62.聖なる武器に憧れるガール
さて、そこから少し時間が飛びまして。
「なるほどね。まさかとは思ったけど、本当に悪魔だったかい」
「いやぁ、本当ビックリですよね。わたし的にはその悪魔を素手でボコボコにしてる院長先生のほうが驚きですけど」
道中での人体実験を済ませた我々は、そのまま元の予定通りに院長先生と合流。
遠目で暴れっぷりを見ていた時からロクに心配していませんでしたが、一人で何体もの悪魔を相手にしておきながらかすり傷すらありません。正直、ちょっと悪魔が可哀想になってくるほどの圧勝だったようです。
「ところで、エリちゃんはなんでそんなに距離取ってるんです?」
「なんでも何も、アンタ達がヘンなことするからでしょ!? それ以上、皆に近付いちゃダメだからね!」
「だから誤解なんですって。脱がせたのは怪我がないか調べるためって、さっき説明したじゃないですか」
ここまでは順調と言ってもよい道程ですが、しいて問題点を挙げるとすればエリーちゃんに酷く警戒されてしまったくらいでしょうか。実験台にした少年を脱がせるのは不可抗力だったにせよ、ちょっと悪ふざけが過ぎたようですね。
打てば響くようなツッコミを返してくれるエリーちゃんの反応が面白く、ついつい調子に乗ってからかいすぎてしまいました。反省反省。
「でも、エリちゃん一人でお友達の皆さんを運ぶのは無理そうですし。倒れてる子達をおんぶするなり荷車か何かに積んで運ぶなりするにも、わたし達が手を貸さないことには無理があるんじゃないですかね?」
「う、それはそうなんだけど……」
院長先生が半殺しにしていた悪魔四体は、我々が到着した直後に人間に戻し済み。
先に回収した一人と合わせて、ここまで五人の少年少女を救うことに成功したわけですが、彼らはいずれも衰弱しており意識を取り戻すには時間がかかりそうです。
わたしが適当に引っ叩いたら神秘の世界樹パワーで回復するのかもしれませんが、今すぐに治療しないと生死に関わるほどの状況ならともかく、倒れて弱っているお友達をブン殴られた際のエリーちゃんからの心象悪化を予想すると強硬するのも躊躇われる。そんなわけで彼ら彼女らには、あえて気絶したままでいてもらっているのです。
「どこか病院とかに連れていけばいいのかな? でも、今はお医者さんも避難してるかもしれないし」
「りっちゃんさん、それなら私達が先程までいた大聖堂にお連れするのはどうでしょう? 私達が来た時にも市民の皆様が避難しに来ていたようですし、大勢の人がいれば中には手当ての心得がある方もいらっしゃるのでは?」
「おっ、クーちゃん鋭い!」
というわけで、目標の少年少女を回収した我々は大聖堂まで引き返すことに。
貴重な戦力である院長先生は、まだ王都内の別の場所で暴れている悪魔を殴りに行ってもらったほうが良さそうですが、聖堂まではレイさんが付き添ってくれるそうなので不安はありません。
わたしとクーちゃん、エリーちゃんとレイさんの四人で計五人の人間を運ぶのは骨が折れそうですが、なにしろ今は緊急事態。どこかのお店で商品運搬用の荷車を勝手に借りるなりすれば不可能ではないはずです。
「ところで、エリちゃん。悪魔になったお友達は全部で十一人でしたっけ?」
「うん、そうよ。これで五人戻したから、あと六人ね」
元々のお友達グループが十二人。
それでエリーちゃん一人だけが難を逃れた形なので計算は簡単です。
早くも折り返し間近ですし、あの院長先生がいる限りは残りの戦闘も楽勝でしょう。
「あれ、何かしら? ほら、あの光ってるの」
「誰かが悪魔と戦ってるみたいですね。この距離だと分かりにくいですけど、騎士さんが持ってる槍がピカピカ光ってるような? ああ、ほらアレじゃないです? お城の宝物庫から引っ張りだした聖なる武器……うわ、かっこよ!」
光る刃という点ではレイさんの魔法とも似ていますが、推定聖槍を持っている騎士さんが武器を一振りすれば、手にしているのとは別の光の槍が周囲の空間にポンポン生まれては悪魔目がけて飛んでいくではないですか。
持ち主の意思によって光の槍は軌道を自由にコントロールできるのか、攻撃に防御にと幅広い応用性を見せています。王様から特別な武器を託されただけあって騎士さん自身の腕も優れているのでしょうが、あの槍さえあれば戦いの素人でも大活躍できそうです。
「か、かっこいい……!」
「ねっ、エリちゃんもそう思うよね! いいなぁ、王様に頼んだら宝物庫に戻す前にちょっと触らせてもらえたりしないかな?」
「そ、それなら私も、その……」
「ふっふっふ、もちろん分かってますよ。わたしとエリちゃんの仲じゃあないですか! エリちゃんにも触らせてくれないか頼んであげますよ」
オカルト趣味とは若干方向性が違う気もしますが、エリーちゃんもわたし同様ああいう武器をカッコいいと感じる感性をお持ちの様子。王様が国宝に触れる許可をくれるか確約はできないので根拠に乏しい口約束にはなりますが、まあ頼むだけ頼んでみても損はないでしょう。修道院の先輩方への良い土産話になりそうです。
「おっと、決着が付いたみたいですね。ちょっと残酷ですけど、ああして光の槍で手足を地面に縫い留めてあれば動けないでしょうし。早く大聖堂にこの子達を届けてから行ってあげましょう」
聖なる武器を貸与した際に王様がちゃんと注意事項を伝えていたようで、聖槍を振るう騎士さんは光の槍で悪魔を拘束すると、そのままトドメを刺さずに次の戦場へと向かって行きました。
同じような武器を持っている人は他にもいるはずですし、この調子なら思ったより簡単に憑りつかれた全員から悪魔を追い出して解決しそうだなぁ、なんて。
そんな風に気を抜いたのがいけなかったんでしょうか。
※今更ですけどタイトルが長すぎて不便なので『テンドク』を本作の略称とします。




