39.王様とガール
いやはや、すごい偶然もあったものです。
まさか、わたし以外にも日本からお越しの方がいようとは。
それもマー君のお父さんがそうだとは夢にも思っていませんでした。
前にも日本由来の情報を目にした記憶はあったものの、あれは相手の方がとっくの昔にお亡くなりになっていましたからねぇ。
『いやぁ、まさか博多豚骨の人以外にも日本から来た方がいるとは思いませんでした』
『博多豚骨……ああ、もしかして魔物の研究をされてた学者さんですか?』
『ええ、そうですそうです! やっぱり、日本人ならアレは一発で気付きますよね』
自分が発見した魔物に博多豚骨という名の冠を被せた先達のことは、王様もご存知だったのでしょう。件の魔物学者さんも単なる悪ふざけではなく、こうして同郷の仲間を探すつもりでヒントを残していたのかもしれませんね。
『本当に懐かしい。私も日本にいた時は仕事の都合で何度も九州を訪れては、向こうの友人達と博多駅近くの屋台街で飲み明かしたものです。ラーメン以外にも水炊きや明太子やら美味しい物が沢山ありましてね』
『わたしは九州は結局行かず仕舞いでしたねぇ。あ、でも親戚のお土産でもらった通りもんは大好きでした。ついつい一人でパクパク食べて、親に怒られちゃいましたよ』
前世の両親は元気にしてますかねぇ。生まれ変わって最初の数年は、会えないのが寂しくて密かに泣き明かしたこともありましたっけ。
『ええ、ええ、よく分かりますとも。私がこちらに来たのは年号が平成に変わって間もない頃の、もうすぐ定年退職も間近というところでしてね。引退したらアレをやろうコレをやろうと色々予定を立てて楽しみにしていたのに、気付いたら別世界で赤ん坊になっていたんですから。最初のうちは、どうにか元の世界に帰れないかと必死にこちらの文字を覚えて書庫の文献を読み漁ったりしたものです』
『昭和から平成に変わってすぐの頃にこちらに……で、今は六十歳と伺ってますから。わたしがいた時代とは三十年ちょっとくらい離れてるみたいですね。年齢差と合わないのが気になりますけど、なにしろ世界が違うわけですから時間の流れ方も別物と考えるべきなんでしょうね』
『あと何人か地球から来た人がいれば、もう少し詳しいことが分かるかもしれませんが、なにしろ事情が事情で立場が立場ですからねぇ。急に私が変なことを言い出したら国王の乱心を疑われたりするかもと思うと、なかなか大っぴらにご同輩を探すわけにもいきませんで』
異世界間の転生に伴って発生する時間のズレ。
興味は尽きませんが、現在は考えるための材料不足。
そのあたりの謎を解き明かすのは別の機会ということになりそうです。
もっとも、一生その機会が訪れないという線もそこそこありそうではありますが。
『おっと、このまま雑談で盛り上がるのも悪くはないですが、他の皆さんを待たせていたんでしたね。ええと、私は前世では関東某所の農業大学に勤めておりまして』
『あらま、学者先生でしたか。マー君からお聞きしたんですけど、もしかすると子供の頃から農法の普及やら作物の品種改良でご活躍されていたというのは……?』
『ええ、ご明察の通りです。偉大な先達の業績を横取りするようで気が引ける面はあったのですが、こちらの方々に地球の話を明かすわけにもいきませんで。やむなく自分で発見したとか、誰にも読めない古文書を読み解いたとかの方便を用いて周りには納得してもらいました。今から振り返ると、それでも新発見の出どころを怪しんでいる人は一人二人ならずいたのでしょうけどね。真実に辿り着いて証明するのは、それこそ神様か仏様でもなければ無理でしょうし』
いいなぁ、正統派の異世界転生からの前世知識で大活躍!
しかも転生先が一国の王子様ってことで、さぞや順風満帆な第二の人生だったことでしょう……と、そんな感想は如何にも浅はかな素人考え。実際には計り知れないご苦労があったようです。
『後ろめたい気持ちはありつつも、やれ天才だ神童だと褒められて良い気分になっていたのは否定できませんね。たまたま王族という立場に生まれついたからという理由もあるにせよ、こちらの方々にはずいぶん良くしてもらいましたし、その恩返しができればという気持ちで始めたことでしたが……それが失敗でした』
王様の言葉には隠しきれない苦々しい響きが混じっています。
その理由には、まあ何となく想像が付いていたりするのですが。
『……もしかして、マー君の暗殺未遂の?』
『ええ。今生の私には兄が一人いまして、まだ小さな頃には仲の良い兄弟だったのですが、弟の私が王位を継いだことで精神の均衡を崩してしまいまして』
華々しい功績を買われて継承順位で勝る兄を抜かして王座に就いた、でしたっけ。当のお兄さんに前世云々の事情など知る由もないでしょうが、大変なショックを受けたであろうことは想像に難くありません。
『それでも、しばらくの間は何事もなかったんです。私はどうも子供ができにくい体質のようで、もしあのまま世継ぎに恵まれなかったら今度こそ兄が王位に就く目もあり得た。ですが、息子が産まれたことで可能性も潰え、とうとう完全に壊れてしまったのでしょう……まさか、生後間もない赤子を手にかけようとするとは』
その後の流れは以前にマー君やレイさんから聞いた通り。
主犯の叔父は当時の警護隊長に問答無用で叩きのめされ、その後に死刑に。
それから数年後にまたも暗殺未遂を起こした大叔母と、あとどこかの外国の暗殺者とやらも、まあ誰も彼も似たような末路を辿ったことでしょう。いずれも非は明らかに相手にあるとはいえ、親族の処刑を許可せざるを得なかった王様の心痛に並々ならぬものがあったのは想像に難くありません。
なんとも救いのない、やりきれない話です。
被害者のマー君が今も元気に生きていることが唯一の慰めでしょうか。
『私の軽挙が巡り巡って、息子には大変な重荷を背負わせることになってしまいました。今でこそ健康を取り戻してくれましたし、私や城の皆の前では気丈に振る舞っていましたが、小さな子供が遊びたい盛りの時期をほとんど病床で過ごすというのは大変な苦しみだったことでしょう。王である以前に一人の父親として、私はあの子の人生に少しでも埋め合わせをしてやらねばならないのです……っ』
前世含めて人の親になったことがない身には、きっと本当の意味で共感することはできないのでしょう。ですが、王様がマー君の幸せを心から願っているのだけはこれ以上ないほどに伝わってきました。
『そこで!』
『は、はい?』
『話は変わりますが、どうも息子は貴女のことを憎からず思っているそうでして。いえいえ、もちろん権力を盾にか弱い女性に望まぬ結婚を強要しようなどという気は毛頭ありませんが、正直なところ貴女はうちのマークのことをどうお考えで?』
おおっと、そう繋がってきましたか。
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