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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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38.土下座るガール


 王様の前での全力土下座。

 これまで数々のやらかしをしてきた覚えはありますが、間違いなく過去最大にして最悪のやらかしでしょう。もし来世があれば今度はもう少し落ち着きのある性格に生まれたいなぁ……と、早くも今生を諦めかかっていた思考は幸い徒労で終わりました。



「……ぷ、くく、あっはっは! なんとも愉快なお嬢さんだ。マーク、その子が例の?」


「え、ええ、父上! どうです、面白い方でしょう?」



 う、ウケた……?


 わたしの土下座芸は、どうやら王様のツボに入っていたご様子。

 怒る気配などまるでなく、楽しそうに笑っていらっしゃいます。



「やあ、お嬢さん。ずいぶんと緊張させてしまったようだけれど、どうか肩の力を抜いて楽にしてください。別に取って食ったりはしませんから」


「きょ、恐縮ですっ」



 王様、めっちゃ良い人です!


 おかげで命拾いしました。

 いえ、多分誇張ではなく本当に。

 壁際に控えていた騎士さん達は剣の柄に手をかけようとしていましたし、玉座の斜め後ろ辺りに控えている銀髪のオジサマ、顔立ちからしてレイさんのお父さんと思しきイケオジは、懐から抜きかけた隠し武器をしまい直しているようです。


 まあ王様の眼前で急に不審な行動を取った人間相手としては、彼らの判断は至極真っ当なものでしょう。わたしとしても矛を収めてくれたことに感謝こそあれ、文句を言うつもりなど毛頭ございません。



「こほんっ。失礼しました。では、改めまして――」



 一度特大のやらかしをしたことで、緊張していた頭も多少は普段通りの動きを取り戻してくれたようです。わたしは改めて王様に自己紹介と、それから常日頃からマー君に……一応の空気を読んで呼び方は『マクスウェル王子殿下』としましたが、彼が親しくしてくれていることへのお礼を述べました。


 他人行儀な呼び方に距離感を覚えたのか、マー君は雨に濡れた捨て犬のような寂しそうな表情を浮かべていましたが、今だけは我慢してもらうしかないでしょう。後で何かしら埋め合わせでもしてあげましょうかね?



「なるほど、なるほど……皆さん、一人の父親として、息子に良くしていただいたことに感謝します。マークも見違えるように元気になってくれて、こんなに嬉しいことはない。送り出した時は心配していたが、どうやら城を離れて暮らすのは正しい判断だったようだね」


「はい!」



 わたしの後でクーちゃんやレイさんが何ひとつ問題なく王様への挨拶を済ませ(立場的なものか、院長先生はわたしより先に挨拶をしていたようです。緊張しすぎて記憶が飛んでいましたが)、これで全員分の挨拶および初対面組の自己紹介も完了。


 危ういところでしたが、これで最大の山場は乗り切りました。

 この後の予定は聞いてませんでしたけど、できれば早々にお暇して王都観光と洒落込みたいなぁ、と。そんな甘いことを考えていた時期がわたしにもありました。



「……ふむ」


「父上、どうかなさいましたか?」


「ああ、すまんすまん。ちょっと考え事をね」



 謁見は無事に終わったと思っていたのですが王様は何やら思案顔。

 一国の王ともなると庶民の身には想像もできないような悩みや問題を多々抱えているんだろうなぁ……なんて、他人事と思っていられた時間は短いものでした。



「マーク、それとお客人方。警護の皆も申し訳ないのだけれど、少しの間だけで構わないから、余とそちらのお嬢さんを二人にしてくれないかね?」



 はて、そのお嬢さんやらとらはどこのどなた様でしょう?


 おやおやぁ?

 気のせいか王様とわたし以外の皆さんが、謁見の間からゾロゾロ外へ出て行っているような。置いて行かれないように、わたしも一緒に……駄目ですか、そうですか。



「あ、あのぅ?」



 かくして、わたしと王様は何故だか謁見の間に二人きり。

 さっきは寛容にも許していただけたと思いましたが、さては人前で激昂するのを我慢していただけだったりとかでしょうかね。そちらがその気なら、こちらにも土下座のおかわりの用意がありますが。



「どうか怖がらないで下さい。なに、ちょっと確認したいことがありまして。さほどお時間は取らせませんから」



 異様な状況でこちらが不安を感じているのを察してか、王様からはそんなありがたい御言葉が。その気遣いは大変嬉しいのですけれど、一国の支配者と二人きりになる理由など一切心当たりがないわけで……。



『では、改めて。どうも初めまして、こんにちは』


「は、はい、こんにちは…………あれ?」



 今、なんだか大きな違和感があったような?

 ごく普通に挨拶をしただけのはずだけど、もう一度今の会話を思い返すと……あっ!?



『に、日本語!? ということは……あのぅ、つかぬことをお伺いしますけど、もしかして王様はわたしと同郷の方でいらっしゃる?』


『どうやらそのようですね。あれほどの見事な土下座を見て、まさかとは思ったんですが。ははは、前世でよく観ていたテレビの時代劇を思い出しましたよ』



 まさか土下座がキッカケで気付かれるとは。

 まあ、こっちの人は知りませんからね土下座。

 俄かには信じがたいような偶然ですが、十数年ぶりに他人の口から聞く日本語の響きは聞き間違えようもございません。



『日本語で会話をするのは半世紀以上ぶりになりますが、こういうのは案外忘れないものですね。さて、他の皆さんをあまり待たせて不安がらせてもいけません。忙しなくて申し訳ないのですが、ちょっと年寄りの話に付き合っていただけますか?』



 まさか、よりにもよってこんな場所で故郷を同じくするお仲間と出会おうとは。話したいことも聞きたいことも次から次へと浮かんできますが、それは向こうも同じことでしょう。いえ、生まれ変わって六十年ともなれば、話題のタネはこちらの何倍にもなるかもしれません。


 ひとまず、わたしは王様の話に耳を傾けることにしました。


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