43.ファッションと根性とガール
流石、王都のお店は品揃えが違います。
まあ、よくよく考えたらこの世界の服屋さんに入ること自体が初めてなので、地方との差異に関してはイマイチよく分かっていないのですが、そのあたりは雰囲気で。
わたしの今生でのファッション事情といえば、地元にいた時はお父さんの染物工房でお弟子さんが失敗した布をお母さんが縫ったハンドメイド。修道院に入ってからは言わずもがな。そもそも着る物の選択肢が存在しないというのも実のところ気楽ではあったのですが、これでも一応は女子の端くれとして素敵な服への憧れがないわけじゃあないのです。
「こっちは古着の棚か~……安いのは魅力的だけど、やっぱり人生で初めて自分で服を買うとなると、ちょっとくらい背伸びして良い物をですね。こっちは安いけどデザインが好みから外れる……これは良い感じだけどお値段が予算オーバーかぁ……」
「あの、りっちゃんさん? お金ならボクがお支払いしますから……」
「ノンノン! こういうのはね、自分で頑張って貯めたお金で欲しい物を買うからこそ、手に入れた時の嬉しさが倍増するってものなんだよ。予算の中であれこれ見比べて悩むのも楽しみのうちというか」
「ははぁ、そういうものですか。勉強になります!」
こんな格好つけたことを言ってはいるものの、いざとなればマー君に借金する可能性も視野に入れていたりはするのですが。彼の性格なら貸し借りではなくポンと買ってくれるとは思うのですが、まだお付き合いのほうが明確に始まってすらいない現段階であれこれ貢がせるのは人間として正直どうなんだろう……なんて気持ちもありまして。
それにマー君のお小遣い額については未だに把握してはいませんが、その大元は国民の皆さんの血税のはず。世間知らずの王子様がその重みも知らぬうちに、無闇に財布の紐を緩める一因となるのは何となく気が咎めます。
別に普段の彼に散財癖があるわけではないので、周りの人間がお人好しな性格に付け込んであれこれ買わせたりしない限りは将来的に問題になることもないでしょうが。正体を知る前からあれこれ奢らせて遠慮なく飲み食いしていたのは……まあ、それくらいならセーフのはず。多分。
「新品で既製品のはこの棚で最後かな? これでピンと来るのがなかったら中古も視野に……あっ! これこれ、コレにします!」
「おや、素敵なワンピースですね。爽やかな若草色がりっちゃんさんの金髪に似合いそうです」
「うん、わたしの好みとかサイズが合ってるっていうのもあるんだけどね、これ多分うちのお父さんが染めたやつ」
「なるほど、お義父さんの。実に見事な腕前かと」
「その呼び方は流石に気が早いんじゃないかと言っておくけど……こんな風にお店に並んでるのを見ちゃうと、なんか縁を感じちゃったといいますか」
運命なんて大袈裟なものではありませんが、こんな王都の良い場所にある立派なお店に商品として並んでいるのを見ると、身内の仕事が世間様にキチンと評価されているかのようで嬉しく感じられます。お値段のほうは……よし、ギリ予算内!
そうなれば、早速お店の人に声をかけて試着をば。
「う、お昼食べ過ぎたせいでお腹周りが……なんのっ、フン!」
今は少しばかりウエストがキツめではありますが、そこは気合を入れてお腹を引っ込ませれば大丈夫。うっかり気を抜いてビリっといってしまったら大変ですが、もう少し経って胃の内容物が消化されてくればピッタリのサイズになるはずです。それまでは、わたしの腹斜筋や腸腰筋に頑張ってもらうといたしましょう。
フフフ、お洒落道とはすなわち根性と見つけたり……!
王都での用事が無事に済んだら、修道院までの復路ではこの服を着て帰省するとしましょうか。今度こそお父さんを本格的に泣かせてしまうことになるかもしれませんが、同時に自分の仕事が王都の人達にも評価されてると知って喜んでもくれるでしょう。
その泣き笑いの表情が今から目に浮かぶかのようです。
親を泣かせるのが楽しみでならないとは、まったく我ながら親不孝な娘ですこと。
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