41.和食大好きガール
「うんっっっっ! まっっっっ!?」
なんちゅうもんを食わせてくれたんや、なんちゅうもんを……!
これに比べたら山お……いえ、いくら美味しかったからって他の何かを貶すのはマナー的に宜しくないので今のはナシで。ともあれ、体感十数年ぶりの和食様の威力には絶大なものがありました。
味噌汁の香りで魂が震える。
ナスやキュウリの糠漬けの漬かり具合も絶妙。
それらと一緒にかき込む白米の美味しさといったら、もう言葉にもなりません。
「り、りっちゃんさん? あの、大丈夫ですか?」
「マー君、大丈夫って何が……ああ、平気平気。ただ味に感動して勝手に出てるだけだから。そんなことより、ご飯のおかわりをいただけないでしょうか! 大盛りで!」
マー君や他の皆が心配そうに見てくるのが不思議でしたが、どうやら無意識のうちに滝のような涙を流しつつ満面の笑みで食事にがっつくという器用な真似をやっていたようです。想像すると確かに異様な有り様なのでしょうが、今のわたしにそんな外聞を気にする余裕はありません。
「おっ、このお刺身。これも塩焼きと同じで鯛ですかね?」
「ははは、お目が高い。今日あたり皆さんが来ると思って、今朝の獲れたてを早馬で運んでもらったんです。王都から最寄りの港街までは馬なら数時間で行き来できる距離ですから」
王様のお心遣いが身に沁みます。
そういえば生まれ変わってから海って見たことないんですよね。地元の町も修道院も内陸部で、今回のような機会でもなければなかなか海の近くになんて来る機会もないですし。
「おや、この付けダレは……お醤油とはちょっと違うような?」
「ああ、それは醤といいまして、醤油や味噌のご先祖様みたいな調味料ですね。お刺身用でしたら、煮詰めた米酒に梅干しと塩で風味を付けた煎り酒というのも合いますよ。そちらも後でお持ちしましょう」
「へえ、これだけ色々揃えるまでには大変なご苦労があったんでしょうねぇ」
「ははは、食い意地のなせる業ですな。王都のすぐ近くに実験農場がありまして、そこであちこちの国や地方から取り寄せた植物を育てたり活用法を探したりしているんですよ。表向きは新たな財源になり得る産物の発見と加工法の開発の為ということにしていますが。まだ規模は小さいながら調味料の醸造蔵などもありまして」
そういった努力のおかげで、わたしもこうしてご相伴に与れているというわけですね。
王様も苦労して作り上げた作品の価値を理解できる同郷人の前だからか、嬉しそうにお話をしてくださいます。レイさんのトラウマになっているらしい納豆だけは、他の調味料やお酒が納豆菌で全滅しかねないので現在は作っていないそうですが。
「りっちゃんさん、父上とずいぶん仲良くなりましたねぇ。ボクとしては嬉しいんですけど、思っていた以上というか」
「うん、味覚の好みが合うせいかな? できることなら、わたしのために毎朝お味噌汁を作って欲しいくらいです」
「それはそれは、気に入っていただけたようで何よりです。残念ながら毎日は難しいですが、王都にお越しいただいている間はお好きなだけ作りますよ」
なんだか勢い余ってマー君のお父さんにプロポーズまがいの台詞を言ってしまいましたが、日本ネタが分からない面々には単に食い意地が張っているとしか思われないでしょう。プロポーズしてくれた男の子のお父さんにプロポーズというのは、流石に上級者向けが過ぎますし。
「おや? 皆さんはあまり食が進んでないですね」
ただ、ここまで和食に食いついているのはわたし一人だけ。
まあ無理もありませんが、他の面々は比較的味の想像が付きやすい鯛の塩焼きやほうれん草のおひたしは食べ進めているものの、それ以外の品目に関してはあまり手を付けていないようです。
梅干しを甘い果物と勘違いしたらしいクーちゃんが、予想外の酸っぱさと塩気で目を白黒させていましたし、お刺身に関しては食べているのはわたしと王様の二人だけ。そういう食習慣でもなければ生のお魚に抵抗を覚えるのも無理はありませんが、せっかくの新鮮なお刺身をこのまま残すのは勿体ないというもの。
「あのぅ、院長先生? そのお刺身、食べないんだったらもらっちゃってもいいですかね?」
「やれやれ、ゲテモノ好きがもう一人いるとは思わなかったよ。まあ、アンタなら腹を下しても自分で自分の腹を叩けば治せるだろうけどさ」
我々が修めた毒手モドキは食当たりにも有効なのです。
機会があったら、当たる心配なく生牡蠣食べ放題とかやってみたいですねぇ。
まあ和食の美味しさを共有できないのは寂しいですが、こればかりは無理強いするものでもないでしょう。そんなわけで他の皆さんが手を付けていなかったお刺身をありがたく頂戴しようと思ったのですが……わたしの食べっぷりがあまりに良すぎたせいか、ゲテモノを気味悪く思いつつも少しばかりの好奇心も出てきてしまったようでして。
「生の魚がそんなに美味いのかい? まあ、一回くらいなら物は試しだ。このタレを付けるんだったね……おや! なんだ、イケるじゃあないかい」
まず真っ先に院長先生が。
続いて、その様子を見た他の面々も。
「……へえ? これまで食わず嫌いしていましたけど、いや、反省しました。父上やりっちゃんさんは流石に良い舌を持っていますね」
「ああ、悪くない」
「全然生臭くないのですね。なんだか不思議なお味ですわ」
うんうん、皆がお刺身の美味しさに目覚めてくれて元日本人として鼻が高いです。
素人が適当な知識でそこらの魚を適当に切ったら本当に食中毒になりかねないので、そのあたりの注意事項は後で伝えたほうが良いかもしれませんが……あの、そんなに食べられると、わたしがもらおうと思ってた分までなくなってしまいそうなんですけど?
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