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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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58.過去を知るガール


 一気に解決が見えてきたのは良いとして。

 王様の表情が暗いのは、やはり『本』の内容に起因するものだったようです。



「これを書いた方は、どうやら我々よりも何百年か前の時代にこちらに来ていたようですね。大戦中に南方のジャングルで兵隊として戦っていたそうです」


「ふむふむ」


「激しい戦闘と飢えと病で味方が次々と倒れていく中、それでも生まれたばかりのお子さんと生きて再会することだけを望みに泥を啜って終戦まで生き延びて」


「ははぁ、それからどうなったんです?」


「日本まで引き上げる船の甲板で居眠りをして、気付いたら見知らぬ世界で赤子になっていたと」


「うわ、それはお気の毒ですね……」



 起きた現象そのものは王様やわたしと似たようなものですが、平和な時代に生きていた我々とは帰郷に対する執念が段違いだったことでしょう。わたしは前世では気楽な独り身でしたが、それゆえに日本への諦めが付きやすい面があったのは複雑な気持ちながら否定しきれません。


 まだ幼いお子さんと生き別れ、もうちょっとで再会できると希望が出てきたところで永久に引き離されるのは、それはもう絶望的な心境だったことでしょう。



「その境遇については同情しますけど、でも、それがなんで人間を怪物に変える『本』を書く流れに? そのあたりは書いてますかね?」


「ええ、ここからがまた苦労の連続だったようでして。この筆者の方は魔法の才を持って生まれ変わったそうですが、それゆえに幼いうちから貴重な戦力となるよう強制的に親元から離されて厳しい訓練を課され、今生においても生きるか死ぬかの戦場を転々とする羽目になったと」


「才能が人を幸せにするとは限らないとは言いますけど、いくらなんでも……ですねぇ」



 こうして他の元日本人の転生例をいくつか知ってみると、裕福とは言い難いながらも平和な時代の家族仲が良好な家庭に生まれることができたわたしは、かなりラッキーな側だったのかもしれません。



「そうこうしているうちに、ご本人の知らないところで今生の故郷が戦火に巻き込まれて天涯孤独の身に。別の幸せを掴むことで前の人生との折り合いを付けることも諦め、いよいよ日本に帰って子供と再会することだけが唯一の望みとなったようです。幸い魔法に関する才覚は確かなものがあったようで、訓練と実戦の合間に独学で研究を進め、とうとう敵国から略奪した禁書から異界に干渉する術を見つけ出したらしいのですけど」


「わたしも日本に帰りたいと思ったことは一度や二度じゃないですけど、その執念はちょっと真似できそうにないですねぇ。それで無事に日本に帰るなり生まれ変わり直すなり……って風には、この流れからするといかなかったんでしょうけど」


「ええ、お察しの通りです。件の禁書には確かに別の世界に働きかける方法が書いてあったようですが、望む世界に自由に行けるような種類ではなく、地獄だか冥府だかの世界から悪魔を呼び出して願いを叶えてもらう術だったらしいですね」


「ああ、なんかオチが見えてきた気がしますねぇ」



 どう考えてもハッピーエンドが待っていそうな流れには思えません。

 この手のお話で定番なのは、願いを聞くことは聞くけれど酷く悪意的な解釈をされるとか、代償として命やら魂やらを奪われるとかでしょうか。



「精神生命体である悪魔が現世で活動するためには現地の知的生命体、要は人間に憑依する必要があるようです。自分自身を依代とするのは躊躇われたのか、筆者さんも用心の為に捕らえた捕虜や購入した奴隷、最後のほうは攫って来た民間人を実験台に次々と悪魔を顕現させながら、どのくらいの願いにどの程度の対価が必要かを順々に調べていって」


「うーん、順当に闇堕ちしてる感じがしますねぇ」


「実際、この『本』に書かれている内容も後半にいくにつれて支離滅裂な内容が多くを占めるようになってますからね。具体的に、どこまで正気を保っていたのかは判じかねますが」



 誰にとっても救いがなさすぎるお話です。


 こうして実験を繰り返したからこそ、悪魔を呼び出したり逆に送り返したり。人間を悪魔化させたり、戻したり。弱点や生態など多くの情報が現代に遺されたおかげで今の我々が助けられる形になるのは複雑な気分ですけれど。いや、そもそも筆者さんが要らないことをしなければ最初から今回の騒動は起きていないっぽいですが。



「そうして文字通りに悪魔に魂を売った筆者さんは、まあ予想はできましたけど日本に帰ることはできなかったみたいですね。悪魔達も途中までは召喚者の忠実な下僕のように振る舞っていたようですが、彼らの目的はあくまで現世で活動する肉体と、それから活力源となる人間の絶望を得ることだったらしく」


「そこまでやって、もう望みまであと一歩ってところで『やっぱ無理』とハシゴを外されでもしましたかね? それはまあすごい絶望しそうですけど」


「ええ、概ねその理解で合っています。それで頼みの悪魔に裏切られた筆者さんは、この世界そのものの滅亡を望んで『本』を遺し、最期は失意と怨嗟の念にかられて狂死するに至ったようです。最後のほうのページは文法も何も滅茶苦茶だったので推測混じりにはなりますが、そう大きくは外していないかと」



 あまりにも救いが無さすぎる。

 ナンマンダブ、ナンマンダブ……いえ、見た目思いっ切り異教徒の女に祈られても仏様が困惑しそうですが、もし筆者さんに来世があったのなら今度こそは幸せで平和な人生を生きて欲しいものです。



「まあ、その方と実験の犠牲になった皆さんのご冥福は後でゆっくりじっくり祈るとして、そろそろ目の前の問題への対処を本腰入れて考えましょうか。あの怪物……本物の悪魔なんでしたっけ?」



 悪魔祓いだなんて、そこはかとなく聖女っぽさがありますね。

 思い返してみれば、うちの修道院の初代院長さん、たしか聖ステゴロアさんとやらも悪魔祓いの逸話をお持ちでしたが、もしかするとその悪魔って先程のお話に出てきた連中かもしれませんね。まさか、自分がその真似事をすることになるとは夢にも思っていませんでしたが。


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