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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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24.王子とガール


「あの、マー君? 流石にそれは……」


 お気持ち自体はもちろんありがたいのですけれど。

 わたしの代わりに罰を受けるというのは、いくらなんでも飛躍しすぎというものではないでしょうか。助けていただく立場で思うことではないかもしれませんが、嬉しさよりも困惑が勝るというのが正直なところです。



「マーク、それは駄目だ」



 他の人達も多少なりとも動揺していたのでしょう。途中から黙って成り行きを見守っていた影武者のレイさんも、本物の王子であるマー君に苦言を呈しています。



「院長、如何なる理由だろうとマークを傷付けることがあれば……」



 警告のつもりなのでしょうか。突然、目からビームが出る影武者さんの全身が発光し、同時に応接室の中がまるで真夏の太陽のような熱気で満たされたではありませんか。


 暑い!

 いや、もはや熱い!?

 まだ撃ってこそいませんが、院長先生が万が一にもマー君を傷付けるような動きを見せれば、即座に魔法を放って攻撃するという意思表示でしょう。



「くくっ、小童(こわっぱ)が……」



 ですが、対する院長先生も負けてはいません。

 ソファに腰かけたまま腕組みを解いてすらいないのに、その巨体から正体不明の暴風が噴き出しつつあるではないですか。この人、たしか魔法は使えないって話でしたけど、いわゆる闘気とかいうヤツでしょうかね。

 これまで知りませんでしたけど、人間は拳を極めると肉体から風を出せるようになるみたいです。ビックリするので急に知らない概念を導入しないで欲しいものですが、夏場には扇風機の代わりになって便利かもしれませんねぇ。真似できる気はまったくしませんけど……ではなく!?



「ひぇっ!?」



 まさに一触即発。

 なるほど、いわゆる殺気というのはこういうモノですか。

 また一つお利口さんになってしまいました。本気で勘弁して欲しいです。


 応接室の中は吹き荒れる熱気と闘気で台風の時に窓を開けたかのような有り様。室内のインテリアや窓ガラスがパリンパリンと景気良く割れておりました。


 わたしは向かいのソファに座るマー君の手を掴むと、どうにかこうにかテーブルの下に潜り込んで避難をば。前世の学生時代に経験した避難訓練の成果を実感しますね。問題があるとすれば、今まさに戦いを始めようとする二名の前では木製のテーブルくらいでは盾にもならないであろう点ですが。



「二人とも、落ち着いて! 話の当事者を置き去りにして盛り上がるのは正直どうかと思いますよ!?」



 テーブルの下で床に伏せながら声をかけるも、レイさんも院長先生も聞こえているんだかいないんだか。もしかして、この二人の間では戦いの勝者が自分の意見を通すという方向で無言の了解が成立していたりするんでしょうか。


 魔物の甲殻をも軽々と穿つビーム魔法と、本気で打ち込めば身体のどこかに触れただけで相手を死に至らしめる毒手拳法。果たして、どちらが強いのか興味がないこともないですが、その勝敗によってこちらの運命が左右されるとなればそんな悠長なことは言っていられません。まったく、これだからバトル脳の人達は困ります。



「あっ、マー君!? 今出て行ったら危ないですよ!」



 が、そんな時。

 この事態を招いた原因でもあるマー君が、辛うじて安全地帯として成立していたテーブルの下から這い出して立ち上がったではありませんか。彼の貧弱な肉体では今にも始まりそうな戦闘に付いていくどころか、吹き荒れる熱気と闘気によって窓の外までピューッと吹き飛ばされてしまいかねません。



「大丈夫です。どうか、ご安心を」



 しかし、マー君にこの状況への恐れは見受けられません。

 悠然と立ち上がった彼は、今にもバトり始めそうな二人に向けて告げました。



「二人とも、そのあたりで。レイ、キミの立場上そうするのが仕方ないのは理解するけど、大恩ある大聖女様に恩を仇で返すような真似はしたくないんだ。分かってくれるかい?」


「……承知した」


「大聖女様も、ボクの友人が失礼な真似をして申し訳ありません。ですが、どうかお気を鎮めてはいただけないでしょうか?」


「ちっ……ここはボウヤに免じて見逃してやるよ」



 おお、すごいなマー君。

 特に語気を荒げたわけでもないのに、普通に言葉でお願いするだけで自分より遥かに強い二人を止めてしまうとは。これが王族特有のカリスマというものでしょうか。



「さぁ、りっちゃんさん。どうか、お手を」


「あ、これはどうも」



 続いて彼はテーブルの下で無様に這いつくばっていたわたしに手を伸ばして、そのまま立ち上がらせて、それから……あのぅ?



「ええと、マー君?」


「ああ、失礼」



 失礼とは言いつつも、何故だかこちらの手を握ったまま離そうとしません。ただ優しく握っているだけで、別に痛くはないので問題ないといえばないのですけれど。


 続く彼の発言を聞いてしまっては、とても同じようは思えませんでした。



「りっちゃんさん」


「はいはい、なんでしょう?」


「貴女を愛しています」



 ……はい?


 何を言われたのか理解ができません。

 無表情のレイさんの内心はよく分かりませんが、あの院長先生でさえもポカンと口を開けたまま突然の状況に理解が追いついていないようです。わたし自身、傍から見れば似たようなマヌケ面を晒していることでしょう。


 ですが、マー君はまるで容赦してくれませんでした。



「貴女が好きです。愛する方を守るためなら、この手も足も、命ですらも惜しいとは思いません」



 わたしへの罰を彼が肩代わりしようとした動機は、そんな理由があったようなのですけれど……今ちょっと、それどころじゃないというか。いや、あの、待って待って!?


 だって、今まで全然そんな雰囲気なかったですし?

 ははーん、さては唐突な妄言で院長先生に精神攻撃を仕掛けて動揺を誘おうと……いやまあ、めちゃくちゃ動揺はしてるでしょうけど、わたしの手を握るマー君の瞳はこの上なく真剣そのもの。とても演技とは思えません。


 ということは、つまり?

 つまり……ええと、何がどうなってしまうんです?

 あまりに混乱しすぎて思考が全然前に進んでくれません。


 さっきまで必死に言い逃れを考えていたのに、何故こんな状況に陥っているのか。何もかも分からず、今にも目を回して倒れてしまいそうなわたしに対し……、



「突然こんなことを言われても、ご迷惑でしょうが……りっちゃんさん。どうか、どうかボクと、結婚を前提にお付き合いをしていただけないでしょうか?」



 マー君はトドメとなる追い打ちを仕掛けてきました。


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― 新着の感想 ―
既に決まっている婚約者の悪役令嬢が別流派の達人でバトルになりついでにトーナメントですねわかります。
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