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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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56.ガールとミーツするガール


 約四年弱に渡って何だかんだと鍛え続けたこの拳。当たり所によっては打ち込んだ相手がパァンと破裂しかねない凶器を、わたしは思い切り叩き込みました。


 とはいえ、別にこれで敵を倒すつもりなどありません。

 これでちょっとでも黒ローブの怪人が怯んで時間を稼げたら御の字。世界樹汁の薬効も仮面越しでは、ほとんど効果を発揮しないだろうと思っていたのですけれど。



()った!? なんです、この仮面! 鉄板?」



 まず予想外だったのは渾身のグーを叩き込んだ仮面の異様な硬さ。普段から杭や丸太をガンガン殴って慣れているはずの手に、巨大な鉄塊でも叩いたかのような衝撃がやってきました。



「痛ったぁ!? うわ、これってヒビ入ってるんじゃないですかね……」



 まあ痛んで腫れ上がった手は幸いすぐに完治しましたが。

 わたしの骨身に染み込んだ世界樹成分の薬効は、何故だか強い衝撃に反応して薬効が活性化する性質があるのです。未だに具体的な原理は全然分かっていませんが、骨にヒビが入るほどの威力なら治癒力を発揮する条件は十分に満たしているというわけです。すぐ治るとはいえ痛いものは痛いですし、やらずに済むなら極力やりたくはないですけどね。



「おや?」



 おっと、怪我の具合を確認するのは後回しにすべきでした。

 なにしろ今は無駄に腕がたくさんある凶悪な怪人の顔面にワンパン入れたばかりの場面。走り込んだ勢いと体重を乗せてなるべく強めに殴ったとはいえ、腕が千切れかけたり背骨と内臓がシェイクされても平気な怪物相手に大した有効打になるとも思えません。


 一瞬でも怯んでくれたら儲けもの。

 まともに戦うつもりなど最初からありませんし、ここは不運にも巻き込まれた一般人の女の子やクーちゃんと一緒に少しでも敵から距離を取るべきかとも思ったんですが、



『GGII……GYWAAAA……!?』


「あらま、意外と効いてる雰囲気?」



 多腕怪人は悲鳴らしき声を上げながら地面をのたうち回りだしたではないですか。

 手で覆っている隙間からチラっと見えましたが、わたしの一撃は仮面に小さなヒビを入れていたようです。その割れた破片が仮面の奥に隠れている眼球にでも刺さったのか、あるいはもっと単純に仮面こそが敵の弱点なのか。


 思い返してみれば、ここまで与えたダメージはレイさんのビーム剣による腕への斬撃と、院長先生による胴への横蹴り。仮面部分に攻撃を加えたのは、これが初めてだったはずです。もちろん狙ってのことではなく偶然とマグレの賜物ですが、弱点が判明したならやるべきことは一つです。



「レイさん、アイツ仮面が弱点っぽいです! さあ、やっちゃってください!」


「承知した」



 意図せず大ダメージを与えたものの、ここで変に格好つけようと無理をしてはいけません。有用そうな情報は共有しつつ、戦える人にバトンタッチして後は全部お任せするのが正しい判断というものでしょう。


 ようやく駆けつけてくれたレイさんと最前線のポジションを交代。

 あとは未だにへたり込んで動けずにいる一般人っぽい女の子と、ちょっと離れた位置にいるクーちゃん達と一緒に安全な位置まで下がって大人しく見学するのがベストかな?



「ほら、立てますか?」


「あ……」



 腕力的に人間一人抱えて運ぶのは厳しいので、巻き込まれた少女にはなるべく自分で安全圏まで歩いてもらいたいものです。最悪引きずって運ぶくらいする必要はあるかもしれませんが、ほんの二メートルかそこら隣でビーム剣と鉤爪で鍔迫り合いをやっている場所にあまり長居したくはありません。

 怪人のオツムの程度はイマイチ分かりませんが、やたら多い腕を伸ばして女の子を人質に取られたり、そうでなくとも巻き添えで怪我をされたりしては大変です。そう思って近寄って手を差し伸べたのですが、ここで予想外の反応が。



「あのやたら顔の良いお兄さんメッチャ強いですから、あとは任せておけば全部なんとかしてくれますよ。まあ恋愛的な意味で惚れ込むのは正直オススメしませんけど」


「あ、だっ、駄目!?」



 はて、この状況で出てきた『駄目』とは如何なる意味でしょう?


 もう今の一瞬で早くもレイさんガチ恋勢に堕ちていたのだとしたら、それはまあ無理に止めろとも言い難いところです。幸か不幸か、そんな心配はもちろん全くの的外れだったわけですが。



「やめて、殺さないで!」


「なっ!?」



 わたしもレイさんも全く予想だにしていませんでした。

 怪人に襲われそうになっていた女の子は、なんと背後からレイさんにしがみついて動きを止めようとしたのです。わたしの一撃によるダメージが残っていたのか、あるいは推定弱点の仮面を守りながら戦うのに難儀してか、黒ローブの動きは明らかに精彩を欠いていました。あのまま戦いを続けていたら遠からずレイさんが押し切っていたのでしょうが、ここに来てまさかの方向からの不意打ち。



『……WUUU……SSYAA……』


「早く逃げて! 今のうちに!」



 ここで怪人が反撃に出たらレイさんが不覚を取っていた可能性もあったのでしょうが、ここまでの戦いで相当に消耗していたようです。更にはレイさんにしがみついたままの少女の声を聞き入れてか、仮面の怪物は我々に背を向けると脇目も振らずに退散していってしまいました。



「……ええと」



 明らかな利敵行為により凶悪な怪人が逃走。

 状況だけ見れば少女のやらかしたことは疑いようもない敵対行動ですが、見たところ彼女はどう見ても普通の人間です。ここからツノだの牙だのが生えて怪物に変身してくれたら容赦なく叩き斬ることもできるのでしょうが、ただの人間の女の子が相手とあってかレイさんも強硬的な手段を選ぶのは躊躇われたのでしょう。


 なんにせよ、ここに来て何らかの事情を知っていそうな人物が出てきたのです。

 今も街のあちこちで怪物が暴れている最中ですが、ここは少しくらい脅かしてでも知っていることを聞き出さねばなりません。なにしろ先程の少女の言動は、怪人の仲間と疑われるには十分なものでした。それだけで問答無用で拷問にかけようとまでは言いませんが、当の彼女も我々からの緩やかな敵意を察してか元々小柄な身体を更に縮こまらせて……あれ?



「あの、すいません。つかぬことを伺いますけど、どこかで会ったことありますかね?」


「え? 知らな……あっ」



 なんでしょう、妙な既視感がある気がします。

 ていうか、明らかに心当たりがある時に特有の「あっ」が向こうからも出ましたし。


 顔を見た限り、あちらは特別に美少女でも不細工でもない普通の容姿。どこにでもいそうな感じの子ではありますが、流石にわたしの地元や修道院近くの街での知り合いなら気付くでしょう。

 ならば出会った場所の候補は王都内のどこか。こんな一般人(パンピー)丸出しの子がお城にいた覚えはないですし、それなら昨日か一昨日の街中で見たということに。一昨日は服を買ってマー君とボールで遊んだだけですし、昨日のどこかという線が濃厚と考えて記憶を思い返していきますと……。



「もしかして、昨日のお昼にあの黒い格好でハシャいでた子の誰かです?」


「う……その、はい」



 なるほど、既視感の原因はそこでしたか。

 見覚えではなく聞き覚えがあったというわけですね。

 あの時は結局顔を見ていませんでしたが何人かの声は聞いていましたし。


 あの時はオカルト趣味を拗らせたイタい少年少女の仲良しグループだとばかり思っていましたが、現状を鑑みるに実はガチ寄りの悪党集団だったのでしょうか。昨日の揃いも揃って鈍臭い姿が油断させるための擬態だとしたら、その演技力は大したものかもしれません。



「違うの! 本気で悪いことをする気なんて誰もなくて、でも、あの『本』のせいで皆が……」


「ははぁ、『本』ですか。やけに意味深そうに言いますけど、察するにオモチャのつもりで手を出したオカルトアイテムがガチの厄ネタだったとかですかね? それでお仲間の皆さんが変わり果てたお姿に、みたいな? で、なんやかんや一人だけ無事だった貴女は変わり果てたお仲間を元に戻すべく奮闘中、的な? うんうん、ありがちありがち」


「……いや、まあ合ってるけど。全部合ってるんだけど、妙に察しが良すぎない?」


「いえいえ、それほどでもありますが」



 前世で様々なフィクション作品に触れてきたおかげですかね。

 大なり小なり誰でもやっていることではあるのでしょうけれど、既知の類型に当てはめて物事を考えがちと申しますか。そのあたりを詳しく語るわけにはいきませんし、既存のパターンから外れたケースへの対応を誤る可能性が高いので必ずしも良いことではないのでしょうが。



「じゃあ、ほら、チャッチャと要点だけ語ってくださいな。急がないとお仲間の皆さんが元に戻る間もなく、うちの上司にブッ殺されてしまいそうですし? ほら、アレ」


「な、なに、あのデッカいお婆さん!? 本当に人間!?」


「さあ? それに関しては常々怪しいと思ってますけど」



 わたしの視線の先では、院長先生が元気に怪物達を追い回しています。

 なる早で進行しないと本当に取り返しの付かないことになりかねません。

 まあ仮に運良く人間に戻れたところで、被害の程度によっては普通に死刑とかあり得そうですけど。ここで徒に不安がらせて泣きが入ったりしても会話のテンポが悪くなりそうですし、そのあたりにはなるべく触れない方向で。


 そんなこんなで、意味不明な状況もようやく一歩前進。

 我々は王都がメチャクチャになった経緯について少女から話を聞くのでありました。



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