40.ゲテモノとガール
まさに案ずるより産むが易し。
あれほど不安を抱いていた王様との謁見は、とても和やかな雰囲気のまま終了しました。途中から王様とのマンツーマン体制になった時には正直ビビリましたし、その後のアレコレには大変驚かされましたけれど、最終的には良い結果に終わったと見ていいでしょう。
「りっちゃんさん、父上とはどんなお話をされていたんですか?」
「そうだねぇ、いくつか話題が飛んだけど大体は息子自慢を一方的に聞く感じだったよ。マー君、愛されてますなぁ」
「そうでしたか。いやぁ、もちろん嬉しいんですけど少し気恥ずかしくもありますね」
転生云々の事情を馬鹿正直に明かすわけにもいかないので、他の皆にはこのような感じに誤魔化しておきました。さっきまでは日本語で喋っていたので仮に聞かれていても内容が分かったとは思えませんが、まあ一応の用心です。
それに息子自慢に関しては丸っきりの嘘というわけでもありません。
直前までのシリアスめのお話が終わってからは、王様によるマー君の魅力アピールをたっぷり聞かされましたとも。
どうも、わたしが彼との仲を前向きに考える材料を提供するおつもりだったようなのですが、それに関しては王様に反対の意思がないと分かった時点で九割方の問題は片付いたも同然。正直ちょっとできすぎていて逆に怖いくらいです。
それにしても、いくら転生仲間かつ実際に顔を合わせて話したとはいえ、あんなに簡単にわたしを信用してしまって良いのでしょうか。いえ、別にこちらに王族父子を陥れる意図などあろうはずもないのですが。
「ま、小難しいことを考えるのは後でいいか」
死ぬほど緊張したり驚いたりで普段よりカロリーを消費したせいか、もうすっかりお腹がペコペコです。そして何とも都合の良いことに、謁見の間から解放されたわたし及び同行の面々が案内されたのは城内にある食堂の一つ。さっき別れ際に王様が言っていたのですが、ちょうどお昼時とあって我々に特別な昼餐を振る舞ってくれるそうなのです。
「わたし、お城でご飯食べるの初めてだよ。きっと、夢のようなご馳走が山ほど出てくるんだろうねっ」
「うふふ、りっちゃんさんたらヨダレが垂れてらっしゃいますわ。ですが、ええ、私も楽しみです」
クーちゃんと二人でまだ見ぬ大ご馳走に思いをはせていたのですが、ふと周りを見ると他三名、マー君とレイさんと院長先生は何やら困ったような苦笑を浮かべています。
「ああ、そのですね、通されたのが他の食堂であればボクも特に心配はしていなかったんですが……」
「俺も国王陛下のことは心から尊敬しているのだが、その、なんと言ったものか。あの御方にはちょっとした奇癖があってな」
「ま、知ってるヤツは多くないからね。アイツが王になる前からの知り合いと、あとは近しい身内と側近くらいか。やれやれ、今回は『当たり』だといいんだけどねぇ」
困り顔の三人は口々に言葉を並べていますが、今ひとつ要領が掴めません。
ていうか、院長先生が王様をアイツ呼ばわりしてるのは大丈夫なんでしょうか。
「なに、そう深刻な問題ってわけじゃあない。アイツは国王なんてやってるのに料理が趣味でね、それを仲の良い連中に振る舞うのが好きなのさ」
「ははぁ、つまり今から王様の手料理を振る舞っていただけると? それはすごく光栄だと思うんですけど、皆さんの反応を見る感じだと……実は、下手の横好きでメチャクチャ不味いとかですかね?」
「いやいや、腕前そのものは大したもんさ。少なくとも、うちの小娘共よりは達者だろうね。だけど、何故だかアイツには昔からゲテモノ喰いの気があってね」
この口ぶりからするに、院長先生も王様の手料理を一度ならず頂いた経験があるのでしょう。マー君が幼い頃は定期的な治療のために王都まで通っていたそうですし、それなら王様と懇意にしているのにも不思議はありません。
果たして、皆が恐れるゲテモノ料理とは如何なる物なのか。
わたし個人の好き嫌いを問うならば、極端に辛すぎたり臭かったりしない限りは大抵美味しく食べられる大雑把な味覚をしているのですけれど、味や匂いはともかく虫系やグロ系だと正直キツいかもしれません。
「別に全部が全部ゲテモノってわけじゃないですよ。味についても、ちょっと変わってはいても美味しく食べられることのほうが多いですし」
「ただ、たまに凄まじいのが出てくる。あれはいつだったか、腐って糸を引く豆が出てきた時は不覚にも陛下への忠義が揺らぎそうになった……」
「あとは何がそんなに楽しいんだか、魚を生のまま食うことに妙にこだわっててね。腹を下すからやめとけって何度言っても聞きやしない」
腐って糸を引く豆?
生のままのお魚?
軽いトラウマになっているらしいレイさんには気の毒ですが、わたしは記憶の中に何やら引っ掛かるものを感じました。王様が好んでいるゲテモノ料理というのは、もしかして……?
「やあ、どうもお待たせしました」
答え合わせまで、さほどの時間はかかりませんでした。
ニコニコご機嫌な王様と、本当にコレをお客様に出していいのか迷っている風な侍従の皆さんが運んできたのは、実に十六年以上ぶりの再会となる純和食。
お刺身。冷奴。
鯛っぽいお魚の塩焼き。
ほうれん草のおひたし。
梅干しにナスやキュウリのお漬物。
豆腐とネギのお味噌汁。
そして、ツヤツヤと輝く純白の銀シャリ様。
いったい、これだけの料理を作るのに何年何十年を費やしたのか。
モノによっては食材の品種改良や調味料の自作から始めねばならなかったはずです。同じ日本人の魂を持つ者以外には、その情熱は決して理解し得ないでしょう。
他の皆は物珍しそうに眺めていますが、こちらはもう我慢の限界間近。
作り方を聞けないかとか、定期的に食材を分けてもらえないか聞きたい気持ちもありますが、そのあたりは食事の後でも構いません。
「さあ、どうぞ召し上が」
「いただきますっ!」
王様が言い終えるより早く、わたしは顔を料理に突っ込むくらいの勢いで猛然と食事を開始するのでありました。
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【おまけ】
本作の主人公、こんな感じの見た目です




