乗する形がいいですかね?」
大聖堂に着いてから姿が見えなかったレイさんは、ここから先の体力温存とスピード向上のため移動手段を確保していてくれたようです。なんと鞍付きのお馬さんが二頭。広い王都を移動するのは思った以上に体力を消耗しますし、少しでも楽になるに越したことはありません。
「ただ人間に戻すだけなら、俺が一人で飛んで回るのが早いのだがな」
「事が済んだ後で野晒しのまま放置するわけにはいきませんし、意識のない人間を回収して回るとなると、どうしても人手が要りますからねぇ」
そんなわけで引き続き我々は四人体制で王都内を巡る形に。
わたしとエリーちゃんは馬に乗れなかったので、クーちゃんと一緒にわたしが、レイさんの後ろにエリーちゃんがそれぞれ二人乗りをする形になります。
こちらの世界では馬は一般的な移動手段ですし、実際これまで馬車には幾度も乗ったことがありますが、お馬さんの背中に直接乗るというのは非常に新鮮な感覚がありました。
「く、クーちゃん、もう少しゆっくり!? 思ったより揺れるね、コレ!」
「はい、どうどう。りっちゃんさん、お馬さんに怯えが伝わってしまいますので……」
「とは言われても!?」
レイさんが借りてきた馬には最初から鞍が装着されていたものの、それはあくまで一人乗りを想定したモノ。強引に二人乗りをするには、すぐ前に乗った騎手の腰に手を回して、頑張ってしがみつくしかありません。
お馬さんも載せ心地が悪いことでしょうが、それでもしばらく歩くうちに少しは慣れて、小走りくらいのスピードなら出せるようになってきました。なにしろ馬の小走りなので、わたしの全力疾走より速いことでしょう。
「あ、いたいた。ちょっと止めて」
情報収集の面でも大聖堂に一旦引き返す判断は正解だったようです。
避難してきた人達の話を聞くだけで、戦闘があった場所をある程度絞り込むことができましたし、ならば後は大まかな当たりを付けて探すだけ。ほとんどの悪魔は既に大きなダメージを負ってロクに動くこともできずにいますし、最初に遭遇した一体を除けば最低でも物置サイズくらいの巨体揃いなので近寄れば簡単に見つかります。
「ふぅ、これで……ひぃ、ふぅ、みぃ……九人目で合ってましたっけ?」
「うん、合ってる合ってる。あと二人だけね」
「そのうち一人は、最初に大聖堂にいた腕が多いヤツですよね? ほら、エリちゃんのせいで逃げられた」
「う……それは、ごめんなさい」
それから更に捜索と処置を繰り返すことしばし。
目撃情報とお馬さんのパワーは大したもので、ここまで労せず悪魔化した少年少女を人間に戻していくことができました。途中で悪魔および要避難者の捜索をしていた騎士団の皆さんに人間に戻した子達の身柄を預けることもできたので、いちいち大聖堂まで引き返す手間も省けました。騎士さんの中にレイさんの顔見知りの方がいたのがラッキーでしたね。
「あと残り二体で、少なくとも片方はレイさんとの戦いのダメージが残ってるはずですし。見つかりさえすれば簡単に片が付きそうではありますけど……」
しかし、ここから一気に進展がなくなってしまいました。
ここまでポンポンと順調に進んでいたのが嘘のような停滞ぶり。
レイさんが空を飛んで周囲を見渡すなどしても、まるで手がかりが見つかりません。どこかで戦闘が起きているような気配もなく、一見すると平和を取り戻したかのようでもありますが、手負いの獣がどこにいるとも知れない状況では王都の皆さんも安心して眠れないでしょう。
「どこかのお店や民家の一室に隠れているとかだと、流石にわたし達が自力で見つけるのは無理がありますからねぇ」
いざとなれば、王様を頼って近隣の兵隊さんを片っ端から動員した人海戦術にでも出る必要があるかもしれません。いえ、よくよく考えたらそこまでしても必ず見つかるとは限らないかも?
「最悪なパターンとして、もう王都の外まで逃げちゃったとか? 悪魔としても、この街がすっごい危険地帯だっていうのは痛いほど分かったでしょうし。ダメージの回復待ちにせよ、ほとぼりが冷めるのを待つにせよ、どこか人里離れた山奥とか無人島にまで行かれたら探しようがなくなっちゃいますからね」
今は不気味なほど落ち着いて兵隊さん達も統制を取り戻していますが、ちょっと前までの街中が混乱していたタイミングならば、騒動に紛れて王都外に逃げるのは難しくないでしょう。その場合、エリーちゃんのお友達が元の姿を取り戻すのは相当に難しくなってしまいそうです。
「あら、なんだか急にお天気の機嫌が……あ、いた」
もっとも、王都の外まで逃げたというのは流石に考えすぎだったようです。
今のこの状況が、それよりマシかと考えると微妙なところではありますけれど。
「なるほど、空を飛んで雲の中に隠れてたんですね。これは見つからないわけですよ」
わたし同様、他の皆も空を見上げて絶句しています。
上空何百メートルか、あるいは更に高い雲の上。
急激に色合いを黒く変えてゴロゴロと音を鳴らす雷雲を纏うようにして、頭部に仮面を付けた黒龍が我々の前にその姿を現しました。
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